ルート1 陽の下の希望 下

あの時の私はまだ20歳になったばかりの時だ

まだ前王が生きてた頃だが、王権は2年前から私に移っていて、私ができない事が全くないくらいに自由に出来る、云わば全盛期の時期だ


そんな時に!魔王が!どうゆうことかっ!


現在

「この期に及んで何でっ……!」

王様は回想の途中に顔を手で覆い、涙声で呟く

「よしよし、辛かったね」

私はそう言いながら国王の頭を撫で続けて、いつも通りの調子に戻るまでに時間がかかった


「……話を続けて」

「はい、あれは10年前の事だ……」


10年前 玉座の間

「何をやってんだ大臣!先生の教えられた通りなんて言いおって!それは新兵や無能が言う事だろうが!」

当時の私は、前王の問題行動で積んでたツケの対処をするべく、下手すると人間が対処できるかどうかわからない量の書類の山を処理していた

今日は新しい大臣がやって来てはある程度の書類をこちらに運んでもらおうと頼んだ途端、クッッッッソ時間が掛かる方法で運んできたものだから聞いてみたら……

「(先生に言われた通りにやってみただけですが……)」

そう言われて今に至るよちくしょうっ!

「あークソッ!こんな時にやって来た人が教えられた事しかしない阿呆だとは……とんだ貧乏クジを引いた」

書類の処理をしながら言っていると、また大臣がやって来て

「あの、国王s……」

「何だ!こちとら書類仕事で手が出せんのがわからんのか!」

私が言い切ろうとした時、大臣に「来客が……」と言われ、作業を止めた

「……どんな奴だ」

私は大臣に聞くと大臣は「いや、それが……」と困惑した様子でいた

あの様子だと他国の関係者ではない、じゃあ商人……いやこれも違う、商人なら衛兵に門前払いをされるのが精々だ……じゃあ誰だ?

「……こちらに通せ、お前は茶でも持って来てくれ」

考えても埒が明かないから大臣にそう言い、客人をここまで通す事にした


扉の向こうから人の気配が出てきた途端、扉を叩く音がした

「いいぞ、入れ」

私がそう言うと向こうから「失礼します」と言ってから扉が開く

扉から出てきたのは背の高い青年と、私の娘と歳が近そうな少年だった

見た事ない服を着ており、何処からどう見ても我が国の技術で作られた物ではないとわかった

見ない顔だが旅人って感じではないな……魔力を感じないし、魔王軍の兵でもない

「貴様等は何者だ?どこをどう見ても私の知っている関係者とも該当しない」

私が言うと少年が少し圧されたのか青年の足に身を隠す

「小僧心配することはない、私は貴様等に何者かを聞いているだけだ」

私がそう言うと青年は頬を掻きながら「えぇっ……と」と躊躇していた

私はそれを見て何か事情がある人だと直ぐに理解し、少し余裕を見せた

「何、無理強いする訳でもない、言える位になるまで待てるぞ?」

「言うよ、そこまで親切にされると流石にこっちが苛つく」

思わぬ返答に詰まり「そ、そうか」と答えると、青年は言う

「神様の推薦でここ世界に来させられたんじゃあ……信じてもらえないか?」

神?今、神つった?

「待て、神だと?」

そう聞くと青年は「はい、神です」と返され、流石の私も頭を抱えた

まさか神からの推薦でこんな二人を呼ぶとは

「神が貴様等をか?何か理由でもあった?」

「いや、こっちも事情を言われただけで理由とかは……」

青年はそう言うと困った様子で下を向く

そうか、事情だけか……って事はあいつらは事態終息の為に呼ばれた……いや、喚ばれたか

とりあえず話を聞こう……その前に

「兵に椅子を持たせる、少し待て」


兵に椅子を持ってくるよう指示してから1~2分、兵が二人分の椅子を持ってきては客人の前に置いて去っていった

私は彼等二人を座らせてやっと話が始まる、最初はQ&Aの連続からだった

「神からどう言われた?」

「『魔王を倒せ』だけ……」

「神から喚ばれた時、どこに出ていた?」

「何か……こちら側でよく見そうな一室に出ました」

「どこからここへ?」

「草原で立ったまま……その後ここへ」

「そうか……」

うーむ……この情報量の少なさ、神達むこうも何かあったな?

私がそう考えるのには理由がある

まず、王国ここにはこれまでやって来た異世界の者を記した『でーた』とやらがある、でーたとは何なのか分からんけど

もう1つはその『でーた』からその時の記録が見れて、その時の異世界人達は皆同じく『神から事情を聞いた』と言った辺りから事態の終息までの『でーた』が入っているのだ

そしてこれらの記録には共通で『神からの事情が聞かれている前提』があった

そして神からの事情が一切ないまま喚ばれ、そしてここまで行くしかなかったと考えると結論は1つ

神界むこうで何かあった』

そう思い至る

だからこそ私は彼等に聞かなければならなかった

「君達はこの世界に喚ばれてどう思う?」

そう問いかけると彼等は言葉を詰まらせた。それもそうか、突然喚ばれて事情も言われずにここに飛ばされて混乱してるからだろうとは思うが、私にしては少し意地悪な質問だったか

そう考えていると少年は突然言い出した

「変……だと思う」

少年の突然の言葉に青年は驚き「啓!?」と小声で言っていた

私も少年の言葉に何かの疑問を感じたのだと思った

「変、とは」

少年に問いかけると、少年は浮かぶ言葉が見つからないのか手を動かしながら語る

「喚ぶなら僕らより強ーい人がいっぱいいるのに、何で僕らなの?って思って」

……あぁ成る程、この少年は『喚ぶなら強い人を呼べるのに何で僕らなのか?』って言おうとしてるのか

「少年、それはだな……」


そうこう話している時に突然、地面が揺れた


現在

「っ……何!」

私はその揺れに踏み止まり、辺りを見渡す

この揺れ方は一体、そもそもここって十分高い所だよね……?

「この揺れ……敵の襲撃か!」

国王がそう言うと医務室から啓、クーの順番で飛び出してきた

「この揺れは一体なんだぁ!」

「敵襲か!今の状態で大丈夫かよ!!」

クーが言い終わると啓はクーを医務室に押し込み「お前は休んでろ!」と言って扉を閉める

「啓、クーは誰かの為に……」

「左肩に傷あんのに戦わせるのはバカのやることだろ!わかってんのか!」

言い切ろうとする前に啓にそう言われた

確かに、肩をやられたと言われたら流石に戦い行かせる訳にはいかなち、仮に魔王討伐に入れてしまうと守る人が増えてかえって不利を強いられる

「……わかりました」

私は弱々しい声で答えた

「おい、ここの兵器や武器はどのくらいある!」

「それなら倉庫へ向かえ!!この城の外周を歩けばすぐに着く!」

啓は国王に向けて言い放つと、医務室から男の声が聞こえた

恐らくあの黒いスーツの男なのだろう、怒りの籠った声だった

「ソング、お前はここにいる兵をあるだけかき集めろ、お前の《王権》が頼りだ」

国王は啓の言葉で何かに気づき、頷いてから走り出す

「こっちは倉庫であるだけの武器を持って城門で籠城する!嬢ちゃんはその間心当たりがありそうな所があるなら行ってこい!」

「は、はいっ!」

命令に近い言葉を聞き、啓は走る

「(確か家にお姉ちゃんの装備があったはず……!)」

私は啓とは逆の方向に走り、家へ向かった


マリーの家

「確か、この辺りに……」

家に急いで戻り、部屋のクローゼットに上半身を突っ込んで探していた

ああもうっ!こんな事になるならクローゼットの中を片付けるんだった!!

お姉ちゃん掃除とか苦手だったから、今更見てみたらクローゼットの中が半ば迷宮になりかけてた

そんなクローゼットの中にお姉ちゃんの装備が入ってる訳ですが……

「えっと、ここを取って……あった!」

意外と奥の方にあった、しかも取ったら今にもここの全てが崩れそうなくらい絶妙なバランスで支えていた

私は装備を見つけて一旦抜け出し、深呼吸をする

ああ見えてクローゼットの中はお姉ちゃんが大事にしていた物が詰まっており、幼い私からの贈り物もここに大切に仕舞っていた

その大切に仕舞っていた物一式が入ってるクローゼットを一思いに崩すのは流石の私も躊躇する

「(どこか、どこかにこの装備立てと同じ強度で支えられる物は……)」

流石に装備立てから1つ1つ装備を取ってる時間はない、一思いに抜き出さないと……ってあれ?

よく見たら装備立ての上で何かの文字が浮かんでる

そしてその文字の上には物が乗っていて、装備立てからずれているのに文字の上から落ちないでいる

「魔方陣……って形じゃない、文字だけ?」

文字だけでの魔術なんて聞いたことないけど、お姉ちゃんが何かを聞いて試しにやってたのだろうと察して考えるのはやめにしました

「よし、落ちないってわかれば!」

躊躇いなく装備立てを抜き出し、クローゼットから取り出す。クローゼットの中は崩れたような音を1つもたたなかった

私は一息ついてから取り出した装備立ての装備を見る

「お姉ちゃんの装備……」

私の姉リリィ・メイドレスの装備一式は埃がついてなく、太陽の光に当たってるのか真っ白に輝いていた

すごい……さすが10年前の技術を凝縮したと言われた装備、10年経っても埃1つもついてない

いや、感心している場合じゃなかった、サイズ合うかなぁ……

そう思って甲冑を着てみるとなんとびっくり、余計な隙間もなくピッタリ着れた

ああでもちょっと胸元辺りがキツい……かな?

「(……お姉ちゃんの前でこの不満は言わないでおこう)」

そう思いながら残っている装備を全部着け、一本の剣を家から飛び出しながら持っていった


城門前

城門前では啓が『ラウンドシールド』を5つ詰めるように並べて何かしていた

「お待たせしました!」

啓は私の声を聞いて一旦行動を止めて私を見ると

「報告!手短でいい!」

と言いながら私へ『ショートソード』を投げ渡す

「姉の装備を取りに家に!」

投げ渡された剣を取って答えると、啓は私の体を見てからシールドの方に向いた

「啓は何をして……」

「バリケード作り、流石にこの人数でここを凌ぐのは無茶だからな、こうしてシールドの鉄部分を熱してくっ付けてる」

5つも並べて置いていたのはそれが理由なのね

「でもどうやって熱を」

「それこそ魔術でだよ」

「確か神様に会ってないから魔術は……」

そう言っていると突然啓は左手で指を指す

指した先は火が付いた松明が置かれていた

「こいつをな、左手に押し付けて魔素と一緒に慣れさせた」

「……はいぃ?」

慣れぁ……?そんな魔力の得かたは聞いたこともないよ!

よく見ると左手の掌が火傷してるからやったんだとわかるけど……わかるけど!

「そこまで魔力が必要なのはわかりますが、何で……」

「気配が近い、そろそろ準備しろ!俺はこいつを……」

言い切る前に啓がくっ付けたシールドを持って門へ運ぶ

「あっ、ちょっと!まだ話が!」

「続きは終わってからにしろ!」

そう言って啓はシールドを門の前に置いてそれを支えに剣を取り出した

昨日会った時に魔物から奪ったボロボロの《ショートソード》だ

啓はショートソードを置いてポケットから石を取り出した、近くに置かれていた桶も、啓が準備で必要に思っての事か、水が汲まれてある

石に水を浸けてからショートソードを持ち、一目散に水に浸けた石を剣の刀身に擦り付けだした

「ちょっ……何やってんの!」

「石で研いでる!こんな刃こぼれじゃ戦えたもんじゃない」

ある程度刀身を擦ると「このくらいでいいだろう」と言って近くに置き、服の袖から包帯を取り出して左手に巻いた

テキパキ行動してる、まるでこんな事も想定していたかのようにやってるみたい

「啓、火傷はしっかり冷やしたの?」

そう問うと啓は直ぐに答えた

「水に浸けてから少し乾かした、後の事は知らん」

「そんな投げやりな……」そう話していたら


グオオオオオオオオッ!


外の草原から咆哮が聞こえた

「来た!」

啓がそう言うと外から何かが走ってくる音が聞こえてきた

人の足音じゃない、何か獣のような……

「構えろ嬢ちゃん!『ゴブリンライダー』が来たぞ!」

啓の言葉で気がつき、手に持っている剣を強く握りしめて構える

「いいか!1、2の3で魔物がバリケードを飛び越える、飛び越えてる時に斬るんだ!」

そう言って啓も剣を構えてバリケードに潜む

「来るぞ、1・2の……」

ゴブリンライダーが飛び越えるのなら、横からやれば……

「3っ!」

啓の合図と共にゴブリンライダーがバリケードを飛び越えた

私はすかさず飛び出し、剣を振り下ろす

振り下ろされた剣はゴブリンが乗っているウルフを2つに分け、ゴブリンは空中でバランスを崩す

啓はそのタイミングを逃さず、剣先をゴブリンの喉元へ刺し込む

ゴブリンは何が起こったのかわからず、痛みにもがいて死んでいった

「まだ来るぞ、位置につけ!」

休む暇もなく元の位置へ戻ると、啓の左手には弓が持ってあった

「啓、同じ戦い方じゃないの?」

「あれは相手が1体ならできた事だ、次は多めに来るぞ」

そう言いながら弦を指で弾いてから、近くの木材を弦に引っ掛ける

木材が太いのか指が弦ではなく木材を持っていたものの、最後まで強く引き絞る

そして狙いの先にいるゴブリンライダーを捉えたのか目を見開き、木材を放つ

放たれた木材はウルフの頭に当たり勢いで地面に突っ込んだ

「次っ!」

そう言って啓は次の矢の代わりを持って構えて射ると、射た物はまたゴブリンかウルフに当たり、次々と倒れていった

この調子でいけば向こうは撤退も考えに入るのでは、そう考えた時


私達の背後で建物が爆発した


二人して爆発した所へ向くと、煙から人形の影があった

「ふむ、ここにも人はおらんか……やっぱり昨日の煙はどっかの残党がやったのかねぇ……」

煙が晴れると、人影の正体が露になっていく

ショートの女性で、人と全く同じ特徴をしているが、唯一の特徴があるとするなら額に角が生えていた


……どこからどう考えても『鬼人オーガ』です、本当有難うございます


「ひ、啓……これどうしよう?」

確実に勝てないとわかる相手を前にそう言いながら啓の方へ向くと、啓はバリケードの取っ手の片方を持ってこちらを見ていた

「あ、あのぅ……」

「はよ片っ方ォ!」

「はいぃぃぃ!」

言われて直ぐにバリケードの取っ手のもう片方を持った

「いいか、せーので持ち上げるぞ」

バリケードの先を見ると、群れの中から1つだけ速いのがこちらへ向かっていた

ゴブリンライダーのリーダーなのだろうか、ウルフも普通のとは異なり、足から電気が走っている

「よし今だ!せーのっ!」

二人で息を合わせてバリケードを持ち上げると、ウルフだけバリケードにぶつかった

「ほいもう一丁!」

そういいながらウルフがバリケードにぶつかった時に撃ち出されたゴブリンに止めを刺す

そっか、あの大きな盾にはそんな理由があったんだ……

そう関心している内に啓は不意打ちで倒したゴブリンの『こん棒』を持った

「あのー……啓さん、後ろのは」

「マリー、剣術の経験は?」

私は突然の事に「えっ?」と言うと

「リーダーを倒した、後は雑魚が勝手に来るだけだから、その間だけお前に掃除を頼みたい」

そう言ってバリケードから背を向け、鬼人オーガの方へ向く

一方鬼人オーガの方は、私達が忙しいのを判ってのか座って私達を見ていた

そんな彼の後ろ姿に問いかけた

「勝算はあるの?」

「ないよ、あったら先にやってる」

「じゃあ私と一緒に……」

「それだと駄目なんだよ!」

そう言われて少し引いてしまう、そんな中で啓は話を続ける

「いいか、俺はお前に掃除をって言ったんだ、見ず知らずのお前にだ、そんなのも解らんのか、バーカ」

「バッ、バカを言うのは自分がバカだって事を……」

「わかってる」

「?」

そう言って啓はあの時磨いていた『ショートソード』を両手で持ち、勢い良く剣先だけを地面に叩きつけた

「解ってるんだよ……俺は賢くなんかない。本質を理解できても使えるかどうかが別なのも……」

叩きつけられて剣先が折れると、折れた剣先を取る、そして……

「バカと無能は違うってのもなぁっ!」

折れた剣先を自身の左手に突き刺した

突き刺された手は血を流して腕を伝い、肘から雫のように垂れていく

私も、向こうにいる鬼人オーガもそんな光景に驚き目を見開いていた

「……はよ行け」

啓はそう言いながらゆっくりと鬼人オーガの方に歩いていく

「で、でもその傷は……」

「俺が任せる言ったのが聞こえなかったのか!気が変わらん内に早く行けぇ!」

……怒鳴られた、ここまで怒鳴られたのは初めてだけど、固まって動けなくなるのは恐怖からなのだろうか

私は直ぐに武器を持ってバリケードから乗り出して門の外へ向かった


草原

草原へ出ると、リーダーを失ったゴブリン達がいた

ゴブリン達が私を見かけると、怯えてウルフから落ちたり、警戒して構えたりとそれぞれがバラバラに行動していた

そんな中私は、ある意味魔物に囲まれている状況で深呼吸をし、ショートソードをしっかり握り、勇気を振り絞って構えながら魔物に対し……

「絶対に、王国には行かせない!」

そう叫ぶと怯えてたゴブリンも警戒していたゴブリンも私の方へ向き、無謀にも見える突撃を行った

私はバリケードを背に、突撃してきたゴブリンを1体1体斬り倒していった


戦いの最中ふと私は、お姉ちゃんからの言葉を思い出していた

「マリー、戦いは斬った斬られただけじゃないんですよ、もっとこう……ばーっ!てやってだーっ!としてぎゃー!ってなってるの」

あの時のお姉ちゃん、話すのが難しくて体でうまく私に教えてたんだっけ……

そう思い出していた


時に鍔迫り合いに持ち込まれる時もあったけど、すぐに蹴り飛ばしてバリケードを越えようとするゴブリンを優先して斬った

一対多でも、扇状に襲いかかられるのなら話は別、恐らく啓はその事をわかってて私に頼んだのだろうと思い、近寄ってくる魔物から斬り込み続けた


………………


「はぁ……はぁ……」

ゴブリンとの戦闘から数分、正確には1~2分くらいの時間、草原にはゴブリンやウルフの死体が広がるように転がっていた

装備は魔物の返り血で真っ赤に染まっており、体が重く感じる

「啓、啓は?」

そう言いながらバリケードを越えようとした

……余りの疲れで乗り越えれない、でも覗く事はどうにかできるみたい

そうしてうまくバリケードから覗いてみると啓が血を流しながら倒れていた

「啓!」

バリケードから身を乗り出そうとしても体に力が入らず、乗り越えられずにいた

そんな時だった

突然脇腹辺りを掴まれてバリケードの先まで投げ飛ばされた

「……っ!何!?」

そう言って門の方へ向くと啓が戦ってた鬼人オーガがいた

よく見ると身体中に切り傷がついて、右脇に剣先がないショートソードが突き刺さっていた

「なんのつもり!」

そう聞いてみたら鬼人オーガは悲しい表情で答えた

「こやつ、生きることを最初から考えておらんかった、魔王には申し訳がないが、あんな者と戦うのは御免だ」

そう言って振り返り、姿を消した

「一体何が起こってたの……」

どうにか啓へ着けた

確認してみたら、どうやら啓は気絶してるだけで、対して傷になりそうなものはなかった

「うぅ……」

確認していると啓の意識が戻ってきた

「気がつきました?」

啓はゆっくりと起き上がる

「確か……死を覚悟でオーガに突っ込んで……そんで……あいつは?」

「戦う気を無くしてどこかに行っちゃいました」

啓は「そうか」と言い、飛び上がるように立ち上がる

立ち上がった瞬間に何かが軋む音が啓から聞こえたけど……大丈夫だよね?

っだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

そう思ってたら予想通り足を抱えて痛みだした

「何があった!」

その叫び声を聞いていたのか、国王と少ない兵士がやって来た

「王様!啓がオーガと戦って……!」

「オーガだって!人間が敵う相手じゃない奴だろあいつは!」

そう話しながら兵士が啓を連れて城へ運んでいった

「何をしたのかわからんが、あいつが生きている時点でオーガと戦って生き残った事になる、あの種族は人間の倍以上の力を持っていて、あいつと剣で試合しようものなら鍔迫り合いの段階で地面に押し付けれるんだぞ!あれを、生きていられたと言うのか」

「へ?」

そうなの?生きていたのがおかしいものなの?

「でも、こうして生きてるから……生きて……?」

その時にオーガの言葉が脳裏に過った

『こやつ、生きることを最初から考えておらんかった』

「あのオーガ、彼を最初から生きることを考えてないって言ってた」

そう言うと国王は驚いた表情をしていた

「啓が……?聞かなければならない事がありそうだな、城へ戻るぞ」

国王はそう言って城へ歩いていった

私も黙って国王へついて行った


王城フロム 寝室


こうして、この異常な出来事から私達の戦いが始まった

啓は何か知ってそうだけど、あんな魂では会話のしようもないし、今は医務室で眠ってるみたいだけど、何だかくつろいでる気がしてならない

私が人の事を気にしていても仕方がないと思い、今は国王の寝室で私が知る限りの事を話している


「そうか啓が……あいつ成長したと共に、あいつのようになってきたな」

国王はベッドに座って私の話を聞いていた

「あいつって……お姉ちゃんのこと?」

「ああそうだ、しかも気がついた後に言ったのがあれだろ?君のお姉さんのように動いてやがる」

お姉ちゃんも10年前はそんな感じだったんだ……行方不明になるのも納得する……のかな?何かが無いような気がする、何かはわからないけど

「まぁあいつがここに来た時点で、この世界でまた何か起こるって事だし、何なら……」

国王はそう言ってる最中で止まった

「王様、どうしました?」

そう聞くと国王は「いや、なんでもない」と言った後に

「なんでもなければいいんだが……」

と小声で不穏な言葉を言っていた

「ねぇ王様、昔の啓は何が原因であんな無茶苦茶な事が出来たんですか?」

問いかけると国王は少し考えてから答える

「本人は『が僕に力を貸してくれる』って言ってたな、昔の私からすればよくわからなかったが、今はなんとなくだが……」

《星の力》そんな意外な言葉が返ってきた

そう言えば伝説上の勇者は昼夜問わずに星が見えるって言われてたのを思い出した、それも見越して考えると昔の啓が何をしていたのかの予想がついた

恐らく、お姉ちゃんでも引くくらいの大暴れをしていたに違いない

そう考えていると国王がまだ何か言いたそうにしていた

「あっ、言って大丈夫ですよ」

「すまない、何か考えてたそうだったのでな」

そう言って話を続けた

「私なりの結論としては、伝説上の勇者が昼夜問わずに星が見える事がわかっていたから、少年だった啓はその星を見上げて力を貰っていた、云わば魔法の類いの力だ」

「やっぱり」と意図せずに言ってしまうが、国王も私が昔の啓のやらかしを理解したのを、想定していたかのような苦笑いをしていた

「私から見てわかる所は『物理無視』『魔術耐性』『見た事ない魔術行使』の3つだけだ」

なんて無茶苦茶な……これが子供のやれる事なの!?とは絶対に今の彼では言えない、絶対何か起こる

「見た事のない魔術……?」

「まぁ『どの属性にも該当しない魔術』って言えば分かるか?」

「分かるか?」って言われても……本当に無茶苦茶すぎる

「魔王幹部も困惑してたよ『こんな無茶苦茶な力がこの世界にいて良いのかー』とか言って歯が立つどころか、幹部全員と魔王が挑んでも勝てなかったよ」

そんな話をしている国王は、どういう事か笑っていた

「特に魔王の座を狙おうとしてた奴がいたんだが、こいつは流石に可哀想に感じたよ」

「何があったんですか……聞いてる私でも何だか疲れてきて……」

あれ……体が重……く……


……そこで私の意識が途切れた


続く

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