-02.みかちゃんバンド

 俺はギターやベースにストラップとシールドをつけてやり、それぞれアンプに差し込んで軽く音を出してやった。そしてそれをそれぞれに渡していろいろ試してみろと好きに使ってもらうように言った。

 俺は以心伝心で義男たちとリンクした。


『悪い。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな。』

『ん?紀夫か。どうした?』

『実はさっき駅前で美香たちが高校生3人に絡まれてな。』

『何!どこだ?俺も行ってそいつらを叩きのめしてやる。』

『いやいや。俺がそこにいて俺が何もしないはずがないだろ?全員裸に剥いて路地裏に転がしておいたよ。』

『まったく美香ちゃんのことになると見境ないんだから。』

『まあ、そういうなよしおり。でここからが本題なんだけど、今までああいう連中が駅前にうろうろしてたのってあまり見たことなかったんだが、どこのやつらかわかるか?それと商店街にあるハローってスナックなんだが聞いたことないか?』

『それがだれでどこの連中かはわからないけどそのハローってお店のことは聞いたことがあるわ。』

『ああ、紗理奈か。誰から聞いたんだ?』

『先日クラスメイトの女の子が引っ張り込まれそうになったって。そのお店がハローって名前だったらしい。その女の子は大声出して逃げだしたから助かったらしいんだけど。』

『なるほどな。すでに被害が出てる可能性があるな。』

『ん?どういうことだ?』


『そのチンピラ〆てる時に女を連れて行かないと俺たちが〆られるって喚いてたからな。』

『ということはそいつらを動かしている奴らがいるってこと?』

『多分そうなる。まあ、今夜中に片つけとくから心配しないでくれ。』

『おいおい、水臭いぞ。俺たちも行くぞ。』

『いや、大事にするつもりはないからな。静かにこの町からいなくなってもらうよ。』

『…まあ、あまりやりすぎるなよ。』

『ああ。又なんかあれば連絡する。今は美香たちの子守だ。』

『ハハハ。まあ頑張って子守しろよ、じゃあな。』

 俺はリンクを切った。

 そろそろそれぞれが、楽器を選び終わったようだ。


「お、楽器は選んだようだな。じゃあ、お兄ちゃんがまじない掛けてやる。」

 美香は気づいたようだが黙っていた。

「しかしこのまじないは俺にだけしかできないことでな。絶対に人に言っちゃだめだぞ。人に言うと恐ろしいことが起きるぞ。」

 俺はそう言って多少ビビらせながら、次郎君の頭に手を置いて目を閉じた。

 楽曲の構成作曲方法ベーステクニックベースの練習方法などを以心伝心に隠密を使いながらラーニングで学習させた。

 そして次々に他の子にも処置を施していった。

 美香にはすでに学習させていたはずなんだけど、一人だけ仲間外れもなんだし、同じようにおまじないをかけておいた。

 俺はおもむろにギターをもって、シールドでアンプにつなぎ、音を奏で出した。

 それを聞いてた5人はそれに乗っかってそれぞれの楽器を演奏しだした。

 初めはぎこちなくだが、だんだんとテンポも合い、音もあってきた。

 うん。そうそう。いい調子。

 俺は徐々にボリュームを下げ、やがてギターを弾くのをやめてもグルーブは続いていく。

 みんな次にどうすればいいか、勘が働いてきたようだ。


 ドラム、ギター、ベース、キーボード、サックスがそれぞれうまく調和しだした。

 うん。いいね。やがてそれも途切れてしまった。


 弦を押さえたり、ドラムを叩き続けるのって結構しんどいよね。ギターやベースは指先が痛くなってくるし、サックスも息が続かなくなる。

 ドラムの一郎君は明らかに体力不足だ。


「みんな疲れただろう。今日はこの辺にして置いたらどうだ?みんなにその今持ってる楽器はプレゼントするからね。ドラムの一郎君はそこにある電子ドラムをあげるから、家で練習してみなよ。エフェクター類は、徐々に使って覚えていけばいいよ。あとは、それぞれケースもあるよね。電子ドラムのケースはそのバッグね。ピックぐらいは自分で楽器屋で買いなよ。それぞれ柔らかさが違うからね。自分の弾き方にあったものを使うようにしてね。それとやってみてわかったと思うけど、結構体力使うんだ。それぞれ、明日の朝からジョギングでも始めたらどうだろう?学校のグラウンドでもいいね。それと一郎君は特に体力勝負だから筋トレも欠かせないね。ちょっと貸してみて。」

 と俺はドラムに座り、スネアドラムだけで様々なビートを叩き出した。


「こんな風にスネアドラム一つだけでも、いろんなことができるんだ。そういう応用も考えなきゃいけない。バンドのかなめだからね。頑張ってね。それと五月ちゃんは初心者にしてはうまく吹けてたよ。吹き口のリードは消耗品だからね。扱いは自分で勉強してね。あと、ベースの次郎君はどうしても目先のテクニックに走りがちになっちゃうから、リズムキープを心がけて。メトロノームなんかでしっかりリズムを身体に覚えさすのも大事だよ。キーボードの保奈美ちゃんはもっと柔らかく弾くといいよ。ここには誰も間違えたからって怒る人はいないからね。全員が初心者なんだから、落ち着いていろいろ音を足してみるのもいいね。あとはギターの美香だけど。」

 俺は美香の頭をなでながら

「晩御飯食べたら特訓だな。」

 と言ったらみんなが笑い出した。


「じゃあ、みんなを送って行こうか。明日からもここに来るなら親に心配かけないようにちゃんとうちに来ることを伝えておくこと。それと遅くても18時には練習やめて帰宅すること。家でちゃんとご飯食べなきゃいけないからね。勉強も大事だよ。そのうちテスト勉強することがあったら、俺が教えてやれることもあるかもだけど、毎日の積み重ねも大事だからね。しっかり勉強するように。じゃあ、どういう順番で送ればいいかな?」

 俺がそう聞くとどういうルートで行くとスムーズに行けるかを話し合ってすぐに結論が出た。

「じゃあ、みんな帰ろうか。美香は母さんに一言声かけてきて。30分ぐらいで帰ってくるからそれから夕食にしようって。俺もう腹が減って死にそうだよ。」

 俺がそう言うとまたみんなが笑い出した。


 ……大丈夫そうだな。今日のことはあまり残ってないか。

 いや、家に帰ってから思い出すと怖くなるパターンかもな。

 まあ、家で練習して疲れて寝たら、夢も見ないだろう。

 俺はふと思いついて、この5人を【グループ】として設定してみた。

 機能は限定的でいいな。念話なんかはいらないだろうし、それぞれがお互いのリズムに合わせれるぐらいの協調性が生まれればいいね。


 俺はそれから一人ずつ送っていった。

 親御さんにあいさつして、明日からもうちの蔵で練習させてあげてほしいとお願いした。楽器をあげたことに大層恐縮していたが、俺はリサイクル品やジャンク品を直すのが趣味でそういう楽器がたくさんうちにはあって、それを使ってもらってるだけだと答えておいた。置いといても誰も得しない。使ってこその楽器だからね。

 そうやって一人ずつ送って、美香と家に帰った。

 その帰り道


「お兄ちゃん。突然みんな連れて行ってごめんね。俺も私もっていいだして聞かなくて。どうしたらいいかわからなくなっちゃって、お兄ちゃんに任せちゃった。それと、今日高校生に絡まれた時に助けてくれてありがとう。」

「当たり前だろ。妹が困ってるのを助けない兄貴がいるもんか。」

 俺はそう言って家に帰った。

 家に帰ってようやく夕食をいただいた。

 ハンバーガーを食べたろってか?

 そんなの忘れたよ。


 食事が終わってかあさんに今日あったことを話すのと、さっき送っていった子たちの親にも挨拶しておいたことを話しておいた。楽器もリサイクルを俺のアイテムボックスで直しただけなんで、もしお礼だといってなんか持ってきても丁重にお断りしておいてほしいことを伝えておいた。


 さて、美香の特訓だな。


 それから2時間。みっちりとコード進行やフレーズ、まずはカッティングなどを教えて、お風呂に入って寝ることにした。

 美香、おやすみ。


 さて、俺はもう一仕事してくるかな。

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