-01.俺たちに何ができるのか

「そうですね。学校は別に勉強を学ぶだけじゃないと思っています。しかし、俺たちの気持ちの区切りとしてこの夏に行われる高校卒業検定を受けてみようと考えています。」


「そのあとは飛び級制度で大学かね。」

「そうですね。それも一つの手だとは思うんですが、今一つ大学に行く意味が分からないんで、悩んでいます。」


「それは君が起業したことと関係あるのかね。」

「そうですね。無関係ではありません。今ここにいるメンバーは全員頭の中に六法全書が入っているんです。税務知識も学びました。両方とも判例をもっと学べば弁護士試験も税理士試験もパスできる自信はあります。でもそれが面白い人生なのかと考えると俺にはNOなんです。すでにここにいるメンバーは普通のサラリーマンが稼ぐ年収よりはるかに稼いでいます。お金は十分にあるんです。そして最高学府に行けるまでの学力も手に入れました。じゃあ、それでどこに行くのかと聞かれると高校生活にも大学生活にもあまり魅力を感じていないのは事実です。だからと言って高校をやめるつもりはありませんし大学には進もうと考えています。今はそれぞれが学んでできることをやって、やりたいことを見つけてまた努力しての繰り返しです。その延長線上に大学生活があればいいなとは思っています。高校生活は自分たちが高校生だという特権をフルに使って楽しみたいと考えています。今興味があるのは音楽ですかね。点数がつかない世界でどんなことができるのか楽しみなんです。」


「なるほどね。勉強しつくして、お金も稼いだその先にあるものか。なかなか感慨深いものがあるね。本来それを考えるのが高校生活の意味かもしれないね。」

「俺もそう思っています。それと教頭先生。俺たちのやったことを疑うのはいい。けど根拠もなしに嫌わないでもらえませんか?俺たちも人間です。まだ若いですし、間違うことはしょっちゅうです。しかし、人に指をさされるようなことはしていません。そんなうわさを流されたら戦うしかないんです。教頭先生はひょっとして俺たちがしっぽを巻いて逃げる姿が見たかったのかもしれませんがね。俺たちは逃げませんよ。決して恥ずかしい真似はしてませんからね。こうなれたのは僕らの才能と努力の結果です。それを嫌わないでください。」

 俺はそう言って口を閉じた。

 校長先生は黙って19人分のテスト結果を俺に渡してこう言った。

「君たちの努力は素晴らしい。今後も努力し続けたまえ。それを応援するのが我々教師なのだから。」


 ああ、言っちまった。

 努力せずに勉強ができるようになる方法を見つけた俺が言っちまった。

 俺は罪悪感にさいなまれた。


 俺はそのテスト結果を受け取って、校長室を出た。


「よく言うよ。紀夫。」

「申し訳ない。途中で止まらんかった。俺は自分が恥ずかしいよ。」

「でも言ってたことは別に間違いじゃないよ。どの口が言うってのは思ったけどね。」

 と、しおりが言い出した。

「まあ、努力していないわけでもないわよ。あなたは自分の才能をどう使うか、どうやればみんなが幸せになれるかを考えて模索してるじゃない。確かに反則級の力だからずるいのは否定しないけどね。自分の努力まで否定する必要はないわ。」

 と、紗理奈が言ってくれた。

「そうよ。のり君が会社に誘ってくれて勉強教えてくれて、お金も稼がせてもらって、ようやくうちは離婚できたのよ。酔って暴力ばかり振う父親から逃げれたんだもの。私にとってはそれは正義よ。感謝しかないわ。」

 と、あかりが言った。

「まあ、どちらにせよ、さっき言ってた高校卒業認定試験?を一つの区切りにするんだろ?その時まだ学校に居たいかどうかで判断すればいいじゃない。」

 と翼は言ってくれた。

「あがいていればそのうち面白いことも見つかるよ。」

 と都がいう。


「そういえば音楽活動するとか言ってたわね。」

「うん。夏になったら時間もできるだろうし、バンドやるのもいいかなと思って。美智子さんが何やら作曲しているそうだし。」

「じゃあ俺ドラムな。」

 と義男が言う。

「じゃあ僕はベースかな。」

 と翼が言う。

「じゃあ、あたしたちでボーカル?」

「俺はギターがやりたいな。」

 と俺は言った。

「サックスもやりたいしブルースハープもマスターしてみたい。一晩あれば基礎は習得できるしね。問題は。」

 と俺が話しているところにしおりが割り込んだ。

「問題は点数がつかない努力よね。さっき言ってたよね。」

「うん。人を感動させるほどの音楽が俺たちにできるか挑戦するのって面白そうじゃない?」

「うん。いいね。」

「じゃあ私もギターやる。」

 としおり。

「私はキーボードかな。お母さんに教えてもらってるしね。」

 とあかりが言った。

「あと…あと何がある?」

「そうだな。トランペットとかのホーンセクションも面白いと思うし、パーカッションなんかもいいね。」

「みんな一通り学習してから選んだらどう?向き不向きはあるだろうし。」

「なるほどね。じゃあ今日の帰りはさっそく本屋によっていろんな楽器の演奏方法の教則分を買おう。で、夜に学習だ。」


 俺たちは話をした通りに学校帰りに楽器の教則分といろんなバンドの楽譜や教則用DVDを買い、リサイクルショップにも行ってまだ買っていない、いろんな楽器を手に入れた。


 俺たちはそれを学習して自分に合っている楽器を探していった。

 3503号室を仮の楽器練習所として様々な楽器を置いていった。

 そして決まった楽器の分担は

 ギター 紀夫、しおり

 ベース 翼

 ドラム 義男

 サックス 紗理奈

 トランペット 美穂

 トロンボーン 千秋

 パーカッション 都

 キーボード あかり


 …となった。

 この編成を美智子さんに見てもらって、何曲か曲を書いてもらった。

 それぞれが自分の歌いたい曲調をイメージして美智子さんにお願いした。

 詩はそれぞれが書くということで、音源をそれぞれ持ち帰って作詞をそれぞれ頑張った。

 基本作詞した人が歌うことで決まっていた。

 義男が歌うときは俺と義男の楽器パートを入れ替えることにした。

 それぞれの楽器を俺が要望に応えて作り替えた。

 もっとも、形が変えれたのはギターとベースぐらいだったけど。


 マンションに越してきた面々は、夜中まで3503号室で練習しているようだ。

 俺は家に楽器を持ち帰って練習していた。

 千秋はトロンボーンなので家では音が出せないらしい。

 俺は蔵スタジオで夜中まで弾いていた。

 俺はほかにもブルースハープとソプラノサックスも練習していた。

 知識では知ってても、どうやればどんな音が出るか知っててもそれができるとは限らない。

 俺たちはそれぞれひたすら練習した。

 マンションは完全防音なので、アンプを通したギターの音でも外には漏れない。


 そういえば部活もやめたことだし週に2~3日ならバイクの教習所にも通えるんじゃないか?

 俺がそうぽそっと会社でつぶやいたら、カアサンズもトウサンズも興味を示した。

「いいわね。私もバイク乗ってみたいわ。」

「俺も若いころはあこがれたけどずっと工務店の修業で結局免許は取れてないな。」

「いいですね。今では身体能力も上がってますし、すでに学習は済ませてますしね。」

「ということで私たちも教習所に通うわよ。」

 というトウサンズとカアサンズの声にも押されて教習所に通うことになった。

 トウサンズとカアサンズは毎日通うようだ。

 昼間も時間あるしね。

 俺たちは毎晩2時間ほどしか教習が受けれない。

 1日置きに予約を入れて最短6月24日には免許が取れる見込みだ。

 よしバイクの教習も頑張るぞ。

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