4話 価値観の無い世界
4話その1
[すみません他のバイトが忙しくなってきたので、動画広告編集課にしばらく顔を出せません。頑張ってください]
右目を隠したチャラそうな優男、
どこにでもいそうな普通の若いサラリーマン、
しかしいくら考えても答えなんて出る筈も無いので、早急に気持ちを切り替え、仕事を始めることにした。
午後になると表情の変わらない屈強な体を持つサイボーグのような男、
「ん?そういえばそんなことを言っていたな」
「あーそういう時期ね」
士のデスクに置かれた手紙で理解したのか、二人は手紙を読むことなく仕事に取りかかった。
「ちょちょちょっと待って!
平然と作業をする二人に
「私も気になりますけど、一向に教えてくれないんですよ。でも
「俺は全く知りません」
あわらみ?真侍は
「ん?え、まさか店長、
「おおじと?王子様と…みたいな…?」
真侍の発言に彩愛と
あと店長じゃなくて課長です。
「店長が
「この中で唯一中世育ちの俺でも自然と覚えたのですが…」
真侍の無知差に二人はドン引きしていた。
「店長、この中世市は大地都の中で一番広くて栄えているだけであって、一つの都市ではないのですよ。ここを中心として周りに
彩愛の説明を真侍は頷きながら聞いていた。
課長としての勤務や異世界犯罪対策課のことなどで町の常識が完全に欠如していた真侍にとって、この説明はとてもありがたいものだった。
「まあ、栄えているといっても中世は結構異質ですけどね」
「異質?」
「この町はアニメやゲームみたいなオタク文化の聖地だったり、その職業で有名な人の出身者が多いこともあって、それらに関するイベントが結構多いのよ。その反面、それらの文化に同調できない人間はこの町では異端な人だと思われる。言わばオタクが陽キャ、オタクのアンチが隠キャ扱いされているから、この町を出て世間では基本的に逆だと知って驚いた人も沢山いたらしいです」
真侍自身どちらかというとアニメやゲームが好きな人間であったため、学生時代はクラスの脇役のような存在であったが、この町ではそのような人が中心となると知って心の底で歓喜していた。
「とりあえず町の名前と中世市の異質性は教えたから大丈夫ですよね」
「うん、副山さんありがとう」
真侍が感謝の言葉を述べた時には彩愛は作業に取り掛かっていた。
大地都のこともだが、中世市が自分に生きやすい町だと知って踊った心を押さえながらも真侍は仕事に取り組んだ。
「は〜今年も赤かな〜マジで心折れるわ〜」
港が近くにある以外は特に目立った所もない普通の町、現実、沈む夕陽がビルやマンションのガラスに乱反射したこの町で、
そんな彼を見かけて声をかけて来た人物がいた。
「あの〜貴方ら榴咲士君で間違いないですか?」
「…!あんたは…
声をかけてきた優しくも大人しそうな女の子の姿を見て、士は驚いた。
泉過奈、彼女も士達同様、地球の死の神の力を扱える。しかし彼女は戦う覚悟は無かった、そのため彼女と会った大体四年前に能力を私的に使わないことを条件に後の異世界犯罪対策課に入らないこととなったのだ。
「四年ぶりだね…榴咲君」
「泉もあんまり変わんねぇな」
「あれからも異世界転生者と戦っているの?」
「まあな、立ち話もなんだしフードコートでも行こうぜ」
士と過奈の二人はこれまでのことを話しながら歩きながらショッピングモールへと向かった
「相変わらずラーメンなんだね…」
「ラーメン以外飽きたんだよ。あとカレーとか日持ちして量ある物は次の日絶対体調壊すから外内関係なく嫌いだ」
過奈は海鮮丼、士はいつもどおりラーメンを食べていた。
「楽に手に入れた強い能力だけしか価値のない人にならないために、ギリギリだったけど医大に受かってね。講義は難しいけど行ってよかったって思ってる。榴咲君に会ってなかったら今の私はいなかったんだろうなって思ってる」
「俺は関係無いだろ。必死に勉強して自分が選んだ進路に進んだんだ、全部泉の力が成したことだよ」
深く感謝する過奈を他所に士は平然とラーメンを食べていた。
「私さ、あの後榴咲って名前が気になって調べたんだけど、榴咲君のお母さんって…」
「……ああ泉もこれが欲しいんだな」
言葉を遮るように士は銀行のカードを差し出した。
困惑する過奈に追い討ちをかけるように士は口を開いた。
「こん中には300万くらいしか入ってないけどいくら欲しいんだ?その気になれば5000万くらいは出せるけど…」
「お金のことじゃないよ!まさかとは思うけど、家族のことを彩愛ちゃんに言ってないの!?」
「俺はちょっとクレイジーな変態大学生だ。それ以上でもなければそれ以下でもない」
過奈はいつもの自分ではありえないくらい激しく問い詰めたが、士は何一つ感じなかったのか、表情一つ変えることも無かった。
「榴咲君…四年前もそんな一面があったけど、貴方はいつからそんな風になったの?」
「生まれた時からだよ。そんでもってだんだん酷くなってきてる」
士が質問に答えた時、目の色がブラックホールのように見え、過奈はゾッとした。
「とりあえず俺が自分のことでわかってんのは、俺は人を愛することは無い。泉は母さんのこと調べたから言うけど、俺には家族との思い出なんて一つも無いんだぜ」
自虐するように微笑む士の表情に、過奈は狂気を感じた。
「ご馳走さまでした。どうする?家まで送ろか?」
「……先に帰っていいよ?」
「おいおいまだ五月とはいえ女の子を夜中に一人で歩かせるほど最近のオタクは…」
「ごめんなさい、今日はこの後行く所があるから…」
今の士と一緒にいたほうが、自分の身が危険になると思い、過奈は士と別行動を取ろうとした。
「……そうか、じゃあまたどっかで会ったらラーメンでも食いに行こうぜ」
士は席を立つと、軽く手を振って歩いていった。
士がいなくなり過奈はホッとしたが、数歩もしない内に士が振り向いた。
「あっそうそう、泉は大丈夫だと思うけど、能力使って変なことしようとするなら、わかってるよな」
士は笑っていた。しかし片方だけとはいえ左目からはとてつもない殺気が込められていた。
元から気の弱い方ではある過奈は、首元にまで凶器が近づいているような恐怖が襲いかかり、涙が出そうになっていた。
「じゃあな〜」
先程の殺気が嘘であるかのような笑顔になると、士は今度こそ帰っていった。
四年前、能力者だと知られ彼らと出会い、形は違えど誰かを救う力を手に入れる決意をした。
そのきっかけを作ってくれた士にはとても感謝している。
だが殺傷能力がほとんど無い能力と異世界人とはいえ誰かを殺す覚悟が無かった過奈は彼らについて行かなかった。
しかし彼女が一番怖かったのは、怪物と成り果て顔が見えなくてもわかるほどの士から放たれる殺気に心が押し潰されそうになったからである。
泉過奈、彼女を生き返らせた神はウルズ。
心が弱い彼女の人生の道には、死へと繋がる落とし穴が沢山ある。
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