Ⅵ 白銀の駆逐艦 (2)

「――痛たたた……おお! テイヴィアスが敵船を沈めてくれたようじゃな。我らも負けてはおれん。皆の援護に向かうぞ!」


「ああ。とりあえず一つ脅威はなくなった。これで最悪の未来もようやく遠ざかってきたぞ!」


 戻ってアルゴナウタイ号の体当たりを受けた御座船の上では、突然の衝撃と続く爆音に誰もが甲板へと倒れ込む中、腰を擦りつつ起き上がったプロスペロモとイシドローモが、沈みゆくキャラベルを目にしてアウグスト達の加勢へ向かう。


「おお~っ! ハーソン達がフランクルの船を沈めてくれたぞ! あっぱれな働きだ!」


「さすがは正しきプロフェシア教を護る護教の騎士団ですな。見事な信仰心です」


 また、悪魔の力ですべてはフランクル王国の差し金だと思い込んでいるカルロマグノとスシローデスも、その勝利を誤解しつつ喜んでいる。


「羊角騎士団が賊の船を沈めたとな! もしや、エルドラニアを裏切って我らについたのか? うむ。ならば、新たな銃士隊を創設して召し抱えてくれようぞ!」


 かたやルシュリー枢軸卿の方でも、こっちはこっちで賊の黒幕はエルドラニアだと勘違いしているため、全く逆の誤解をして嬉々とした声をあげている。


「キャラベルが沈んだか……だが、こちらはそう簡単に片付きそうもないな……フン!」


 しかし、局地戦での勝利に沸く者がいる反面、おちおち喜んでもいられない者達もいた。


「ガウウウッ…!」


「くっ……動きに追いつけん……防ぐのがせいぜいか……」


 ギン! ギン…! と連続して鳴り響く剣同士のぶつかり合う音……狼のような俊敏な動きで跳び回り、間髪入れずにサーベルで斬りつけてくるファムールの連続攻撃に、ハーソンは防戦一方となっている。


「……っ! ……おまけにこの、なんでも焼き切る疑似魔法剣……さすが、悪魔憑きの狂戦士ベルセルク……そんじゃそこらのまがい物とは格が違うか……」


 またも防御が遅れ、咄嗟に身を引いたハーソンのパレードアーマーを、橙色オレンジに輝く鋭利な刃が表面を溶かしながら傷をつける。


 辛うじて、持ち主に危険を知らせる魔法剣〝スティング〟の力で自身の未来予測能力を向上させ、今のところはなんとかすれすれで退けているハーソンではあるが、その素早い動きには〝フラガラッハ〟の投擲戦法も通用せず、逆に先程のように生まれた隙を突かれてしまうため、いつも通りに戦うことすらままならない。


「このまま闘っても斬られるのは時間の問題だな……やつの速さについてゆくには、こちらも狂戦士ベルセルクになるくらいしか術は思いつかんが……」


 身に纏うパレードアーマーに無数の焼き斬られた傷を作りながら、この劣勢を打開する策をハーソンは必死に考える……と、彼の脳裏になんとなく、以前、〝フラガラッハ〟を握ったままジャンプし、その跳躍力を増加させた時のことがぼんやりと浮かんだ。


「……そうか。その手があったか……この体がついていけるかどうか甚だ疑問だが、今はそんなことも言ってられんからな……一つ、ダメもとで博打を打ってみるか……」


 その過去の経験からある戦法・・・・を思いつくと、ハーソンは〝スティング〟を腰の鞘に戻し、〝フラガラッハ〟一本で改めて構え直す。


「ナンダ人間、二刀デモ無駄ト諦メタカ?」


「いいや。この〝フラガラッハ〟の扱いに集中したいのでな……」


 それを見て、凶悪な笑みを浮かべながら尋ねるファムールの顔をした者に、ハーソンも不敵な笑みを浮かべるとそう言って返した――。


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