ルート1 陽の下の希望 上

私が初めて会った日、ちょうどお昼の時間になろうとしていた時に、彼に会ってしまった

まるでこの先の悲劇を伝えに来たように


朝 王都フロム 城下街

「いってきまーっす!」

私はマリー・メイドレス、幼い頃から両親不在で姉が現在行方不明なだけの、ただの女の子

幼かった時にお姉ちゃんが『平和になったらのんびり過ごしたい』夢を私が代わりに叶える為に『フロム・高等魔術学院』に入学した所、朝起きた時には時計の短針が12時を指したまま止まっていて今に至る

絶賛近道をしないと確実に間に合わないくらい時間がない状態です

「なんで時計止まって……なんて言ってる場合じゃないよね!遅刻遅刻!」

途中途中から近道や裏道といった所に走り、ただひたすらに最短で行けるルートを走っていく

「お!マリーの嬢ちゃんじゃないか、初日から遅刻かい?」

学院へ走っている途中に道具屋のおっちゃんが話しかける

「すみません!今、話してる時間もないのー!」

しかし、話をする余裕すらない私はそれでも足を止めず、謝りつつ走り去っていった……

魔術学院まで後少し……

「この道を曲がれば……」

そう……その時だった

「っ!?」

「きゃっ!」

曲がり角を通る所で人にぶつかった

「痛てて……」

彼は私と同じような年だが、学生服を着ておらずぶつかった少女を見ていた

なんで?ここは誰も歩かない秘密の近道なのに

考えている内に遅刻している事とぶつかった時のケガがあるかどうかの事が浮かんだ

「ごめんなさい、ぶつかっちゃって…ケガとかは……」

そう言って手を差し出すと、彼は差し出す手を掴まずに立ち上がる

「ケガはない……学生か?こんな時間に学生がいるなんて時間的にヤバくないか」

彼にそう言われてはっと気づく

「あっ、そうだった!ありがとうございます!」

そう言いながら彼の目の前で風を切りかねん程の早さで学院に向かった


…………


朝 フロム魔術学院

「はぁ……はぁ……ま、間に合ったぁ……」

少しのアクシデントはあったがギリギリ「初日に遅刻をする事」は免れたのだが、相当長く走った疲れからか途中から入学式の内容はよく覚えてない

と言うか座った姿勢を維持したまま眠ってしまった

でも、明日からこの学院で学んで……

と意気込みを入れつつクラス確認で自分の名前を探す

(B-1 マリー・メイドレス)

「(B-1ね、ここから少し進んで……)」

後はその教室に行くだけ、そう思いたどり着いた教室で待っていたのは丁度出ようとしていたこの教師らしき人物

白衣が特徴的な大人の女性、その女性が煙草を吸いながら

「ん?どうした、まさか迷ったなんて……あるか」

そう言いながら教師は煙草を消し

「入学式での話を聞いたか?クラス分けをしたら次は魔力検査、そこの廊下の突き当たりを真っ直ぐに進んだ所に保健室があるから、そこで検査を行うって」

「え?」

それは聞いてない、というか寝てたから聞きそびれたとは口が割けても言えない

「あ、ありがとうございます、きょ、教室を見てみたくてつい……で、では!」

少々焦りつつも言われた通りに進んでいく

「ならいいけど、次は迷うなよー」

保健室に着いたときには自分で最後だったようで検査の人も少し退屈そうにしていた

「すみません、遅れました」

検査の人は私が来るなり姿勢を直し準備を始める

「では、手を水晶に」

私が水晶に手をかざすと、水晶にヒビが入るほど強く、より長く、そして輝いていた

「これは……あなたもしかして」

「……何かありました?」


「はぁ~ぁ……疲れた~」

検査中に検査の人に揺らされたり才能があるとか言われたりとやや5分、教室での自己紹介が終わってやっとたどり着いた自由時間

私は腕を伸ばし自分の机に突っ伏していた

窓際の席で日当たりも良く、眠たくなりそうなこの時間に割り入るように見知らぬ人が来た

「なぁ、寝てないで学院の中見てみよーぜ!」

あまりに男勝りな声は、茶髪の活発な少女だった

「お願い……寝かせて、時計壊れてて遅刻寸前の所でギリギリ間に合ったの……」

「あ、そりゃあ……災難だったな」

さっきの大きな声で少し目が覚めてしまったし……どうしよう

「って言うか、なんで私なの?」

聞いてみると彼女は少し間が空いてから

「えーっと……何でだっけな?」

そう答えた

何だか変わった人だなーと思って「クスッ」と少し笑ってしまった

「いいよ、まだわからない所もあるし、少し回っていきましょ?」

椅子から立ち上がり私はこうも答えた

「それと、自己紹介だね」

「おう、俺はクー・サキジマ」

彼女は自らの名前を名乗り、私も名乗り返す

「私はマリー、マリー・メイドレスよろしくね」

握手を求めたらクーの方から握ってきた、ミシミシ音がしてすごく痛かった

この反応にクーは気づくなり直ぐに離した

「おっとごめん、こう見えて家のとかで力仕事してたからつい……」

「いや、平気平気(正直すっごく痛い……)そろそろ時間になりそうだし、どこから回ります?」

「どうするって言われても……」

まさかのノープラン、最悪近い所でいいんじゃないかな?程度で話に乗ったけどこれはひどい

近くて何かありそうな所……所……あっ

その時、教室を探す時に見た案内板を思い出し、図書室が近い事に気づいた

「図書室はどうでしょう」

「図書室かー……良さそうな本があるといいんだけど」

こうして私達2人で図書室に行きました

クーは武術書を見つけたのか珍しそうに読んでいた

私は本が置かれている棚を見てると、ふと変わった題名の本が視界に入った

「何だろう……」

その本の冊子には『伝説:勇者と魔王』と書かれている、いわゆる伝記と呼ばれる物であった

その本を見て勇者だった姉を思い出す

お姉ちゃん自分から勇者と名乗ってたっけ……幼かった私に胸を張って「貴方はお姉ちゃんである私が守るから安心しなしゃい!」とか言ってたなぁ……

その後、最後の所で噛んじゃったのに気づいて二人で笑い合ったっけ

もう……戻れないのに……何で思い出しちゃうんだろう……私……何で……

「おい、泣いてるけどどうした?」

思い出に浸っているとクーに声をかけられ、我に返る

「えっ、あっ……」

涙が出ているのに気づかず、反応に困ってしまった

「ううん、何でもない……何でもないから」

そう言って涙を拭って本を戻し、図書室を後にした

二人で教室に戻ろうとする途中、クーが私を見ては心配そうにしていた

互いに沈黙の中、クーがその沈黙を破る

「なぁマリー、お前……何か悲しい事でもあったのか?」

「…………」

図星だったが何も言い出せなかった、もう十分遠い思い出で、誰にとやかく言われてもどうする事もできないとわかっていたからだ

クーもそれに気づき

「まぁ、無理して言うものじゃないし、言わなくてもいいぜ」

そう言ってまた無言になった


…………


教室の扉が見えてきた所で突然クーが後ろから小声で言う

「マリー、お前の背中が重く感じるぞ……しかも責任による重さとは思えないくらい変に重い……気負い過ぎるなよ」

その後に「まっ、気にせず行こうぜ!」と言って私の背中を叩いた

やっぱり……周りによく心配されるけど、そこまで深刻そうに言われたの……何か嫌な予感する

そう考えつつ教室に入った

教室では授業が始まるには少し時間があり、その間クーが図書室での事をまだ気にしていたから、その経緯を話していた

「じゃあ、ここまでの10年ずっと独り暮らしだったの?」

「途中から家主に見つかっちゃったけどね……」

そう答えるとクーが「マジか……」と考え込んだ

私もクーに聞きたいことがあるし……

「そう言えばクーって……」

クーに聞こうとした時に、後ろから地震のような震動が響いた

「……えっ」

そう言って窓に振り返ると、街から黒い煙が上がっていた

「ねぇクー、これって……」

「マリー……周りを避難させとけ」

突然の言葉に「えっ?」と言ってしまうが、クーが「急げっ!」と叫び、私は事の深刻さを察して教室にいる他の生徒達から避難誘導を行った

避難中に外を見て避難を勧めた人が他にもいたのか、教室内にいる生徒全員が避難を終わらせると同時に学院内全ての人が避難していた

誘導中に先生が来て「どうした!何があった!」と言ってきたが

「私でもわかりません、けど街から煙が!」と答えたら先生も納得して

「わかった!後は先生が避難誘導します、あなたも避難所に!」

「わかりました!」

私はそう言って避難所に急ぐと、行ってる途中の玄関に誰かが入って来たのが見えた

「……ん?誰もいない……?」

遅刻寸前でぶつかった人が玄関からのんびりと入って来ていた

え?何で?と色々考えても、今の状態に急ぐしかなかった

だから彼へ走ると、向こうから気づいたのか

「あれ、あの時の……」

と言いながら靴を履き替えていた

「魔物が来てるかも知れないのに、何を呑気に!」

「今がどうしてるのかわからないから、こうして呑気にやれる」

そんな無茶苦茶な……

「そう言ってる場合じゃないの!急いで避難して!」

彼は私の言葉を聞いてから問いかけた

「近くに武器になりそうなのはあった?」

私はその質問に困惑した

それでも彼は周りを見渡していると、玄関から剣を持った骸骨がゆっくりと入ってきた

「君、名は?」

入ってきたのを見てから彼から突然聞かれた

私はこの危機的状況に焦っていたが、とりあえず答えた

「マ、マリー・メイドレス……です」

「よし嬢ちゃん、これから俺が言う事をしっかり聞いてくれよ」

彼はそう言いながら消火用のビンが入った非常用扉を開ける

「お前の友達が外で戦ってる、俺の指示で少ししたらここに兵士達と一緒に下がってくるから、来たら向こうが嫌がっても無理矢理避難所に連れていけ、いいな」

話している最中に非常用扉の扉を蹴りで外し、強度を確認する

「わ、わかりました、でも少しっていつまで待てば……」

そう聞いていると彼は背後から襲いかかってくる骸骨を扉で防ぐ

扉から剣が貫いて頭の真横に掠めて刺さった

「お前を守ってる間だなっ!」

その後骸骨の手から剣を離す為に扉を大きく振り回し、骸骨の胴体を蹴り飛ばす

その後ついで感覚で残ってた頭部も蹴飛ばした

蹴り飛ばされた骸骨の胴体と頭は両手両足の骨を残して玄関の外へ転がっていった

手足が胴体を追うように這って行ってる間に、彼は扉に刺さった剣を引っこ抜く

引っこ抜いた後、彼は初めて触れたのか片手で振って確かめていた

「あの、私はどうすれば……」

「護衛される人が戦う必要はないよ、俺が全部倒すから」

即答された、しかも相当の自信のある台詞で

そんな自信満々に言われても……

そう呆れていると玄関の外からここ最近聞いた声が聞こえてきた

「……るぞ!下がれば必ず勝てる見込みが見えてくる!」

そんな声と共にクーと4人の兵隊がやって来た

クーの声!?何でこんな状況で……

「クー!?何でこんな所に」

「マリー!?おいヒロ、まさか案内する人ってもしかして……!!」

お互いにここにいるのに驚き、二人で玄関の前に立ちふさがるように立っている人を見て言った

それを聞いて彼は

「そっ、その子と行ってもらった方がいいだろ?知り合いっぽいし」

と答え、玄関から現れた骸骨の頭部を的確に突き刺す

「とっとと行け、兵士達はここにいる4名だけだが避難するまでの護衛にはなる」

そう言われてクーと一緒に来た兵士を見ると武器を持つ手が震えていて、つい最近入ったばかりの新人だと一目でわかった

私はこの状況でクーと2人だけで避難してはいけないと思い

「皆さん!避難所に行きます、ついて来て下さい!」

私が大きな声で言うと兵士達は私へついて来た

これでいいんだよね!あの人が言っていたのは

この時の私は、彼の言葉を無意識に「新兵を連れて逃げろ」と感じ取っていた

これが私が戦う力の前兆だとは気づけなかったけど……

私はクーと新兵を連れて避難所に急いだ



学院内 非常用廊下

学院内の生徒教師全員が避難した後なので、何処を行っても静かだった

……窓の外の悲鳴を除いて

「確か、ここの道を通って……」

この学院は建物自体の構造が迷宮のように複雑で、まず案内を見ながらでも把握は難しい

ましてや案内には載ってない非常用廊下に私達はいる

兵士達は私について来てるが、ちょくちょく弱音が聞こえた

「どうして……」

「こっからどうすれば……」

「俺達入ったばっかりだぞ、どこへ行けば……」

「終わった……俺達は終わったんだ……」

そんな声が私の後ろで言っているのだから余計につらい

クーは私の事を察しているのか

「おい……あんまり気にするなよ、こいつらは本当に入ったばっかりなんだ、悪く思わないでくれ」

そう言って周りを見渡して警戒していた

そうだよね……私だけじゃない、皆もこんなのを望んでないよね

そう考えたら少し気が軽くなった気がした

こうして廊下を歩いていると、避難所が見えてきた

「皆、後少しですよ!」

そう言うと兵士達の活気が上がったのか、さっきまで下向きだった表情が少し上を向いた

私も(やっと避難所についた……)と思って安心していた

……そう、までは

避難所が見えた時、入り口が少し開いていたのが見えた

「……?ちょっと先に見てきます」

私はそう言って避難所へ走り、中が暗い避難所の入り口から入った


昼 避難所

中を見ても暗くてよく見えない……

真っ暗で何も見えなかった、それに違和感を感じた私は、暗闇の中を歩いてみる

暗すぎるがために、昨日の準備で制服に入れていた魔石の仄かな明かりを頼りにして辺りを見渡す

「……誰の声も聞こえない?」

普通避難所はもっと声が聞こえたはず、けど何で……

その時……床を踏んだ時に違和感を感じた、水たまりを踏んだような音が鳴る

まさか……

息を呑んで下に明かりを近づけると、私の足元に大量の血が広がっていた

「ひぃっ……!」

この光景に一歩下がると、頬に何かが当たった

正確には、のだろうか、指で触ったら熱を感じた

そして触った指を見ると床に広がっているのと同じ真っ赤な……

まさか……っ!

……嫌な予感がしていた、その予感が当たる事を感づいてしまい、震えながらでも勇気を振り絞って上を向き、明かりを強めた


…………避難していた生徒教師全員が天井で磔にされて死んでいた


「み……んな……?」

私はこの光景を二度と忘れない、地獄のような光景を……もう二度と

その後……

「うわあああああっ!」

後ろから悲鳴が聞こえた

この状況に呆然としていたこの時に我に帰り、急いで外に出る


…………


昼 避難所入り口

急いで外に出ると、クーの後ろに2人の兵士が血を流して倒れていた

何かの気配に気づいて上を見ると、翼がついている人が兵士を掴んでから……

「ぐぁっ……!」

手を鉤爪のように扱って兵士に切り込む、切り込まれた兵士を空から適当に投げ捨てられ地面に強く叩きつけられる

空にいる人(?)は私達を見下ろす

「あの服は……まだいたのか、面倒な……」

空にいる何かは私達と同じ人間に、後付けのような翼がついていた

「マリー、避難所はどうだった!!」

クーが私に気づいて私に問いかける

あんな光景を……クーに言っていいのだろうか……

「皆が……皆がっ……!」

私は声を震わせながら言うと、クーは直ぐに察したのか、目を見開いてから敵意を空の敵に向ける

「あれを見たのか、私の芸術はどうだったかい?」

「えっ……」

私は彼の言葉を聞いて止まり、思った

あれが……あんなのが……芸術……?

その時から私の内から怒りがこみ上げてきていた

「人が……命が……消えたんだよ……?」

「マリー?」

私は倒れていた兵士が持っていた武器を持ち、怒りの矛先を空にいる敵に向けた

「命をこうも簡単に消して……芸術を名乗って……っ!」

空にいる敵はどうでもよさげな感じで私に接近してきた

「マリー、あぶないっ!」

敵が私を襲いかかってくる直前に兵士から持ってきた《ショートソード》を右手に持ち、突きの構えをとる

「ははははっ!お前も芸術品になりなぁ!」

敵が鉤爪振り下ろしてくる……このタイミングだった

「貴様はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

突きの構えを直ぐに解き、渾身の左ストレートが相手の顔に当たる

「ぐぶぇっ!」

敵は殴られた瞬間に吹き飛び、壁に叩きつけられる

あの日から鍛えて良かった《ストレート》、今は全然鍛えてないけど昔よりも鋭さが上がっている気がする

「痛てて……どうしてこんな事に……ひっ……」

私は叩きつけられている敵の前に立ち、剣を持ち上げる

それを見て突然怯えだし、命乞いしだした

「やめてくれっ!死にたくなかったからこんな事しただけなんだ!なっ?なっ?お願いだから……」

「あんな飾り方をしたのは誰がやった事なの……?」

後にクー聞いた話だと、この時の私は異常に怖かったらしく、声も感情がなくなっていたらしい

「いや、あれは……その……私の趣味……」

それを聞いた瞬間に剣を持つ手に力が入って……

「わぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」

敵に振り下ろしていた



その後の記憶が私にはなく……クーに聞いた所、魔物に止めを刺した後も怒り狂った感じに切り刻んでから子供のように泣き出したらしい

ここまで怒るのも私でも初めてだったけど……こんな感じだったんだ

この日から私の平和が崩れだし、戦いの日々が続く日常が始まった


戦いの始まりは、お城のベッドの上から始まった


続く

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