Ⅴ 狂乱の御座船(3)

 一方その頃、プロスペロモとイシドローモはといえば……。


「――待てい! 卑怯者! 敵に背を見せるか!」


「逃げるくらいならば、無駄な抵抗はやめて降伏するのじゃ!」


 武器をハァムール達に手渡した大男が戦わずに逃げたため、それを追う形で御座船とキャラベルを結ぶ橋板へと向かっていた。


「自船へ戻ったか……まあ、そのまま船内で留まっていてくれればよし」


「もしや、エジュノー残党はあの偽聖職者だけで、こやつらはただの雇われ水夫か?」


 そしてそのまま、ハーソンの指示通り増援が渡ってこないようその場を守ろうとする二人であったが、誰も渡ってこないどころか、さらにキャラベル船は不審な動きをし始める……。


「帆を下ろせーっ! 錨を上げろーっ!」


「……ん? なんと! 船ごと逃げるつもりか!?」


 渡した橋板もそのまま海へ落ちるに任せ、素早く帆を張ると急に動き出したのである。


「微速前進の後に反転! 距離をとって砲殻を開けーっ!」


 だが、続いて船体を旋回させたかと思いきや、こちらが乗り込んでいけないくらいの程よい距離を保ち、弦側の船板に四角い無数の穴を開けると、中からは黒光りする鉄製の筒がその顔を覗かせる。


「あ、あれは砲門!?」


「ま、まさか、砲列甲板を隠してたのか!?」


 それを見たプロスペロモとイシドローモは、目を皿のように見開いて驚きの声をあげる。


 なんと、偽預言皇庁使節のキャラベル船は非武装であるように見せかけていたが、その実、通常キャラベルのような小型船には設けられない、重武装ガレオンと同じ砲列甲板(※大砲を並べた船体内の甲板)を密かに装備していたのである。


 旋回し、再び砲門の並ぶ弦側を向けたこの動き、全門一斉砲撃をしようとしているのは火を見るより明らかだ。


「ば、バカなことはよせ! この船には味方も乗っておるのだぞ!」


「復讐心に取り憑かれた輩にそんな道理はきかん! やつらは味方もろともこの船と陛下や枢軸卿達を葬るつもりじゃ!」


 このことにはハーソンはじめ、御座船にいる者はまだ誰も気づいていない……唯一、その危機を知る二人は慌てふためくが、今さらもう後の祭りである。


「み、みんな、逃げろーっ! この船は砲撃されるぞーっ!」


「腹に穴が開けば沈むぞーっ! 巻き込まれんよう早く脱出するのじゃーっ!」


 イシドローモとプロスペロモは真っ青い顔で背後を振り向くと、各々の戦いでそれどころではない者達に大声を張り上げて注意を促した――。

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