0-ルートB 終わりから来た黎明

物事の発端はいつも通りの日常から始まる


10月17日 15:30 仕事場

「御崎さん、ここからは私がやるのでどうぞ休んでください」

俺の名前は『御崎 直』御崎家次男で今年で23になる、過去がちょっと歪んでいるだけのただの人間だ

俺はいつも通り仕事先の清掃の仕事をしていると、上司から突然の休憩を言い渡された

「え?いや突然言われても作業止められませんよ」

そう遠慮しても「いいからいいから!!」と無理矢理押し切られて休憩室で休むことになってしまった


15:33 休憩室

「はぁ……あの上司は一体何を考えてんだ、普通なら人を頼るだけ頼りっぱにして、自分は書類とにらめっこするだけなのに……」

そう言って缶コーヒーを飲み、ため息をつく

「そもそも、周りが苦労してる中で休むのは自分としては許せないんだよ……クソッ!」

飲み干した缶コーヒーをゴミ箱へ投げるとゴミ箱に当たって4~5回転してからゴミ箱に入る

「はぁ……何か起きなきゃいいんだが」

そう言っていると扉から上司がやってきた

「御崎さん」

ほら、何かやってきたよと思って上司へ向き、いつも通り明るめな表情で答える

「何でしょう?」

「私達ができる作業全部終わっちゃったみたいなので、帰っても大丈夫になりました」

…………はぁ!?

「はい?今なんと?」

上司からの突然の言葉に俺は思わず聞き返す

「いえ、できる事全部終わっちゃったので、帰宅できるように……」

「いやそうじゃなくて」

全く同じ返答を食い気味に止める

「いつ何が起きてもおかしくないのに帰るのはないですよ!!」

「いやでも帰れるのは良いことじゃないですか」

上司は何の躊躇いもなく真顔で答えた

……そうだった、この上司は平気でとんでもない事を言うんだった

しかし、後悔する時間はないし、むしろその時間を別の所で使いたい

「はぁ……じゃあお言葉に甘えて帰りますので、何かあったら連絡をお願いします」

上司は「わかりました」と言って部屋を出た

そして支度をしてから家に帰る事にした


御崎家 16:00

俺の家族は見ての通り普通の家族だ、家族構成としては父・母・長男・俺・三男の5人家族だ

不自由はある程度あるものの、それ相応の幸せを得て暮らしている

「ただいま」

玄関を開けて家に入ると、最初に言ってきたのは母からだった

「おかえりー!今日は早かったねー」

「あの上司が突然やることなくなったから帰っても大丈夫なんて言い出したから、普通に帰ってきただけだ」

次に来たのが弟だ

「おかえり」

「ああ、ただいま」

その次に父だが、父は今日も暇してるのか、パソコンの動画を背に俺に向く

「おかえり」

その傍らに開けた後のビール缶2つと左手に1本持っていた

「親父まーたこんな時間に……」

そう、またと言うのは今日もと言うもんだ

この父また暇して酒飲んでる

「酒は大事」

父はビール缶を頬に当てて答える

こんの酒豪め……とは口が裂けても言えないな

「まーたお昼にプシュって音を聞かせるもんだから私もこんにゃろーって思っちゃったよ」

母も呆れた様子で話す

兄は……自室で友人と通話してるか、放置でいいだろう

「直兄、ソシャゲの新しい情報があったぞ」

そう思っていると弟……『御崎・啓』が俺に近づき、スマホを見せる

俺はそのスマホを見ると、画面にはソシャゲの新しいキャラクターがガチャに登場したと言うお知らせが出ていた

お知らせをタップして内容を見ると何とびっくり

健気そうな10歳ちょいの年齢のかわいい女の子が登場していた

……いやマジか、性癖に刺さってる訳じゃないが、俺こんなのには弱いんだよ

手で目を塞ぎ上を見上げる姿勢に啓はやれやれと言わんばかりに目を逸らす

「でもガチャかぁ……俺運だけは自信ないんだよなぁ……」

「なぁに、もし当たったとしても何のばちもないさ」

啓は少々にやけて言う

いや……お前も大概だぞ、この前だって、ガチャで3回連続で大当たりをするもんだから「俺は外には出んぞ」なんて言いいながら布団の真ん中で大の字で寝るもんだし、埒があかないと思ってテレビをつけてみたら高速道路で大事故の報道が出てきて苦笑せざるを得なかったよ

あいつ、見えない物の流れを変に見切ってる所あるからなぁ……侮れん

ばちあっても文句がない人に言われてもなぁ……ま、やらない後悔よりはましか」

俺は自分のスマホを出してソシャゲを開き、ガチャで10連を回した


……いつも通りの大外れ、チャメシ的な奴だった


21:30

俺達は少々遅めの夕飯を食べ終えてから風呂に入り、その風呂から出た後に、異変が起こった

「(なんか体がいつもより重い……)」

おかしいと思って一旦周りを見渡しても、親はテレビのバラエティ番組を見ているし、啓は布団の上でスマホを見てる、異常が起こってるのはどうやら俺だけらしい

体が重いのは疲れからか?と考えたが、それ以上に思い当たる事があった

……上司の帰宅許可だ

あんな部下を思いやる器も性格でもない奴にあんな気遣いをされるのは何かおかしいと思ったが……

「直兄大丈夫か?」

その思考を一旦止めるかの如く、啓の言葉がやってきた

「疲れなのか体が重い……今日は寝る」

そう言って2段ベッド……下にベッド付いてないからそうとは言えないな、ベッドに寝っ転がり瞳を閉ざす


…………


???

意識が段々と戻ってきた途端、涼しい風が全身に当たる

「(あれ……?また寝相で布団をどかしたのか?)」

そう思ったが背中からの感触がおかしいとわかり、その疑問で覚醒を早めた

「んっ……ん?」

目を開けると、明らかに家の明かりではない光に当たる

直ぐに手で遮り、目を慣らしていく


目が慣れてきて手を下ろすと、見えたのは会社の天井だった

「ん?んー……うーん……」

ゆっくりと起き上がり、辺りを見渡すも、どっからどう見ても会社の一室だった

どうやら俺はその一室の床で寝ていたようだ

しかもパジャマで寝ていた筈なのに何故か私服に着替えられてる……

「おかしいな……俺確か仕事疲れで早めに寝たんだがな」

ゆっくりと立ち上がりながら自分の記憶を呼び覚ます

……とは言え、やっぱり仕事疲れで早めに寝たのが最後の記憶だ、他に出るものなどない

「(何かあるだろうと覚悟くらいはしてたが……)」

「……まさかここまでとはな」と言いつつ周りを見てみる

一見してわかったのは、椅子が4つとテーブルが1つ、後は本棚と応急処置用の医療箱くらいの

……どっからどう見ても応接室だ

「応接室か?にしては誰か来るような気配もないのは一体……」

そう思って部屋から出ようと扉に手をかけると「熱っ!」

ドアノブが異様なまでに熱く、直ぐに手を離す

「ドアノブが熱い?まさかっ!」

そう扉を弾くように開けると、そこにはコマーシャルとかで見たオフィスに、火や黒煙がデコレーションされたかのような地獄絵図と化していた

「何がどうなってこんなっ!!」

ポケットにあったハンカチで口を塞ぎながらオフィスの中を進んでみた

辺りは火災現場のそれと同じで、人(?)が多く倒れていたり、瓦礫に潰されていたりと、見るだけでも犠牲者は多かった

「ううっ……」

微かに声が聞こえたのでそこへ向かってみると、見た目から見ても社員の服着た人が机に寄りかかっていた

「おい!何があった!」

声をかけると、ゆっくりと目を開く

「……おま……えは?」

「御崎、御崎直だ!」

自らの名前を名乗るとそいつは、何かに気づいたのか口角を少し上げてこう言った

「フー……リ……やった……か……」

流石にこの話し方でこの人の命は長くないと察し、肩を掴む

「もう喋るな!どう見ても命が長くな……」

「聞け……あい……つ…は……」

俺の言葉を遮るように彼は、必死に俺に伝えようとしていた

「みさ……き……ひろ……はきけ……ん……」

そう言って彼は力尽きた

「っ!?おい今なんつった!おい!おい!」

みさき、ひろ……彼からそんな言葉が出てきた

そんな名前の人はよく知ってる、しかも身内に一人だけに限定された

「あいつ……啓っ!」

そう『御崎・啓』その人だ。

俺はここを飛び出そうとする前に1つ気になることがあった

そのことを確認するために、さっき死んだ人をよく観察する

「(どこを取っても人間……に見えるが、不思議とそう感じない、背中辺りを見てみるか)」

そう思って死体をうつ伏せにしてみると、死体の背中に白い翼が畳まれていた

まず俺が最初に気になったのは『ここが何処か』だ

少なくともここが俺の知ってる現世立ち位置じゃないのはわかった

社内ならスプリンクラーくらいはしっかりついてる筈だし、真似事程度の見た目だ

だから候補として2つまで絞れた

1つは『天界』まぁ天国だな

そこでは天使や神様達がいるってものだが……どう見ても天国とは思えない絵図だ、これがギャグで言えたとしても冗談でも笑えない

そしてもう1つは『冥界』だ、こっちは地獄と同じだな(やってる神が違うだけだと思うし)

こっち場合は地獄絵図にしてはやけに物が散らかってない、むしろ相当整理整頓されている

地獄ならもっとこう……やりたい放題されてるイメージがあるし、違うと断定

じゃあどっちなんだよって感じになったので、こんな確認をするしかなかった

「そうか、ここは天界か、じゃあ俺をここに飛ばしたのは恐らく何か……」

翼の確認だけでここまで考えが出てきた、後は俺を呼んだ理由……ん?理由……?

自分で出したこの思考が直ぐに自分の状態がどうなってるのかを直ぐに理解した

「異世界転送……やべぇ、直ぐに納得できちった」

その答えを口に出すと今の状態から出ていた疑問等の答えが全て当てはまった

そして今のこの状況でスプリンクラーが動いてない理由がわかった

恐らくだが、啓から何かを守るためにわざと動かさなかったのだろう

その証拠として死体を動かした時に、寄りかかっていた机の引き出しがひとりでに出ている

引き出しからは、ファイルが一つだけ入っていた

「これは?」

ファイルを手にして開けてみると、意外な文章が書かれていた


―――、そんな題名が1ページ目の中央に書かれていた


題名に驚ける程自分は暇ではないと思い、早々にページを捲ると目次が出てきた。どう見ても計画書なんだが、何でわざわざ目次を……まぁ分かりやすいし、何処を見ればいいかの目安にはなってる


…………


とりあえず大まかに読んだ

そして口に出しても出さなくても間違いなく疲れる事実があった

「10年前がこの計画の最初で、その最初に呼ばれた異世界人が俺らだったのか……」

ため息をしつつ、片手だけで両目を塞いで上を見上げる

「これを神様達が記録してたのなら分かるが……いやまぁわかるよ?確かにその辺りは納得できるんだ、だがなぁ……」

そしてもう1つの事実を前に、呆れていた

そう、この記録の端っこにこんな事が記載されていた

「『我々上司に何の断りもなく世界を作らないで下さい』ってねぇわ……」

言った通りのがこの計画書に書き足されていた、赤ペンで

「そんな先生が生徒にコメントするみたいな感覚で……」

そう言いながらファイルを閉ざして引き出しに戻し、死体を元の位置に戻してこのオフィスを後にした


天界

建物から出てみたら空は何か神々しいし、コンクリを踏み慣れてた足の感触は、異様にふわふわしていた

……急に非日常感出てきたな

そう思って振り返って建物を見てみると、意外と高めのビルが建っていて、絶賛現在進行形で火災と黒煙が生えるように出ていた

「啓、あいつは何をやったんだ……」

そう言ってビルから振り返り、天界を歩いてみることにした


天界を歩いていると、住宅街みたいなのを見かけた

明らかに現代の住宅街と全く同じデザインしてるが、それでも住んでるのは天使達なのだろう……早々に通り過ぎる事にした


さらに歩いていると、工場が見えてきた

どんな工場かは外から見てもよくわからないが、工場は工場だ

長い煙突に鉄板の壁、そして何か溶接したり切断したりする時の独特の音が聞こえてくる的な奴だ

今は全然聞こえてこない………ってか煙突以外の所から黒煙が上がっている

ここも駄目そうだから通り過ぎる事にした


歩いていると、今度は商店街に出た

アーケード街って言うのかな……あちこちに露店みたいな店が出ている

しかし誰が出てくる訳でもなく、ここも無人地帯と化していた

ふと目についたアクセサリーに足を止めて近づくが、ここの通貨がどんなのかすらわからないと今更思い、内心残念に思いつつ、早々に通り過ぎた


……………


「………」

最終的に、神殿のような建物にたどり着いた

どこをどう……って所とか何も感じずここに着いた

ただ……ある人の存在が頭から離れない

「啓、お前は一体……っ!?」

独り言を言っている内に背後から何かを突きつけられた

感触的に……銃だ、しかも四角のではなく横長で筒状の奴

だが、気配で解った。最も近くで見てきたこの

「お前から来るとは思いもよらなかったな、ここの事情を聞くために探す手間が省けたよ、啓」

俺を除いて、どこにいてもあいつの存在を感じることが出来なかった、必ずしも『いる』と気づいた瞬間には真横や背後に立っている

が、どうやら周りは全然気づける事は出来ないようだ

「何故……ここに?」

啓はいつも以上に冷静に問いかける

俺は落ち着いてから頭だけでも後ろに振り向こうとすると、銃を強く押し付けられた

仕方なくそのままの状態で答えることにした

「知らねぇよ、家で寝てたら何故かここにいたんだ」

啓は「あっそう」と気の抜けたような声で言い、さらに問いかけた

「じゃあ質問を変えるよ、ここが何処だかわかるか?」

当たり前のような質問に変わった

「天界……だろ?」

だから正直に答えた、そしたらこう問われた

「あのビルから出てきたんだろ?なら、を見たんだろう?」

俺はその質問に無言で頷く

「俺の探し物も……『』んだな?」

「………」

無言を貫き通すしかなかった、この質問だけは答えちゃいけないと感覚が必死に伝えてくる……「(ああ……答えたら終わるな)」と

「まぁ、お前が見た見てないなんてどうでもいいか……」

そう言いながら銃を押し付けながら俺の背を押していく

「おい、何するつもりだ?」

「さぁな、少なくとも俺の計画の第一段階を始めたばっかりなんだ、ここに居付いてもらっちゃあ困る」

そう言われて押される先を見ると、足場である雲が少し先でなくなっていた

「おい……まさかとは言わないよな、流石にこっからダイビングするには道具と準備と技術が足りないんじゃないか?」

「なぁに、主人公補正で死なんと思えば問題はないさ」

そうニヤけた声で言われた

流石にここから落ちるのは危ない……ってか死ぬ

(この危機的状況にどうすれば……)と思っていると、現状の状態がチャンスだとすぐに察知した

(そうか!!今の啓は両手を使っている……)

啓は今、左手に銃を持っている、そしてその状態で俺を押している、ってことはわかりやすく言えば……

(……右手側が隙だらけだっ!)

右手は俺を押すために使っていて、左手は銃を支えるのに使っている=両手をすぐに振るえない(発砲するにしても持ってない方へ避ければあまり当たらない)

そう思いながら全身を使って大きく右に回転する

啓は突然の事で発砲のタイミングを逃し、銃口を向け直そうとするが、そうはさせんっ!

すかさず右後ろ回し蹴りに移行して啓に当てようとした

その時、いつの間にか俺は宙に浮かんでいた

……明確には、啓に当てようとした右足を足首から掴まれ、人間とは思えない怪力で俺ごと1回転して投げ飛ばされた


そう、俺は今、雲が途切れた先の所まで飛ばされている


「えっ?」

突然の事で現状がわからなくなって、周りを見ようとして下を向いたら、青いのが視界に1面に広がっていた

その際に1つ、言えることがあった

「嘘ぉ?」


―――その言葉と共に、この一瞬で一切感じなかった重力が突然全身に及び、無事死亡確定ノンパラシュートスカイダイビングが始まった


上空

「うわああああああああああああっ!!」

俺は落ちてく状況の中、啓の事を考えたり今の状態が何なのか考えたりで頭が追いついていなかった

「ヒロォォォォォォォォォッ!!覚えてろぉぉぉぉぉぉっ!」

そう叫びながら内心「死ぬ」と高速で連呼して、姿勢を何とか整えようとした

まぁ……専用のスーツが無いと出来ないの分かっていた……どっかので聞いた話だと、十分な高度から水面に落下する事は、コンクリに打ち付けられるのと同じだと言うのを即思い出した

この段階で天界からここへと考えてみたら今の高度は、どう考えてもコンクリよりも軽々と超えている確信して青ざめた

ただ死を確信して目を瞑るしかなかった


………………


???

「……?」

目を瞑って死を迎えようとしていたが、何故かぶつかった衝撃が来なかった

そこを疑問に思い、ゆっくりと目を開けてみると………

「えっ……?」

そこには、空は青空よりも深く、海底神殿をモチーフにしたような街が視界1面に広がっていた

「ここは……どこだ?」

目の前の光景に頭が追いついていないままだが、突然後ろから声が聞こえた

「おーい、ちょっと待ってくれー!!」

声をした方へ向いてみると、誰かがこちらへ走って来る

もしかしたら現状いる場所と事情を教えてくれるかもしれないと思い、待ってみる事にした


少し待ち、声を掛けてきた人がやっと来た

意外と大きそうに見えたが俺よりかは背は小さいな、声も女性かと一瞬聞き間違えそうだったが、男のようだ

見た目からして軍人だろうか、灰色の軍服を着ている

服の襟には、階級なのだろうかバッチらしき物が付いている、形としては正方形のそれで、星が3つ付いている

「あの……あなたは?」

事情を聞くべく話しかけてみたが、どうやら長めに走ったのか、さっきから息が荒れている

「ちょ……ちょっと待って……今……息を整え……るから……」

そう言ってゆっくりと呼吸を整えて落ち着く

「ふぅ……申し遅れました、わたくし『ヘリアル・ジーベン』と申します」

「はぁ……」

ヘリアルと名乗った男は、お辞儀しつつ自己紹介をした

「服装から見て……軍人?」

俺が問いかけるとヘリアルは敬礼をして返した

「はい、階級は一等兵です」

一等兵か、入ってある程度経ったような階級だな……とか言ってる場合じゃない、ここが何処かわかんないんだった

「あの……ここが何処か、わかりますか?」

「はい、私はここに来ました」

そのために?まさか俺が来たことを想定してたのか?って事は次はまさか……

「ここは海底機動軍事国『アトランティス』私はここの特殊部隊『パイレーツ』の一員であります」

ああやっぱり……ここ海底だったのね、そして自分が特殊部隊の一員だと名乗った以上、次に言うのは

「軍の情報を聞いたので、軍規に従いあなたをこちらで保護させて頂きます」

そう言ってどっから出てきたのかロープを俺の両手に縛って連れて行かれた

道中で抵抗も当然考えたが、見知らぬ土地&軍事国の2つの要素が生きて帰って来れる可能性を欠片も感じさせなかった為、保護と称した拘束を受け入れる事にした


軍事基地

あの軍人に連行されてたどり着いた先には、いかにも理想郷でも作りそうな厳戒な建物だった

「なぁ、これ大丈夫なのか?明らかに厳しそうな所だし、施設に入った途端射殺されないよな?」

そう心配していると、ヘリアルは明るい雰囲気で言った

「大丈夫ですよ、あなたを連れてくるよう命令したのはここの最高責任者です、軍人である私が保証します」

こんな階級一等兵が保証しますって言われても、部屋に入れて二人きりにしてから殺されたら元も子もないんですがそれは…

いいんだよな?信じてもいいのだよな!

そう思いつつヘリアルに連れてこられ、大きな扉の前まで来た

ヘリアルはその扉の前に立ち、ノックすると扉の先から声が聞こえた

「ヘリアルか」

「はい、命令通り連れて来ました」

ヘリアルがそう答えると「入れ」の声と共に扉から鍵が開く音がした

「失礼します」

開けれるとすぐに理解しているのか、ヘリアルはドアノブに手をかけて扉を開けて部屋に入る

俺は両手を縄で縛られてるから引っ張られるように俺も部屋に入った


司令室

入った先は見た目通りの司令室だった

そしてその奥にある机に、厳ついボブヘアーの人が座っていた

「ヘリアル・ジーベン一等兵、来客をお連れしました」

「ふむ……」

ヘリアルが敬礼をすると司令官らしき人は、傍らにあったボードを見てから俺を見た

「君が御崎くんだね?私は『ヴァル・ヌー』見ての通りここの軍で総司令をしている」

見た目より結構若い声で自己紹介をされて俺は思わず気が抜けてしまった

「えっ?あ、どうもよろしく……」

俺がとりあえずの反射で答えたら、ヴァルは「よい、よい」と言ってから腕を伸ばす

その間にヘリアルは俺の両手の拘束を外し、扉の前で待つ

「空から人が落ちてるものだったので、我ながら勝手に転移させて頂いた」

本当にあいつの言う通りだったのかよ……ってか圧強っ!

何だ?体全体が変に重いぞ!?一体何が……

俺が思っているように、この部屋に入ってから全身が重く感じる、理由は分からないがあのヴァルと言う人の威圧なのだろうか

ヴァルはそんな俺の様子を見て椅子から立ち上がり、近くに飾ってある蓄音機の前に立つ

「悪い、こいつ点けっぱだったわ」

そう言って蓄音機の針を上げて音楽を止める

音楽が止まると俺に乗っかっていた重さが急に取れて軽くなる

それと同時に俺らはズッコケて倒れそうになった

そして確信した(あっ……この人意外と変わってる方だ)と

「何で音楽が……?」

そう問いかけるとヴァルは椅子に座って答えた

「この蓄音機の材質に魔力の籠った物が使われている、その為にレコードから発する音が魔力を纏って放たれるようになっているんだ」

「魔力?」

俺がそう疑問に持ちながら言うと、ヴァルは意外そうな表情で答えた

「まさか、魔力を知らないって訳でもないでしょう?」

まぁ……うん、俺でも知ってるよ?それでもな、それを使えるかどうかはな……

あの計画書に俺の詳細が書かれていて良かったが、それ以上にがあったとは……っ!

「知ってる、けど……」

俺が躊躇って言うとヴァルは何かの違和感を感じ「けど?」と問いただす

そして覚悟を決めて答えた

「……魔力を感じないんだよ」


――――そう、魔力を感知出来ないのだ


そんな剣と魔法の世界で致命的な欠落があるとは流石の俺も思わなかったよ、こんなの生きる価値無しを無理矢理押し付けられるのと同じしゃねーか!バーーカッ!

隣で聞いてたヘリアルも俺の言葉で驚いてるじゃん、何意外そうな顔して俺を見てんだよ

次に総司令の反応だが……

「ふむ、天使の反応が全て消えてから、君の出現があったから普通ではないとは思ったが……そう言う事か」

あんたはあんたで何一人で納得してるんだよ!!俺にも教えなさいよ!

「あの……魔力が感じないのが、そんなにいけなかったりしませんでしょうか?」

そう問うとヴァルは机の引き出しから四角い謎の機械を取り出しながら答える

「いいや?ただ君の方が不便に感じてるんだなって思うくらいですよ」

引き出しから取り出したのは『トランシーバー』だった

そのトランシーバーを俺に投げ渡す

「こいつを持て、ハウリングと混雑での使用不可にならない優れものだ」

俺は投げ渡された物をキャッチし、機能を確かめる

まずは電源を入れ、電源の隣のスイッチを押して無線の確認

開放無線オープンチャットは145.8だ」

ヴァルの言う通りに電源と対象にあるダイヤルを回してオープンチャットの回線に繋げる

回線が繋がるとトランシーバーから気だるそうな女性と明るめな女性の声が聞こえてきた


(ノイン、明日予定ある?)


(フィーン……また女子会の誘いですか?)


(いいじゃないか、減るもんじゃないんだし)


(今度もあの子いるんでしょ?あの子と一緒にいるといつも服屋に連れて来られるんですけど)


(貴女が服に関して無頓着だから、エルが我慢ならなくて連れて行かれるのも当たり前よ)


(だって……着たい服なんて私には……)


(……ねぇ、さっきから私達の会話を聞いているのは分かってるんですけど、どなたで?)


無言でトランシーバーの電源を切り、ヴァルに向く

「おい、彼女らの詳細とか今からでも確認出来るか?」

ヴァルは「ほいっ」とすぐに書類を俺に渡し、詳細プロフィールを見てみる

「えぇーっと?『カマー・ノイン』と『ラファ・フィーン』か……ノインは少尉で、フィーンは……少将!?」

まさかの高階級に流石の俺でも目が飛び出したよ

「フィーン少将はパイレーツの中でも人懐っこく、私もこの隊に入ってからよく抱きつかれました」

抱きつかれる……癖でやってるな、その辺り

「で?どのくらい抱きしめられるんだ?」

「か、顔がめり込むくらい……」

俺の問いにヘリアルは目をそらし、頬を赤らめて答える

「ああ……」

ああ……何となく理解できた、あれだな?顔が見えなくなるくらいデカイんだな?

「ノイン少尉とは近隣の仲ですし、話としては何の問題はありませんよ?」

「じゃあエルって人がノインとしては関わりたくない相手何だな」

そう言うとヘリアルは「先時代的に話しますし、そうでしょうね」と答えて扉の鍵を閉める

「おい、何やってんだ」

「いえ、フィーン少将は叱る時はしっかりするので……」

「あっ、上官故に威厳はしっかりあるのな」

とりま、ここで籠城でも出来……

「つーかまえたっ!」

「うぶぇッ!」

そう考えていると、突然背後から両手を抑えながらうつ伏せの状態にさせつつ組み付かれた

え?何?何が起こった!?ってか背中から2つの圧力がっ!!何かは絶対言うつもり無いけど!!

「忘れてたが彼女は単独で転移が使える、この隊単独戦力最高の兵だ」

『そう言うのは先言えよ!』とはこんな立場の人と状況で言えるはずもない、だって痛いんだし

「司令官っ!何故部外者を!?」

ヴァルは呆れた顔で頭を掻いて答える

「客人だよ、天界から直接落ちてきたんだ」

ヴァルがそう言うとフィーンはすぐに拘束を緩めた

「も、申し訳ありません!てっきり部外者が盗聴しているものかと……」

フィーンが敬礼しながら言うとヴァルは「別によい」と答える

「だ、大丈夫でしょうか?私が肩あたりでも…」

そしてフィーンは、俺が立つために肩を貸そうとしていた

俺はそんな光景を見て、ふと昔を思い出していた

ありゃあ中学辺りだったか……暴力沙汰とまではいかないよう陰湿に、そして授業と言う体でルールスレスレの暴力行為ラフプレー、そんな学校で結構暴れた暴君共らから食らった仕打ちを……

その時にふとこんな事を思ってたんだったな


――――見下す奴、実力だけで物を見ようとする奴らを自らの手で……


「……触るなぁっ!!」

そう叫んでフィーンの手を弾く

フィーンは俺の突然の行動に固まっていた

「じ……自分で立てます、あまり手を貸してもらう必要は、ない……です……」

反射でやってまったとはいえ罪悪感が酷い、何だか感覚もおかしいし……謝っておこう

そう思ってフィーンに向いて謝った

「すみませんでした、異世界ここに来る前にいろいろありまして……」

フィーンは俺の謝罪を聞くと、涙目で答える

「いえっ……わだじもっ……ごんなっ……うぇぇぇん……!!」

言い終わると俺の目の前で滝レベルの涙を流しながら子供のように泣き出した

いや、お前が俺より悲しんでどうすんだよ

「どうどう、上官が子供のように泣いてどうすんっすか、やっちゃったこっちが悲しむ所でしょここ」

そう慰めているとヘリアルが傍らから近づき

「少将、貴女が泣いては周りが困りますので……」

そう言うとフィーンは更に泣き出した

フィーンが泣き出してから足元に違和感を感じ足元を見てみると、フィーンが出した涙がこの部屋に溜まっていた

「おいおい、ヘリアルさん何エスカレートせてんすか、この部屋浸水しだしたのでちょっと扉を開けといてください」

そう伝えるとヘリアルは「わかりました!!」と言い、扉の鍵を開けて全開にした

扉が開いた事で部屋溜まりかけてた涙は、段々と部屋の外に流れ出していった

「ほら!俺は何も……とは言い切れないけど、気にしてないからさっ!涙拭こっ?な?」

そう言いながらポケットからハンカチを取り出してフィーンに渡す

フィーンはハンカチを持ち、涙を拭いて俺に返す

「でも……貴方の手から……哀しみが強く伝わって……私っ……」

また泣き出しそうだったので、ハンカチを広げて彼女の顔に当てる

「まーた泣き出しそうになってるじゃん、何?俺……君が泣く事した?」

そう言うとフィーンは首を横に振る

「じゃあ、俺から何かの記憶とか?」

また首を横に振る

……まさかな、こうじゃない事を祈りたいんだが

「なら……ただ単純に感情が伝わってきたから?」

この質問でやっと首を縦に振った

マジかよ参ったな、こうゆう伝わってきた感情で自分の感情が整理できなくなる人は初めて相手にするぞ……

「私、触れた人の感情を読み取れる力を持ってて、貴方に触れた時でも感じて……」

ああー……何となくヴァルが単独戦力最高つったのはこれが理由か、スパイとして送るなら最高の戦力だが……

「で、俺からどんな感情が伝わったんだ?俺過ぎた事は考えない事にしてんだけど、後の事の為にでも聞いておきたい」

そう言われてフィーンは曇った表情で答える

「……冷たすぎる悲しみがありました」

「そうか……」

冷たい悲しみか……俺、まだそんな悲しみにいるのか……忘れても、我慢しても、どっちにしても今の俺は昔の頃と変わってないのか……

許せん、割り切ったのにそのままでい続けている自分に……怒りが込み上げてきた、全身の筋肉が内側からはち切れん位に出てくる

「……ん……きさん……っ!」

止まれない、……っ!絶対……例え自分であっても許す訳にはいかないっ!今からでも……!

「御崎さんっ!」

大きな声で呼ばれて俺はすぐに気を取り戻し、今の状態を見渡した。

「すみません、ちょっと考え事を……」

そう言うと二人は肩を下ろし、ヘリアルは掴んだ手を離した

「よかった、呼びかけても反応が無さすぎたかと思ったら、ここ周辺に魔力障害が突然起こるものですから……」

苦労人か、俺と同じで周りを見ている類のな

さて、俺への戒めは後回しにして話を聞くか

「それで、魔力障害って何だ?」

「魔力の通りや伝達が難しくなる現象です、貴方からすればあんまりパッとしませんけど、こちらからすれば結構致命的で……」

この事をフィーンは答える

成程、電波障害と同じ様なものか、そういう意味では確かに致命的だ

「それが起こってたタイミングがあれなら多分……俺が原因かもしれない」

そう言うとヘリアルは「何故?」と言い、ヴァルが答える

「体質だな、君から魔力を感じないのも恐らくそれだな」

俺から魔力が感じない理由、下手したら早めに判明しそうだ

「で、俺が原因かもって所で何故体質だと思った?」

「それはな、このトランシーバーが教えてくれた」

そう言ってテーブルの上に立てていたトランシーバーを取り、説明を始めた

「本来このトランシーバーは魔力で動く、しかし君がトランシーバーの電源を点けた時、非常用電源が動く際に点くランプが点かなかったのだ、君から魔力が感じなかったのにも関わらずだ」

ヴァルはそう言いながらトランシーバーを見せて電源を入れる、電源が入ったトランシーバーの1角から水色に近い色のランプが付いた

「この色は魔力で動かしている時だ、そして……」

そう言うと突然ランプの色が、昔のゲーム機でよく見た緑に変わる

「これが非魔力で動かしている色だ、後は魔力か電池が無くなりそうな状態では赤になる、君がこれを動かしても本来と変わらなかったって事は、君が私達と同じ様に魔力を持ち、行使が出来るって事だ」

へぇーそうだったのか、てっきり無適性で魔力なしのハードモードになるのかと思ったが、こんな俺でも魔力はあるんだな……特性がちょっと異質な方だが

「魔力として探知されない魔力か、普通とは異なるとはいえ、魔力障害が起こった時点で信じるしかないな」

そう言ってフィーンの方へ向くと、彼女は気まずそうな顔をして俺を見ていた

「気にすんなよ、悲しみはあるが過ぎた事、別に心配させる程ではない」

そう言うとフィーンは安心したのか、肩を下ろして息をついた

「そう言えばさ、ヴァル……さん?」

彼女の表情を確認し、ヴァルに向いて聞きそびれた事を聞いてみた

聞こうとする前に呼び方で一旦止まると、ヴァルは「呼び捨てで構わん」と言われ、とりあえず申し訳なさが込み上げつつも問いかける

「外の世界、つまりここより上の世界の現状を聞きたい」

これを聞いてヴァルは俺にファイルを投げ渡す

俺はそれを受け取り確認をしてみると、弟の写真から先に目が行った

「啓、家の弟が一体……何……を……」

そのファイルの中に入っていたのは1枚の報告書だった、報告書には昔のモールス信号で送ったような表示の文字列で書かれていた

そして俺はその紙の内容に戦慄した


『地上世界遠征報告』


地上世界ノ調査兼遠征ノ結果、生体レーダーノ反応ハゼロ

繰リ返ス、生体レーダーノ反応ハゼロ

地上世界ニイル生物ノ存在確認デキズ、コレハ由々シキ事態デアル、完全武装フルアーマーニヨル組織全員デノ調査ノ許可ヲ求ム


     調査部隊隊長 ドライツ・ルーゼンバーグ


「は?………」

何だ?俺は今夢でも見て………ないよな、だって異世界に来てる時点で夢であって欲しい筈だし、ならこれは本当の事……でいいんだよな?

もし信じたれたとしても、この紙のように由々しき事た……


――――その時、脳裏に弟の存在が過る


俺の知る限りの弟は、何をしても複数の事をこなし、聞くときはしっかりと聞くために終わらせる……やばい

「………やばい」

俺が小声で漏らすと、ヴァルは俺の言葉から何かを感づく

「直、君の言葉を聞こう」

そして俺の言葉から、俺達部隊の戦いは始まった


「―――これ、もしかしたら後の祭りかもしれん」



続く

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