明かない夜

8-1


〜過去の欠片 魔王討伐の旅の途中〜


皆が眠っている夜の森の中、私は寝付けずにいた。

起きてみると、たき火の前に1人座っている人が見える

ゆっくりと起き上がり、私はその人へ近寄る

「……君か、どうした?」

彼は私が近づくのに気づいて振り向く

「いえ、あんまり寝付けなくて……」

彼は何かを察して何も言わず納得する

「貴方も同じなんですか?」

「いんや?僕は夜ふかし気味夜に活動する方でな、むしろ君達よりも遅い方だ」

わぁ、こんな時間でも起きれる人っているんだ……

その後、数秒の間が空いた

この気まずい間に耐えきれず、彼に問いかけた

「ねぇ、貴方は魔王を倒した後どうするの?」

彼はため息をついて答えた

「ここに来たばっかの人に聞くか?それ」

「あはは……」

そう言われてみれば、野暮な質問だったかもと思ってる

「まぁ無いと言えば嘘になるがな」

「……?」

彼は小枝をたき火へ投げて続ける

「そもそも人間ってのは欲を持って生きてる、それを持たない人間ってのは何を持っても、何をしても必ず中途半端になってしまう」

彼は小枝を持ち、地面に円を描いた

「この円が人の欲望だとする、それが元々ないとなると……」

「心の中に空白がてきてる?」

彼は「そっ」と言って小枝を私へ向けてから、炎の中へ放り込んだ

「心ってのは当人の自我とか意識とかじゃない、い事をしても必ずどっかで「悪い事したかな?」と思う所も生じる、要はってもの」

……だんだん眠くなってきた

「だから俺にもこれが終わったらやることはあるんだ」

薄れていく意識の中、彼は穏やかに語る

「俺は………」

私はここで話を聞く姿勢のまま意識を失った



直の話を聞いた。

あの日ヒロが何をしていたのかも知った、そして私はあの時皆がヒロの映像を見て睨んでいた理由が分かった途端

「どうした、泣いてんぞ」

「え?」

いつの間にか涙が出てました

マキナと直にハンカチを渡されたり、ティッシュを渡されたりされたから、涙を拭い鼻をかんでいると直は立ち上がる

「悪い、俺まだ予定があるから、話はまた後でな」

この様子だと忙しそうと思っているけど、一体今は何をしているのだろう?

「あの、直さん」

「直でいい」

「直は今、何をしているの?」

その質問に直は一瞬だけ、本当にほんの一瞬だけ間を開けてから答えた

「ここでの情報では掴めない、国が隠蔽した情報の真偽を確かめるための斥候……わかりやすく言えば、確認と調査を仕事にしている」

マキナは「つまり情報の辻褄合わせか」と言い、直はそれに答えるように左手の人差し指と親指を立ててマキナに指差す

「だからトラディスにいたんですね」

直は「ああ」と頷きつつ、懐からメモを取り出して何かを書き出す

「今書いているのは、俺が言える最大限の警告だ」

「……?」

警告?何の?

突然の警告の書き出しで反応に困ったが、直から見て私達は守るべき人として見ていたのだけは理解できた

「ほいっ」

直が書き終えると私へメモの1ページを渡す

受け取って書いてある内容を見てみると、こんな事が書かれていました


青白の腕に気をつけろ、死神が潜んでいる


「?」

謎の1言に困惑し、私はこのメモをマキナに見せた

「何々……何これ?」

「警告だっつってんだろ、もう行くよ」

そう言って直はこの部屋を後にした

私達もこの場にいる意味がないと思い、街へ出ることにした


城下街

国王達との会議が終わり、直から話も聞けた

ここまですごい事になっているのは驚いたけど、啓が全てを終わらせても尚何かをしている事に疑問を抱いていました

「あいつ、何処で何をやってるんだか……」

マキナもほぼ同じ気持ちみたい

「私達の記憶を消してまで何かをしようとしてるのは何となくわかるんだけどね……」

そう言って街の店を見た

その時、店の窓の反射から私達を見ている『何か』がいた

ボロボロのマントに全身を包んでいて全容は見えないが、私達に向いていると言う事実に何か違和感を感じていた

そしてマントの人が右腕を私達へ差すように伸ばすと、目に映ったのはだった

「マリー!危ねえっ!」

マキナが咄嗟に私を抱き付きながら近くの店に入ると、ガントレットから爆発のような音と、小さい何かがすごい速さで飛んでくる音が同時に、且つ連続で響いた

「(マキナ、これって!)」

「(しっ!今は黙った方がいい!)」

そんな長く連続した音が鳴り響いている中、マキナに抱きつかれながら店の中に何かないか見渡す

近くの棚にガラス瓶がずらりと並べられている、恐らくここは道具屋だからもしかしたら……

そう思って同じ棚のガラス瓶を見てみる、よく見ると1つだけ商品名の横に手書きで『火気厳禁!!』と書かれたポーションがあった

「(これなら……っ!)」

私は這うように向こうの棚へ移動する

「(おいっ、マリー!)」

マキナが私を止めようとするも、私が向かう先の棚を見て何かを察して動きを止める

私はすかさず目的のポーションに手を取ると、鳴り響いていた音が突然止まった

「……銃声が止まった?」

マキナが窓からマントの人を見ると、何かに気づいてこっちに来るよう手をこまねく

マキナの所へ来ると今度は窓の外に指差す

私はゆっくりと視界だけを確保するよう窓の端から覗いてみると、マントの人がガントレットに何かをしているのが見えた

「マキナ、あれってもしかして……」

「ああ、多分弾として使ってんの魔力じゃない」

そういう事なら尚更このポーションが必要性が強まる、魔力以外の物であそこまで飛ばせれるなら、飛ばす方法として爆発の勢いを乗せて連続で放っている事になる

なら、尚更あの腕をどうにかすれば問題はなくなる。私がこのポーションを投げ込んで、その隙にマキナと挟み撃ちの形を作ればいい

私がマキナに見える様にポーションを見せると、マキナは頷く

「(お前は向かい側に行け、俺はドアを囮に使う)」

私はそれを聞いてなるべく音を立てずに窓端の向かい側へ移る

お互いの準備が整うと、マキナはドアを強く叩いて開ける

マントの人はそれに早く気づいてガントレットを向けて少しだけ発砲する

「(今っ!)」

そう思って私は窓からマントの人へ向けてポーションを投げつける

マントの人はドアに気づいたのと同じ反応速度で腕だけポーションに向けて発砲する

ポーションは空中で割れ、中身が出てくるのと同時に爆発を起こす

「……っ!」

マントの人は爆煙で見えなくなったのか発砲を止める

「(今だっ!)」

私はその瞬間を逃さず窓から身を乗り出し、爆煙の中へ走るが……

「……っ!?」

爆煙の中、脳裏から電流が走る

私の目の前には立って走った結果、弾丸を食らって倒れる自分の幻が見えた

「(このまま立って走ったら……いけない!!)」

「こいつっ!」

マントの人の声で私は気を取り直し、前屈みでマントの人の横を通り過ぎる

「右だとっ!?ちいっ……!」

煙が晴れると、マントの人がガントレットを私に向けていた

後ろからは挟み撃ちにしようとマキナがお店から出ようとしている……と思ったら

「おらぁっ!」

お店の扉を無理矢理外してマントの人へ投げ飛ばした

「何と!?」

マントの人は振り向き、咄嗟に右腕で防いだ

「マリー、大丈夫か!」

マキナの言葉を聞いて無事を確信した私は

「うん、でも挟み撃ちにはできたっ!」

そう言ってゆっくりと立ち上がる

立ち上がる最中、マントの人を見ると、右腕で防いだ際に歪んだガントレットを見ていた

ガントレットはくの字に歪んでおり弾丸を放っていた箇所からは、中に仕込んでいたのか4つの銃口がひし形に並んでいたのが見えた

「お前、何故こんな事をする!」

マキナがそう叫ぶと、マントの人は何も言わずガントレットを見せびらかすように出したままにする

答えは出さないのは何となく分かってた、でもマキナが確認のためにこう言ったのだと思い、彼の背後から羽交い絞めをしようとゆっくりと近づく

無言ノーコメか、何か言ったらどうだ?」

マキナも、私の立ち回りに合わせるようにゆっくりと近寄る

マントの人は何も言わずその場で留まっている

今だと思い、私は彼へ走り出す

マキナは、走り出した私を見て同じ様に彼へ走った

お互いマントの人を止めるためだ、そして私は1つの誤算をしていた

彼が何者で何なのかの目算を、何一つしてなかった事を

マントの人は歪んだガントレットをマキナに見せつけるように向けると、突然装甲が爆発した

爆発したのか、外側の歪んでいた装甲がマキナ目掛けて飛んでいく

「チィッ!」

マキナは咄嗟に右腕で払うと、装甲は明後日の方向に飛んでいった

私の方は、彼を捕まえられる一歩手前で飛び込むと、掴もうとしたはいいもののマントだけしか掴めなかった

それを言うのもそうで、あれは………いや、は掴まれる瞬間にマントを脱ぎ捨ててから、右手にナイフを逆手で持ちつつ私の首を捉えており

左手には先端にナイフを点けた長物をマキナの腹部に向けて構えていた

風で大きくなびいていたマントが地面に落ちきると顔が見えてきた


………私は、あの日から何故か嫌な予感がしていた

詳しく言ってみれば、全身から危険が伝わりっぱなしだった

だから襲撃してきた人が何となく分かっていた、

ここまで突然なのに、まるで先回りをされたような手際の良さと、単に記憶にないと思うけど私が見たことがない武器

そして、直から国王へ渡った啓からのメッセージ……

それらからわかるのは、この襲撃は王国の関係者でも魔王軍の仕業でもないこと

だから理解してしまった、誰がのかを

マントが取れて顔がはっきりと見え、その顔に驚きを隠せずにいました


――――襲撃したのが『御崎・啓』本人だったから


「何で……?」

私は、あまりに衝撃的な事実に頭が真っ白になっていた。

「ねぇ啓……何がどうなってるの?」

今言った事もほぼ無意識に近い、そのくらい私は彼に対して思う所があった

「教えてよ、何があったの……?」

それを聞いて啓は、何も言わずナイフを下ろす

けど長物は下ろさずそのままにしてあるから、何か言うだけなのでしょう

そう思ってると、予想通り啓は言い出した

「お前に言うことはない」

やっぱり、と内心思って言い返そうとしたら

「と、言いたい所だったがな」

「?」

あっ……あれ?警戒されてない?

「いやぁ、あんな事になるもんだからちょっと様子を見に来たら……」

啓はそう言いながら構えを解き、私に指を指す

「君を見かけちゃってよぉ……」

「へ?ちょっ……えっ?」

私は、彼の突然の行動と言動に反応できずにポカンとしていて、彼の後から聞いていたマキナも、私と同じくあ然としていた

「そんでちょーっとちょっかいかけようとしたらこれだ、お前ら魔術禁止縛りしてんじゃないんだからもっと使えよ使えよ!!5本の指先から炎を同時に放ったりとかさ!」

彼の話に頭が空になって聞いていると向こうから直の声が聞こえてきた

「おーい!大丈夫かーっ!」

その声を聞いてやっと我に返り、振り返って問いただす

「あの、直さん?これは一体……」

たどり着いた直は答える

「やっぱそうするだろうと思ったよ」

そう言いながら啓に向けると、先程マキナが凹ました装甲を悔しそうに見ていた

彼が話すに、どうやら彼が私達へ来たのは単なるちょっかいで、別に殺意があってやった訳ではないとすぐ理解できた

「よかった……」

正直あの場であんな事を起こしてどうかしていると思っていたが、彼なりのすき……何とかなのかな?多分挨拶みたいなものなのでしょう

そうして安心して膝をついていると、ヒロがこちらへ来て手の平を差し出す

「ひさっ……んんっ」

何か言い間違えそうだったのか、咳き込んでから言い直す

「はじめましてだな、マリー・メイドレス」

私はゆっくり手を差し伸べるとヒロから握り締められた

「それ、何度目だと思ってます?」

「何、そんなのすら忘れたのかよ」

そう言われてキョトンとしていると、微笑みながら答えた

「途中から数えてないから、俺も忘れちまった」

あらら……テンションの起伏から何となく察していたが、ヒロも忘れてたのね

なんだか殺し殺されの関係じゃないかと思って強く警戒していましたが、あまりのギャップ差に反応が追いつけないや

でもこれだけは言える

「このやり取り、まだ続きます?」

ヒロは苦笑するだけで何も答えなかった


続く

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