Ⅲ 疑惑の使節(1)

「――見えて来ましたな。さすがは我らエルドラニアの艦隊、これを目にしてはやはり襲撃など不可能に思えてきますがな……」


 帆をたたみ、前方に整然と並んだ重武装ガレオン船五隻の巨影を眺め、アウグストが感嘆混じりに呟く。


 ほどなくして、大陸添いに北上していたアルゴナウタイ号も、合流地点であるフランクル王国との領海境へと到着した。


 そこにはすでに魔術強化カノン砲を大量装備したケートス艦隊のガレオン船が、ルシュリー枢軸卿を出迎える準備を整えている……その光景の前には、先程まで感じていた不安も一気に吹き飛んでしまう。


「確かに。これでは相手も艦隊を用意しない限り、正面から力業とはいかないだろうな……が、油断は禁物。プロスペロモ達の予知が確かなら、何かその未来へと繋がる落とし穴があるということだろうからな」


 しかし、目の前の現実よりも部下達の能力を信じて、ハーソンは改めて注意を皆に促した。


「……あ、来ましたぁーっ! ルシュリー枢軸卿の船と思われまーす!」


 アルゴナウタイ号もその場に錨を下ろし、周囲の海に気を配りながらしばしの時を待っていると、檣楼に登る伝令役メッセンジャーのイーダスが前方を眺めて声を張りあげる。


 上甲板に立つハーソン達も前方を望めば、一列に並んだケートス艦隊のガレオン船の向こう側に、こちらへ向かって来る同じく艦隊の船影を認めることができた。


 それぞれの船の大きな横帆には、〝左右に天使を従えた王冠を頂く神の眼差し〟というフランクル王国の国章が描かれている。


 次第に大きくなってくるその船団の中心には、いかにも芸術の国フランクルらしい瀟洒な金細工の施された一際美しいガレオン船が、四方を護衛艦に囲まれながら優雅な姿を見せつけている……そこにルシュリー枢軸卿の乗っていることは明らかであろう。


 やがて、停止したフランクルの船団の甲板に高官らしき者が現れると、やはりこちらのガレオンに乗る提督となにやら挨拶を交わし、ルシュリー枢軸卿の船だけが再びこちらへ向けて動き始める。


 ここからはエルドラニアの領海であり、以降、紛争の火種となることを避けるためにフランクルの護衛船はついてこられないのだ。


「さて、いよいよだな……鬼が出るか蛇が出るか。さあ、どう仕掛けてくる? ……よーし! 錨を上げろ! 船を180度反転! 我らは艦隊に並走して警戒に当たる!」


 〝神眼差しと護教の十字剣〟の描かれた横帆を旋回とともに広げ、ルシュリーの船を囲む形でゆっくりと動き出すケートス艦隊を見やりながら、ハーソンは不敵な笑みを浮かべて独りごちると、素早く団員達に指示を飛ばした――。

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