ルート1 陽の下の希望 中

???

「うぅ……ん?」

目が覚めると何処かのベッドの上で寝ていました

あの日の戦闘と、避難所でのあの光景を見た衝撃で、いつの間にか私は意識を失っていたみたい

「あれ私、生きて……る?」

頬をつねって自分が無事か確めた

……痛い、やっぱり私生きてるんだ

「目覚めたか」

声のした方へ見てみると、高級な服装をした人が扉の前で立っていた

多分貴族の人だよね?なんで……

「まさかこんなタイミングで奇襲をかけてくるとは思わなかった、私もまだわからぬ所があったものだ」

貴族は困った様子で下を向く

「えっと……あの、あなたは?」

「申し遅れたわたくし、この国を治めている『ソング・フロム・マグノリア』と申します」

変わった名ま……え?今何と

「えっ、さっき何て……」

そう問いかけるとソングと名乗った者は首をかしげて答えた

「?……名前の前辺りでしょうか?」

私はその答えに「うんそう、その辺り」と答えると

「ええ、この国……『王都フロム』の国王をやっております」

そう笑顔で返した



「いやぁすみません、私がこんな説明不足をしてしまうとは思わず……」

王様がこんなことをさらっと言ってしまったために、もし立っていたら腰を抜かす程私は驚いていた

国王はそれに気づかずにあっさりと言ってしまい、今はこんな事に

「いえ、私も頭の中が色々と……」

意識失う前までに色々とありすぎた……

「そう言うのも無理はない、昨日のあんな事が起こったのだ、君も相当疲れたろう」

そうなんだ……え?昨日?

「え?今何と?」

「いや、昨日の……」

「昨日……昨日だって!?私あの時から1日も眠ってたの!?」

国王は「ああそうだ」と返す

あの時から1日……あっ

「そうだ、クー……クーはどうしました!!」

私の問いかけに国王は

「ああ、彼女ならあちらに……」

と言って後ろのベッドを見せると、クーがベッドの上で大量のご飯を食べていた

よかった……クーも生きてた

「あの日あの場に生き残っていたのは君達二人、生きてる方が奇跡と呼べる状況だったよ」

私達二人だけ、じゃああの時見た兵士達は……

「そうですか、あの兵士達は助からなかったのですね……」

国王は「ああ、すまないが」と答えてから続ける

「助けに行った時にはでの生存者は君達二人だけだったのだ」

……はい?今なんと

この街の生存者は二人?二人だけと言ったの?

「ねぇ国王、あの日街に何があったの?」

再度国王に問いかけると国王から想定外の言葉が返ってきた

「……奇襲だ、しかもほんの数分で街全体に及ぶ程のな」

嘘……そこまで早い奇襲があったなんて

私からすればとても信じられない事だった、何せ街での生存者が私とクーだけ……つまりほんの数分で全員死んだ事になる、こんな短期間でこんな早さで奇襲を掛けれるものだろうか

「こんな悲劇が起こるとは私も思わなんだ、君をここまで連れて来た人も、この戦火の中奮闘してたくらいだ」

「あれ?クーが連れて来たんじゃないの?」

そう言うと国王はクーを指差す

「あれを見て君を運べれると思う?」

国王に言われてよく見ると、戦闘で負った傷なのか左腕の一部に包帯が巻かれていた

「じゃあ誰が……」

そう言い切ろうとした時に足音が聞こえてきた

だんだんと音が大きくなるにつれ話し声が聞こえてくる

「……いやだから、俺はここの人じゃないが魔物でもないからな、わかる?」

一人は聞き覚えがある男性の声、その次に落ち着きを払った声が聞こえた

「とは言えあなたは外から来た者です、ここを歩き回る訳には……」

そんな言葉を聞いて怒ったのか、壁から強い衝撃が走った

周りも私も驚いてたが、二人が入ってきたのを見て何となく察した

片方は黒のスーツを着た細目の男性、もう片方は傷がついていないのに服のあちこちに血がついている、あの時に会った青年だった

いや、まさかあの人とまた会うとは思わなかった

「後ここは医務室ですよ、病人とかいるのでなるべく静かに」

スーツの男性が彼を止めつつ言うと、彼は丁寧にどかして医務室に入って来た

「おう、責任者がここにいると聞いて来たんだが……君か?」

彼がそう言うと国王は立ち上がる

「私がそうだが、どうした?」

それを聞いて彼は国王に向けて歩いていくと、国王の頬を突然叩いた

私もスーツの男も、国王を叩いた事に驚きを隠せずにいた

「なっ……貴様ぁっ!」

最初に動き出したのはスーツの男だった

国王を叩いた事に怒りだし、ナイフを持って彼へ走る

「生かして帰すか!この無礼!この私を差し置いて!貴様ぁ!」

彼はスーツの男に襲いかかられそうにも関わらず表情1つも変えずにスーツの男に振り向く

「消えろおおおおお!」

そう叫びながら首へナイフを突き立てると彼は

「あ、ほいっと」

そう言いながらナイフを腕ごと捌いてスーツの男の後頭部を掴み、腹に膝蹴りを入れた

スーツの男は腹に膝蹴りを入れられても歯を食い縛って彼に振り向こうとするも、彼はスーツの男が振り向くのをわかっていたのか、背中を見たまま手の甲で男の頬を叩く

頬を叩かれたスーツの男が目を見開いて怒りに任せようとする直前に彼は、左腕を振り上げてから、肘を曲げて振り下ろした

「ぐはっ……」

背中から肘で叩かれたスーツの男は倒れ、ピクリとも動かなくなった

別に死んだ訳ではないのか、スーツの男からものすごい怒りが感じ取れる

彼はスーツの男が動けないのをわかって私達へ視線を向ける

「ああゆう狂信者がいるから内政が酷くなる、人は……ちゃんと見ような」

彼は死んだ目で国王を見ると国王は「あ、ああ……」と反応に困っていた

「ああ後な、君を叩いたのはこんな奇襲に気づけずに平和ボケしてたその清算のつもりだ、誤解なさらぬように」

彼はそう言って近くのベッドに座り、ため息をついた

「あの、あなたは?」

私が彼に問いかけると彼は表情1つも変えずに答えた

「啓……御崎・啓だ」

彼はそう名乗り病室の窓を見上げる

「君、確かマリー・メイドレスとか名乗っていたな」

彼が問いかけてきたものだから困惑して「は、はい」と返すと、彼は少し微笑むように笑って答える

「そう身構えるな、俺はやりたいようにやっただけだからな、君には勝手すぎる程の迷惑をかけた」

啓はそう言って頭を下げた

なんだか変な感じがする、さっきまで会った時とは別人のような気分なのは一体……

「あ、いや……別に謝らなくてもいいって、私だって色々とありましたし……」

私がそう答えると啓は頭を上げて「悪ぃな」と答え、話を続けた

「クー達が戦ってたのは、こっちに向かってた魔物達の群れだった、だからこうするしかなかったんだ」

なるほど、だからこんな事になったのね

こうなるとクーに何を指示していたのがよく分かる、多分だけど持久戦に持ち込んで下がるように頼んだのだろう

……だけどこの後の事を考えると、悲しみが込み上げてくる

「でも、避難所がこんな事になってたなんて思わなくって……」

私は避難所で起こった事を啓に伝えると、啓も頭を掻いて答えた

「あれは流石に想定外だった、まさかこんな事までするとは……あいつらマジでやるとは思わんかった」

どうやら彼も虚を衝かれたように言ってきた

その後ため息をつきつつ「避難所攻撃か……」と言って啓は真剣な顔つきで考えだした

「あの、ちょっと聞きたい事があるのだけれど……いい?」

私が問うと彼は「ん?ああいいけど」とすぐに答えた

「あなたは一体何者なのですか?少なくとも私には、あなたがよく分からないの」

私の問いかけに啓は少し息をつき、答えた

「1つ、許可が欲しい」

「……何ですか」

そう聞くと彼の視線を私に向けて言う

「お前らじゃわからんかもしれないものだし、信用されるかの期待はしてない、それでも少しの保証がいる、『言っていいのか』のな」

よく分からないのが来た、言っていい許可を聞くなんて、それほど大事な事なのだろうか

でも、もしそうだとしても、私には聞かなければならない事だとわかる……いや、、どうしてか彼から私に似たような感覚を感じたのはもしかしたら……

「……言ってください、王様もいいですね?」

国王にそう問いかけた

国王は私からの突然の問いに驚き、呼吸を整えてから

「ああ、私にも聞かなければならない義務があると見た、言ってくれ」

そう答えた

国王の言葉を聞いて彼は落ち着いた様子で話す

「俺はここの世界の人ではない、云わば異世界人と言われる者だ」

私と国王はそれ聞いて驚き、啓は話を続ける

「俺が来た理由はわからないが、この世界で何か役割があると考えてここに来た」

……?来た理由がわからない?

おかしい、彼に何かがあるからかもしれないけど、何か……

そう考えても仕方がないと思い啓に聞く事にした

「ねぇ、異世界から来たなら、誰があなたをここへ?」

そう聞くと啓はズボンのポケットからメモ張を取り出しながら答える

「そこが問題なんだ、目が覚めた時には草原で寝転んでたから」

その後に「そして何より」と言いながら上着から鉛筆を取り出して言う

「この世界に来てから神やそれ以上の存在からの干渉がない、ここが致命的なんだ」

そう言って紙の中心から1本の線を引いて続けた

「いいか?この手の出来事には必ず『起こるべくして起こる事』がないといけない、特に俺のような異世界人にとってのな」

起こるべくして起こることって……もしかして

そう考えて結論に至る前に口が走ってしまった

「もしかして……?」

私が言うと国王は「何と!」と驚く

そう、神の干渉が為されてないと言う事は事情を聞いていない事になる、何が起こって何をするべきか、その所だけ抜けているのだ

啓はすかさず「そこなんだよ」と呆れるように言い、続けた

「肝心の問題を言われてないんだ、だから解決する側として不意に動けないんだよ」

そう言って紙に何かを書きだす

1本の線を中心に丸を1つ書き、その上にAと書いてから言う

「まず、この紙のAと書いてある場所の丸を、俺がいた世界だとする」

そう言った後に丸から線を飛び越えるように矢印を書き

「こっから君達のいる世界へは少なくとも大きな力が必要になる、次元の壁だ、それでこそ神でしか成せない事だろう」

そして矢印の先に丸を書いて言う

「次元越えって実はな……『次元の壁に穴を開けて人を召喚する方法』と『神達がいる所へ直接呼び出す方法』の二通りがあるんだ」

啓がそう言って紙を捲る

捲られた後の紙にはさっき書いてあった内容とほぼ同じのが書いてあった、違いがあるとすれば中心になっていた線の中心に平たい四角が書いてある所だけ

啓は平たい四角の中心に丸を描いて語る

「前者はどんな人でも容易に呼べれる……と、マジで簡単そうに見えるがそうはいかない」

啓は「これを見てみろ」と言って先程書いた丸を指差す

さっき啓が言った次元の壁……だっけ?そこに穴が開く……あっ

「嬢ちゃん、なんか察したな?」

「もしかして……『神の力が必要になる』ってこと?」

私がそれを言うと啓は指を鳴らして「その通り」と言って話を続ける

「次元越えは人間には到達不可の領域、それを可能にするのが、神様が次元に穴を開けた場合のみ……って事になる、つまり人間側が神より先に召喚を行ったら事故が生じる訳だ」

そう言って最初に書いたページに戻して語る

「次に後者だ、こっちの場合術式になる」

神でも難しい……つまり次元に穴を開ける前提でないと神様でも困難になる……?

「嬢ちゃん何か変に勘ぐってるが多分それ、が抜けちゃってるからそう言える事だ」

「えっ?ある所?」

そう言って左手の親指、人差し指、中指をそれぞれ別の方向に伸ばして言う

「いいか?《召喚》には必ず必要な物があり、それがないと効果すら出てきやしない、そんな魔術なんだよ」

《召喚》……何か聞き覚えがある、実際に見た感じじゃない辺り何かの書物で見たような……

そう考えていると国王が首を傾げて啓に聞いた

「それって、伝記か何かでの空想上の魔術だった筈では?」

伝記……あっ!『伝説:勇者と魔王』!

懐かしいなぁ……お姉ちゃんが幼い私に読み聞かせてたっけ、何か「お父さんはね、私達を守る勇者なの!」とか言ってたっけ……本の内容はあんまし覚えてないけど

「それが違うんだな、実はある程度の準備をすれば誰だってできる魔術なんだ、後は魔力と色々の問題だけ」

啓はその後に「まぁ、言うよりやった方が分かりやすいかな?」と言って病室の窓から飛び降りる

「おっおい!ここ3階だぞ!」

「えぇっ!?」

国王の言葉に驚いて窓の下を覗いてみると、1回回ってからピタリと止まり、窓から覗いている私達に向けて手を振った

「王様ーっ!備品借りるぞ!」

啓が言うと国王が「壊さんようにな!」と言い、啓はそれを聞いてメイドに話しかけた

(……何やってるんだろう)

「ねぇ王様、《召喚》って?」

問いかけると国王は啓を見ながら答える

「私が先程言った通り空想上の魔術、魔方陣を書いてそこに魔力を注ぐという、手段は簡単な魔術だ」

「でも何で……」

国王は、啓がショベルを持って円を描くように地面を突き刺すのを見ながら答えた

「確かに魔術としては効果も詠唱もいいが、何にせよ相当量の魔力を使う、しかも魔方陣から何が出るか分かったものじゃないと来た、どうであれまともに扱う人はまずいない魔術なんだ」

啓は魔方陣の元になる円ができて一旦休んでいる

「ある勇者が、それを使って亡くなった事例もある、だからこの国では特別な許可がなければ使用を禁じている」

その言葉に何か違和感を感じた、何故か他人事のように思えなかった

……心当たりが1つしかないせいで、より強い疑念があった

「その勇者って、私のお父さんじゃない……ですよね?」

子供の頃、お姉ちゃんが行方不明になった時に、何とか生きていこうと奮闘していた時に周りの人がそんな事を言っていたのを聞いていた

その問いかけで王様から予想とは違った答えが返ってきた

「すまない、それは私でも知らない事なんだ」

「えっ……」

知らない、ただそれだけだった

国を任されている人なのに知らないと言う事は、王様ですら知らない出来事だと分かる

「少なくとも最近使われたのは10年前で、ちょうどあいつを小さくしたような少年が使っていた記録はある……の……だが……」

「?、どうしたの?」

王様は気まずそうな顔でため息を吐き、上を向いて手で顔を覆った

「ああ……思い出した、あいつまた呼ばれたのか」

「えっ……えっ?何?」

また?今この人はまたと言った?またって何が?

「啓の事だ、10年前に《召喚》を使ってたのはあいつだと思い出した……正直2度と思い出したくなかった」

下を見ると啓は円の内側に何かを描き出していた

「啓が?」

私が聞くと国王は「そうだ」と答えた

「結構無茶をやってる無邪気な少年だった、《召喚》も他の魔術も一人で、しかも複数を行使できるデタラメな奴だった」

国王は悲しい顔で語り、空を向いて続けた

「あの日に、魔王城に乗り込むまではな……」

「……何があったのですか?」

問いかけると国王は下を向いて答えた

「魔王幹部との戦闘で彼が自爆をした」

……自爆、そんな言葉が国王の口から出てきた

「彼から見てもそれしか無かったのだろう、あの時は相手も相手だったから……」

「相手は誰でした?」

下を見ると、啓は魔方陣を書き終えて円の中心に立っていた

「《鉄巨人メタルゴーレム》だ、しかも魔鉄製のな」

『魔鉄』これは文字通り魔力を帯びた金属で、魔力の純度が高ければ高いほど硬度を強める性質を持っている

単純かつ簡単な方法で精製ができる強力な鉱物なのだが、魔力を込めなければ鉄よりも脆くなる弱点があり、大抵の武具に魔鉄を使うことはなかった

「ただでさえ、魔鉄の性質があるとめんどくさいのに、《魔力吸収》なんて物を持ちおって……」

「《魔力吸収》!?なんで魔鉄につく筈のない物が!」

《魔力吸収》は文字通り魔力を吸収する力で、どんなものでも使用者の魔力が満杯になるまで吸い込むことができる

本来、魔鉄と併用する事はできないスキルの筈、何故……

魔核コアが魔鉄と同化していた、恐らくだが魔核コアの方に《魔力吸収》があったんだと思う」

「ああ……」

この一言で納得した、確かに魔核コアと魔鉄の同化なら、『魔鉄の性質を持ったゴーレム』になるから、後はゴーレム自体に《魔力吸収》をつけるだけで十分になる

そんな敵を、昔の啓はどうにかしたって言うの?

「私が彼を最後に見たのは、ゴーレムの足を持ち上げて橋から自らごと落ちてった、魔王城周辺の断崖全てに大きな光を残してな」

「啓……」

下を見ると、啓は完成した魔方陣の上で大の字で寝っ転がっていた

そんな啓を悲しい顔で見ていると、国王は私の頭を撫でる

「その表情、姉と同じだな」

お姉ちゃんと同じ……お姉ちゃんも、啓が自爆した時に同じ気持ちだったのかな……

そう思って首を横に振り、国王の手を払う

「姉妹ですから、それに……私はまだお姉ちゃんには及びません」

「そりゃそうだ、今の君では姉にも、魔王にも勝てやしない、それに……」

国王が言おうとした瞬間、啓の声でかき消された

「準備出来たー」

啓が大声で言うと魔方陣の中心に立ち、私達のいる部屋の窓へ手を振った

「話は後でしよう、今はあいつの立証だ」

そう言って啓を見る事にした

「やっていいですよー」

私がそう言うと啓は目を瞑り、魔方陣へ魔力を注ぎ始めた

魔力は次第に啓が描いた線に沿って広がり、全て注ぎ終えた瞬間に魔方陣が光りだした

「出でよ……《クレイゴーレム》!」

啓はそう言って手を弾くように叩くと魔方陣の光はより一層輝き、魔方陣から何かが出てくる感じが出てきた

啓は魔方陣の外側へ歩き、ただ魔方陣の中央を見るだけだった

少し時間が経つと魔方陣からゆっくりと何かが出てきた

それは、土でできた丸っこい人型の小さなゴーレムだった

ゴーレムは現れて早々、啓に寄り付いて抱きつく、啓はそれにしゃがんで撫でると、何かを言った後にゴーレムは独りでに崩れていった

その後、啓は私達を見てから自らの足を見て何かしようとしていた

「(今度は何を……)」

そう考えていた途端に啓は突然私達に向かって走り出した後、飛び上がった

飛び上がってもまだ私達の部屋まで届かない、しかし啓は更に右足、左足の順番で空を蹴り更に飛び上がる

「「嘘ぉっ!」」

それでもギリギリ手を伸ばしても届かないと分かったのか、両足を下に向けて強く蹴って飛び上がり……

私達のいる部屋まで届いた、届いたのですが……

「あだっ!」

飛び上がる強さを誤って窓の上の枠に後頭部がぶつかった

「あわわわわわわっ……」

「あっぶなっ!」

そのダメージで落ちそうになってたものだから、国王と二人で啓の手を掴み、部屋へ引き上げた



その後、啓から聞いた所によると、《召喚》は魔方陣の出来によって変わるのではなく、むしろ召喚を行う人物の心象や環境によって召喚される物が異なっている事が分かった

だから《クレイゴーレム》を作った時では簡単で尚且つはっきりとした形で出てきた

そして啓がゴーレムに言っていたのは、ゴーレムに《帰還リターン》の指示を与えて土に還らせたらしい

そしてこの会話へ至る

「しかしな、この《召喚》にがあれば、それらの条件を無視することが出来るんだ」

「そのある物って一体何ですか、勿体ぶらずに言ってください」

私がそう言うと、彼はそれを聞いて人差し指を振り「そこでこの《召喚》の特性が効くんだ」と言って指で星を描いてからそれを囲うように円を描くように動かすと、小さな魔方陣が空中で現れた

その魔方陣からは、柄のような物が出てくる

剣だろうか、柄は何の飾り気もなく無骨と言うのだろうか、そんな単純な十字構造の柄だった

「これがその答え」

啓はその柄を持ち、引っ張ると剣の全容が出てきた

刀身が真っ黒なのにキラキラしてる……あれもしかして……

私がその剣について聞こうと言い出そうとした時、啓は遮るように話を続けた

「あのっ……」

「『触媒』だ、1度やったって実績があれば実質ノーコストローリスクで行える唯一の要素、国王が言ってたのは触媒なしで行った《召喚》の事だ」

『触媒』……あれ?じゃあそうなると啓は……

私は、彼の言葉を聞いて1つの結論が彼の中で出ていたと確信した

《召喚》には『触媒』がないと発動しづらい、その為に神様は『1度呼んだ事がある人』か、『次元の壁に穴を開けて新しく呼ぶ』の二通りしかない事になる、そうなると彼の結論が自ずと理解できた

「啓、もしかしてあなた……」

私が彼に言うと、啓も何かを察して話す口を止める

そう……最後に残った疑問だけ何故か結論を形作る

それもそうだよね、彼が言ってたよね『』、だから……


「神からの干渉を受けてないんじゃなく……神との干渉をんじゃないの?」


神の干渉が受けられない、それは神から認識はされても、干渉することができない状態

そんな状態になっているとなるとこれまでの事に辻褄が合う

それを聞いた啓は考えだすが、直ぐに眉の力を緩めた

「まぁ、異世界ここに来るまでに……ちょっとな」

「……?」

ここへ来るまでに、?じゃあ……じゃあなんで……


あなたは優しくて悲しい顔をしてるの…………?


「あ、あんまり無茶して言わなくていいからね?別に言わなければいけない訳でもないし……ねっ?」

私はそう言った後「王様、ちょっと二人だけで……」と声を掛け、啓とクーを残して部屋を出た


廊下

二人だけの状態に国王は、私に何かあると思って心配していた

「なんだマリー、どうかしたのか?」

「啓の事なのですが……」

私は国王の問いに小声で答えると、国王は何かを察して耳を近づけた

「彼、多分だけどこの世界に来る前に何かあったんじゃないのかと思って……この話を」

そう、彼を見て何かの違和感……いや、歪な感覚はここに来る前で何かが起きないとおかしい

国王は「だろうな、何で気づいた」と悲しい顔で言い、私はありのままを答えた

「似てたんです、感覚が……でも何かおかしいんです、何か……空いているような」

「空いている?……何が?」

そして何よりも、私から見ると彼は余りにも傷だらけで……空っぽなんだと感じていた

「……魂」

王様はその答えに固まってから言い返す

「魂だと?魂はそう簡単に変わる物ではない筈だろう!?」


この世界での魂は魔力の源になっている

と言っても、溜まる量はある程度限られてはいるんだけど、外部からの干渉で容易に作り替える事が出来てしまう為に、どこの国でも共通の法があるくらいの禁忌になっている


……本来の説明なら、そうなの

でも今の啓を見る限り、外部からの干渉を受けた形跡がないのに歪んでいると言う事は、自ら歪んだ事になるのだけど……何故か

魂が歪んだ人は精神が不安定になり、まともに魔力を溜めることも、出来なくなる、そしてその上で危険視しないといけないのが1つ、『体の一部が魔物になる』という特徴だ

形は一定ではなく、何処でどういう所が魔物に変質しているのかもわからないのが多いのが特徴で、精神が歪めば歪むほど魔物化が進む


歪んだ者は何をするかわからない、急に襲ってきたり、魔物に変質したりと、仲間にすると文字通り爆弾を抱える羽目になる

なのに彼は、ついさっき《召喚》を行った上に空中でさらに跳ぶなんて事を簡単にやってのけてた

で《召喚》を行い、さらに別の魔術も行使していた』……この出来事で彼の精神が異常だと分かった

しかもこれ……今更魂について考えてみたら、魂が傷だらけなのに空っぽの理由が分かった

……傷口が深すぎて跡形もないように感じてるんだ、なのに古傷のように残り続けている

そんな矛盾に満ちた状態だと理解した

「ええ、そうです、ですけど彼は魂がおかしいままで《召喚》を行っていました、これを意味する事がどう言う事なのか、わかりますね?」

国王は驚きの表情で答えた

「『彼は普通じゃない』……そう言いたいんだな」

私は国王の言葉に頷くと国王は考え込み「あの無邪気だった啓がかぁ……」と頭を抱えた

「無邪気……昔の啓は一体どうしていたのですか?」

私が王に問いかけると王様は悲しい顔で私に振り返り、語り始めた

「啓は……死ぬ前までは兄と共に行動していた」

啓の事を知らないといけない、魂の歪みの原因がどこかで分かるかも……えっ、兄?兄って言ったこの人

「ちょっと待って、兄ってどう言う……」

「あれは確か10年前だったか……」

あれ?この王様もしかして回想に潜り込もうとしてる?

「あのちょっ……」

「あの時は彼等がどういった事ができるのかわからなかったからこんな事に……」

「…………」

諦めて、王様の過去話に付き合う事にしました


続く

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