-02.Witch始動

 気づいたら廊下に人だかりができてる。

 俺たちの演奏が終わるとともに大歓声が上がった。


 よかった。人の心を少しは動かせたようだ。


 負けてられないとホーンセクションが曲を吹き出した。

 これも曲はオリジナルだけど歌詞は丸パクリだ。

 あかりはピアニカで入ってきた。

 都はカホンのままで

 翼がウッドベースを持ってきた。

 じゃあ俺もギターを持ってくるかな。

 俺がガットギターを取り出して、軽音部の前に戻ってきた。

 ボトルネックでギュイーンと弾く。

 俺のブルースハープはしおりが吹くようだ。

 義男もカホンで入ってきた。

 これは坂本九さんの『上を向いて歩こう』だ。

 ただ、歌いだしは、すごく暗い。

 全然上を向けない男の歌なんだ。

 どんどんピッチが速くなってくる。

 それとともに上を向きだす男。

 そんな感じに俺が歌った。


 これも曲が終わると大喝采が起きた。

 軽音部の連中も感動したらしく、部への勧誘がすごい。

 俺は部長という3年生を捕まえて少し話を聞いた。

 どうやら呉竹駅前商店街にあるライブハウスで出演者を募集しているらしい。

 一度オーディションを受けてみないかと誘われた。

 うんうん。こういう情報が欲しかったんだよ。

 次のオーディションは6月14日の日曜日らしい。

 俺は部長さんと携帯番号を交換して撤収した。

「何かいい話あった?」

 としおり。

「うん。呉竹商店街にライブハウスがあるらしいんだけどそこのオーディションが14日の日曜日にあるらしい。それを受けないかってことだった。」

「おお。いいじゃん。受けるよね。」

「もちろん。帰って美智子さんと相談だな。」


 俺たちは会社に帰ってきた。

「「「「「「「「「ただいま。」」」」」」」」」

 と11人が一斉に。

「おかえり。」

 と口々に言ってくれた。


 俺たちは美智子さんに14日のオーディションの話をした。

 すると

「いいじゃない。人前でやるのは練習とはだいぶ違うけど楽しいわよ。」

「俺たちその時には美智子さんが書いてくれたオリジナル曲だけで勝負しようと思ってるんだ。」

「……もう君たちが編曲して君たちの歌になってるわよ。大丈夫。成功するから。」

 母さんたちも

「ライブハウスに出たら見に行くね。」

 と言ってくれた。

 よし、ちょっと頑張るか


「あ、そういや俺たちのバンド名ってなんだ?」

「…まだ決めてなかったね。」

「マジカル・ワールドだから『Witch』なんてどう?」

「いいね。じゃあそれで行こう。」

 こうしてWitchの練習は重ねられていった。


 相変わらずバイクの教習も通っている。

 全員ある程度乗れてきたから土日はうちに来てモトクロスを乗ってみている。

 こういうバイクも好きだとみんな楽しそうだ。

 今度は125㏄ぐらいのモトクロッサーを買おうと話が始まっている。


 またみんなでおんなじバイク買う気か?

 まあ、みんなが同じならメンテナンスも共通だしね。

 不具合なんかも話し合えるから楽なんだよな。


 …俺にはいらない話だけどね。

 アイテムボックスで直せちゃうからな。

 街乗りもできるのならヤマハのセローなんだろうな。250㏄だけどね。

 基本どこのメーカーも今はモトクロッサーで街乗りできるバイクはないんだよね。

 ほとんどが競技用だ。

 けどセローで林道走るのって怖そうだな。

 まあ、みんな運動能力が上がってるし大丈夫って言えば大丈夫なんだろうけどね。


「ねえねえ。のり君ならどんなモトクロッサー買うの?」

 としおり。

 この流れは…。

「う~ん。競技用は持ってるからな。街乗り用ならセロー250かカワサキのKLX230かな。」

「どんなの?見せて。」

 俺はスマホでカワサキのHPからKLX230を表示させて見せた。


「うん。なかなかいいねこれ。後ろに箱つけたらキャンプとかに行けそうだね。」

「こっちがセロー250だな。」

「う~ん。やっぱりカワサキかな。」

「あと街乗りできるオフロードだとホンダのCRF250ぐらいしかないな。スズキは競技用しかないし。これがCRF250」


「う~ん。やっぱりカワサキかな。」

 やばい流れだ…。前回はこの後義男が来て…。

「どれがいいって?」

「よしお、なぜ来た?」

「え?オフロード何がいいかって話だろ?」

「競技用ならいろいろあるけど街乗りなら種類が限定されるぞ。」

「どんなのあるの?」

「これが私の一押しのカワサキ。」

 なぜ見せる…。

「お、いいね。これなら林道走ってキャンプに行けそうだ。俺ならこの緑を黄色だな。」

「じゃあ私はオレンジ…。」


 ……丸っとサクッと一緒じゃねえか!!


 …

 ……

 ………


 え?デジャヴ?

 2台もいる??

 ……オフロードは別物。

 うん。それはわかるんだけどね。


 まだニンジャが届いてもいないよ?

 まだ免許も取れてないんだよ?

 誰か俺の話聞いてる?

 いや、色の話してるんじゃねえ。

 そもそもバイクを2台も買う必要があるかって話をしてるんだ。


 おい、聞け。俺の話を…俺の話を聞け!!



「お…おじちゃん。」

「ん?おぉ。先日ニンジャを買ってくれたボーズじゃねえか。今整備してるとこだぞ。どうだこの色。いい緑だよな。カワサキグリーンっつって昔からカワサキのレーサーはこの緑だったんだ。俺の若いころはこの色にあこがれたもんだ。」

「うん。おっちゃん。今ここで色の話はやめてね、ややこしくなるから。それよりおっちゃんのところ、KLX置いてる?」

「おお、あの奥にあるぞ。なんだ?オフロードも気になっちまったか?」

「うん、そうなんだ。これって乗り出しでいくら?」

「オプションはどうするんだ?」

「オプションは全部つけての価格。」

「そうだな。車体が50万ぐらいだろ。オプションが全部で10万ぐらいか。すると60万だな。こいつは250だから車検はいらねえな。とすると保険と整備費込みで65万ぐらいか。」

「もう少し安くならない?」

「おめえ、この前とおんなじだぞ。63万までなら負けてやる。しかし、この前ニンジャ買ったばかりだろ?免許もまだだって…。」

「9台。」

「ゴクリ。」

「9台買ったら60万にならない?」

「お…お前マジで言ってるのか?」

「う…うん。ほら、そこにいるでしょ。」

 俺は店の外から覗いている8人を指さした。


「お前、ひょっとしていじめられてるのか?」

「おじちゃんもそう思う?俺も最近そんな感じがするんだ。ハハハ。」

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