0-ルート0 信念の夜明け 上

これは事の最初

何者かが我の日記を読むとするならそれは我が消滅をしたか、または誰かが記憶を失ったかになるが……

恐らく基本は後者だろうからこの日記を残しておく


朝 玉座の間

この体を乗っ取ってから10年が経った……あの時を二度と思い出したくないがこの体のおかけで我はこうして生きている

この肉体に感謝せねばならぬ

「この肉体になって10年も過ぎたのか……」

玉座の間で座って感慨深くしてると突然外が騒ぎ出し、我の前にゴブリンが1人近づき跪く

「魔王サマ!侵入者ガ来タ!」

やはりか……そう思い答える

「ならば返すなり倒すなりできるであろうに」

「ソレガ……」

普段ならひれ伏して謝るゴブリンが想定外の対応を見せた

我はその反応を見て何か異常があると知り《千里眼》の魔術で見てみる

騒ぎが起こっている場所はどうやら城に来る時必ず通る森の中間だった

一人の人間が魔物の大群を相手に素手で殴ったり相手の武器を奪ったりして近寄る魔物を倒して、城に近づいてくる

「(なんだ……ただの人間ではな……)」

そして、《千里眼》を使ってて変な違和感を感じた

「(何だ……彼から……?)」

何故?どうして?その違和感を拭おうと侵入者の全体を見てみた

身長は見る限り170いってるかくらいで、体は細くも太くもない、服も白い薄着と青いズボンだけというあまりにも準備のしなさすぎたような容姿だった

この容姿での侵入者と言えば我は1つしか知らない

「(……異界の者か、神もとうとう行動し出したか)」

相手が異界の者、ならば対処は簡単だ……だが

我は《伝達テレパシー》で侵入者の迎撃で出ている部隊達へ繋げる

「(皆の者下がれ、この異界の者は我がやる)」

そう伝えると侵入者の前にいた魔物達はゆっくり下がっていく

侵入者も撤退しているのに気づき歩みを止める

「(歩みを止める必要はない……我のもとへ来るがいい……)」

我は彼に《伝達テレパシー》で伝え、城の跳ね橋を下げる

彼はそれを見ては周辺を見渡してから魔王城に入っていく


………………


少し経って彼は玉座の間へとたどり着いた

彼は右手に広い刃渡りをした剣を持っていた

あれは確か遠征に行った部隊が船を襲ったときに船から出てきた物で、確か柳葉刀か何かだったはず

「……やはりそうか」

そうだ……やはり感じない『魔力を何一つ感じない』……

「貴様……我の元へ来たのだ、何か用があるのであろう?」

そう問うと彼は少し笑い答える

「……

そう言って魔物から奪ってきた剣を構えて走ってくる

我は突っ込む事を予測して《魔力防壁》で彼の進む先に出す

彼は防壁にぶつかり、しりもちをつく

そして立ち上がってはまた同じ道順に走り、また防壁にぶつかるを繰り返す

「諦めろ、魔力の見えぬ貴様では我に近寄る事さえできんぞ」

「そうかい……ならっ!」

彼は剣で左腕を切りつける

「……?」

彼の左腕は激しく血を吹き出し、我と彼の間に大量の血が撒かれていった

我は彼の行動の意味がわからなかった

なぜわざわざ血を撒き散らす必要が……

そう考えるのも束の間彼はまた突っ込んできた

「(無意味な事を……)」

そう考えるしかなかったが、嫌な予感がした

そしてその予感が的中することも……

彼は真正面に突っ込んできたが防壁の前で半回転を入れてすり抜けるように避ける

「何っ!」

その時の我は驚きを隠せずにいた

彼はまた防壁の前で避け、我に届くまであと3歩の間合いまで来た

「貴様、何をした」

「教える余裕、俺にあると思う?」

彼は左腕を見てからまた我に視線を向ける

「魔力を持たぬ人間が何故魔力防壁をすり抜けるかを問うだけ、冥土の土産と言う奴だ」

「……多分だがあんたに言っても理解は出来ないだろうが言ってやろうじゃないか、『視覚の歪み』だよ」

彼は右目を指差しながら答える

「俺が左腕を切って血を撒き散らしたのは見えない『何か』を捉えるためだ、そしてその『何か』は血は通していたが人間1人分は通せない性質だとわかった、そして何より……」

彼は剣を逆手に持ってこう答える

「視界に、血と血の間の層が……『空気の層』が見えたって事だ」

「……ふむ、貴様が魔力を持たずにこうして我の前に立てたのはこれが理由か」

彼は「そゆこと」と答え、一歩近づく

「そしてより一層貴様が来た理由が知りたくなった」

我がそう言うと彼はもう一歩進めようとしていた足を止める

「魔王が一個人相手にそう気にするかい?」

「平時ならばまず眼中にない、しかし貴様は魔力を持たずにしてこうして来たと言うことは何か理由がある、それに……」

我は彼の左腕を指差して答える

「その左腕の傷は深い、普通ならば出血多量で死んでおる筈だ、なのに何故貴様は立っている?」

もう一度彼の左腕を見てみるとさっきまで一本の線が出来ているくらいに血が出ていたが、話して数秒経った程度で血が止まっていた

「……それを聞く前にちょっと確認いいか?」

「なんだ?」

彼は少しにやけた笑いを見せて答える

「お前は死んでいるのか?それとも死なないでいるのか?」

「……?どうゆうことだ?」

想定外の質問に我も反応が遅れた

「そのままの意味だよ、魔王というのが『ここにいる』って所に理由がなければ、出る必要がないからな」

そうゆう事か、やっと理解できた

「つまり我がどんな理由でここにいるのか、そう聞きたいのだな」

彼は「ご明察どうも」と答えて話を続ける

「こちら側の世界での魔王がいる理由は大きく3つ、1つは『様々な怨念が固まった集合体』だ」

我の存在理由は考えた事はなかったな、何せあらゆる生物の頂点に立つ者だから考える必要すら感じなかった

「これは除外できる、お前から嫌な感じがしないしな」

彼にそう言われ何かむっとした気分になった

「ほう……我に対してそう言えるのは余裕のつもりか?」

彼は右手の平を見せる

「いやいや、そう決めるのはさすがに早いって……俺はただ自分の主観で答えてるだけ、そして2つ目は『生まれ持っていた王の素質がある』だ」

「これも除外できる……もしそうだとするなら言動的にお前の肉体は男性でないといけないからだ」

……次々と可能性を語っていくな、嫌みか?我に対する嫌みなのか?

「では3つ目は何だ?言ってみろ」

我がそう聞くと彼は少し笑い、答えた

「3つ目はな……『形を持たず常に何かを乗っ取ってないといけない』だよ、正解だろ?」

「貴様っ……」

こいつ……ただ者ではないな、さっきから彼を見ても初めて会った気がせん

「なあ魔王……俺はお前を知らない」

彼は剣を床に突き刺し、両手をポケットに入れて確認をするように問いかける

「だけどお前は……まるで俺を知っているような感じがする、直感だがな」

誰だ……誰なのだ……貴様の顔を見ては恐怖を覚える、何だというのだ……

我をこのような姿にさせたのは確かまだ10も満たぬ小僧……小僧?小僧だと?

彼を見た時に一瞬、我を一度殺しかけた小僧と重なるのは……まさかっ

「貴様……名は」

そう聞くと彼は闘志も殺意も感じない睨みで答える

「御崎啓だ」

……何?

「何?啓だと?10年経ってはそんな性格になるのか?何かの間違いなのでは……」

「違ぇ無ぇよ馬鹿、トラウマでもあんのか?」

「10年前その名前の小僧に殺されかけた、それがどうした!」

「いや逆ギレされてもな……」

しかしまだ証拠が足りん、何か彼が10年前の小僧と同じと言える証拠が……

「……まぁよい、貴様がどうであれ実力も見せた訳だが……どうしたものか」

啓は我との長話に退屈そうに待っている

「貴様を殺すことはできる、それも極めて容易にな、しかし我は貴様を知らなければならぬ責務ができてしまった」

そう言いながら玉座のうしろにある廊下へ歩く

啓はそれを見てゆっくりと付いて来る

「何処へ行くつもりだ?」

我は後を振り向かずに質問に答える

「我はこれまでの事を忘れず、あらゆる勇者に対しての対策をせねばならぬ。ならばそれを忘れずにしていられる物があるものだろう?」

啓はそれを聞き少しの間を空け、そして気づく

「……記録か」

我は「そうだ」と答え、ある部屋の前まで来た


昼 客室

いつもよく見た木製の扉、その扉を開けると人1人住んでいてもおかしくないくらい広く、ある程度の家具が揃っている部屋だった

「ここ……客室か」

啓が部屋に入って早々にぼそっと言った

「普通はな、今はただの空き部屋だ」

啓はそれを聞きつつ本棚の前に立ち……

「これか?」

一冊の本を取る、本の冊子には『伝説:勇者と魔王』と書かれている

「いや、その上の段だ」

啓は本を流し読みして直ぐに閉ざして戻し、我が言った段の左端の本を取った

本を開け、2秒で1ページの間隔で我の記録を読む

早い……と言うよりかしっかり読んでいるのだろうか。そう考えていたが、あることを思い出して心配が消え、啓に確認をする

「啓よ、左腕を見せてくれぬか?」

啓は本を読みながら体を左側に振り向いて何も言わなかった

左腕は傷があっても何故か出血しておらず、傷は十分に深いが本を読む姿勢でいる、いつ取れてもおかしくなかろうに……

なのに左腕は真っ直ぐで折れずにいる、しかも傷はそのままの状態で

「後でその傷を治す者を呼ぶ、ここで待て」

「言われずともここで読んでる」

そう聞いて我は部屋を出た


……………………


廊下に出た直後手を2回叩く

そうすると我の背中の影からメイド服を着た我が出てきた

「お呼びですか?」

彼女はドッペルゲンガーの『ホレーヌ』、城の事情をいち早く知るため、常に我の影に浸いている

「客の傷を治す者を探している、心当たりは?」

「でしたらスライムはいかがでしょうか、彼は回復のエキスパートと聞きます」

スライムか……下級モンスターを一番に出すとゆう事はそれが得意と見た

「直ぐに呼んでこい、客が記録を読み終える前に」

「了解しました」

ホレーヌはそう言って影に潜り、およそ10秒足らずにスライムを連れて戻ってきた

「お待たせしました」

スライムはホレーヌに掴まれてもがいていたが、我の前になって静まり返った

「速い行動で助かる」

我はスライムに向けて背を屈めて話す

「スライムよ、貴様の回復の力は話に聞いている、その力で客人の傷を直してもらいたいのだが……」

スライムは横に振るように動き、顔(?)を下に向ける

「何、そう謙遜するものではない、相手は人間だ」

スライムはそれを聞き、客室の扉を覗き見てからそそくさと入った

扉の先の声が聞こえてきた

「おわっ!何何!!スライムっ!?」

声が聞こえて直ぐにスライムは部屋から出てくる

「……どうだった」

スライムは親指を出すように触手で伝えてきた、どうやら治せたようだ

しかしスライムが何か伝えようとして我を見ている

「どうした、我に何か伝えることが……?」

スライムは手を入れられる穴を作って差し出すように見せる

「手を入れろ……?そうか、スライムは女王の個体以外話せないのか」

我は手をスライムに入れてみると、思考が入り込んでくる

「ふむ……スライムが感づくのは『生けるもの』のみ……なのに客の位置が解らな……なぬ?」

待て、スライムの意見で違和感を感じた

どうやらスライムが伝えたかったのは、啓の様子がおかしく、生けるものに対して直ぐに感づく所を彼を見てらしい

つまりそれは、衝撃の事実と一緒に啓から感じる違和感の正体だった

「奴が……先まで生きていなかったと?」

スライムは頷くように答え、詳しく伝える

明確にはらしく、斬られた部分だけ死んでいた、死んでいる時は血もなく痛みもなく感覚もない……ある意味肉体から隔離された状態だった

その為スライムが治したら血の流れも戻り、痛みも感じるようになっていた

「そうか……彼がこんな状態だとは……」

更に言うなら心臓も止まっており、死んでいたそうだ

スライムの診断の結果傷は2ヶ所、左腕と背中が服で隠れていたがあった

左腕は手首を切った時の出血と同じで出てたらしく、出血してる最中で腕は死んでいたらしい。

背中の傷の方は相当深く、左腕よりも重症だった

背骨ごと斬れてて、内臓が今にもこぼしてしまいそうなほどに……

「こいつは一体……」

スライムから手を抜いて視線を客室に向ける


……………………


客室に入ると、まだ啓は本棚の前で記録を読んでいた

「どうだ?何か思い出せる事はあったか?」

「わかった所は、当時の俺が9歳くらいだったくらい、それ以外の特に行動がよく分からない」

我は啓へ近づきながら問うと啓は記録を読みながら答えた

それもそうだ、貴様……まるで夢にいるように自由過ぎた存在だった、どんな重い物をも持ち、どんな強い攻撃を防ぎ、見るだけでも表現をするにはとても難しかったさ

「それだけか、他に何か無かったか?」

「後は……」

と啓は右手を顎に当てて間が空き……

「ジャンル違いにも程々にしろと言わんばかりの武器を振るってたくらい……」

ひぃっ!

「二度と思い出したくないトラウマを出すなぁぁぁっ!」

「はぶぇっ!」

……我は怒りの余りに啓の顔を殴っていた

啓は殴られた衝撃で体全体がきりもみ回転をしつつ窓へ頭から突っ込み、ぶら下がりながら突き刺さる

「……はっ!啓、無事か!」

殴った事で直ぐに我に返り、無事を問うと

「おう、会話途中にぶん殴りに行くのやめーや」

窓に突き刺さったまま啓は答えた

……どうやら無事のようだ

「とりあえずここに一旦住むことにする、この部屋借りるぞー」

勝手にここに住もうとしてる……それにしても

「啓、その状態何とかならんのか?」

未だ窓に突き刺さったままでいた

啓はそれを聞いてガラスに手を当てて引っこ抜こうと力を入れる

「ふんぬぅぅぅっ……!」

それでもまだ足りないのか足も当て

「ぐにゅにゅにゅにゅっ……!」

必死に抜こうと奮闘し数分……

「ふぬぅぅぅー!……抜けない」

力が抜けた声で降参した

「仕方ない、我も手伝うぞ」

そう言って浮遊しながら啓の両足を掴み……

「ぬぅん!」

力強く引っ張った

啓は窓からスポンと音が出ながら吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる

「おい、平気か?」

「な……何とか」

啓は鼻を触れながら立ち上がり、また本を読み始める

「魔王さぁ……さっきの何?」

啓が記録を読みながら問う

「あれは……その……すまん、過去の貴様に1度殺されかけてな」

「そん時使ってたのがあんな物理法則無視の超ド級兵器か、そりゃあ済まなかったな」

我は「気にするな」と言ってから目をそらす

啓もそれを気にしてるのか、視線が時々こっちを向く

気まずい……何せ10年前の、しかも我を殺めかけたモンスター以上の何かなのだが……何でだろうか、何故か今の彼からは虚しさを感じる

「なぁ……」

「俺の体、普通と異なってんだろ?」

先を読んでいるのか、啓の方から話された

「……何故わかった?」

「あのスライム……ありゃ医療用だろ?傷を治す時に部位だけに引っ付くのはその手のプロだけ、それでわかった」

何と……この数秒程度とはいえ、この結論までにたどり着いたのか

「そして森に入って魔物と戦った、その時戦闘開始前に不意討ちを食らってな、背中に大きな傷を負ったよ」

それはわかる、問題はその後だ

「お前と対峙した時に持ってた武器、あれが不意討ちした奴が持ってた」

なるほど、あの武器はそういう……

我の軍勢は、二つ名を持った魔物はその種族の長になる権利と、武器を選ぶ権利を与えている

あの武器を持って我に来たって事は、ああそうか、幹部相手に勝って奪ってきたって事になるな

……考えてみると少し恐ろしい事してんな

「よくもまぁ、こんな物があったもんだ、俺のいる世界でも昔ある所で使われていた物だったから、勝手に拝借させてもらったよ」

それでこんな状態で我と戦うって普通はしないだろうに

「おっと、日記全部読み終えちゃった」

啓は本を閉じて元あった所に戻し、テーブルの前に立つ

テーブルの前に立つと我に向けて左手を何か欲するように出す

「……何が欲しい」

啓は我と戦う時よりも真剣な目付きで答える

「要求は2つ、『地理と歴史に関する本』と、『魔法に関する本』だ」


………………


「よいしょ……啓、これでいいか?」

我は啓に頼まれた本を2~3冊を城の書庫から持ってきてテーブルに置く

「ありがたい」

啓は礼をしてから近くの棚の引き出しから白い紙を取り出し、テーブルの真ん中に敷く

「これらで何をするつもりだ?」

「魔王、何か書くものを」

我の台詞には返さず啓は手を差し出す

我は無言で《具現化》で鉛筆を作り、啓に渡すと紙に描き出した

「本読んだ時に伝記みたいなの取ったろ?あれの挿し絵で魔術を『どう使ってるのか』がわかった」

あの本を流し読みしてたのによくわかったな……

「だから次は魔術を『どう使ったらどうなるか』を知るために、わざわざ魔方陣から考えてた」

こいつ今さらっとすごいこと言っているの理解しているのだろうか

この世界の常識だが、魔術は基本紙に書いて魔力を送って使う使い捨てスクロール式が主流で、魔方陣の全体を覚えていなければ、人間であれ魔物であれ常に持ち込むくらいの常識だ

こいつはその魔方陣を実験の為に作ると言いおった

「それでこの本が必要ってことなんだな」

「そゆこと、しかも挿し絵を見た所中心に円を書いてから六芒星を中心の円を囲むように書き、空いている所全部に属性や形状に応じた文字と記号を書いている」

すごいな、しかもこちらよりも詳しいときた

「しかしこの絵の陣、実は無駄がある」

そう言って日記を読んでる間も持っていた伝記を開けて挿し絵の魔方陣を見せる

どこをどう見ても教科書とかでも載っている魔方陣だ

啓はその魔方陣の六芒星を指差す

「ここ、この六芒星の所」

「ただの六芒星ではないか」

啓は不敵に笑って答える

「しかし魔力を流す以上とても重要なパイプだ、しかもあの伝記では後半でスクロールを使う時はどういう事か使っていた」

あの辺りはスクロールごと焼き払われた時の被害を抑える方法かと思ったが、違うのか

「って事はだ、1つの結論に着くんだよ」

そう言って紙に書き始める

まずは円を書いてから中心に小さい円を書く、そして小さい円を囲むように六芒星を書く所まできた

「さてここだ、この六芒の書き方を……こうする」

啓は六芒星を細めに書いた

「何をしている、確かにこれも六芒星だが、これでは魔力の流れが悪くなって……」

「そこだよ、俺はそこに目をつけたんだ」

そう言って中心の円を頭代わりに腕や足を、星を描くように書き出す

「そもそも、『魔力とはどう言う物なのか』そこから考えていてね、たどり着いた予想がいっぱいあった」

魔力からだと?こいつは一体何を言っている

「その一つに『魔力は重力に影響しない実体』と考えた時がある、その理由をこの魔術で教えよう」

啓は三角形の内側に『炎が付いた腕』『稲妻を纏う足』『盾のような胴体』『星と無限』『光が走る頭』『羽が生えた十字架』を、それぞれ6つの三角の中に書き入れた

「おい、貴様何を作るつもりだ」

「よし完成、後は魔力を流すだけだが……」

我が言うのをよそに紙を持ち、周りを見渡し……

「魔王、ここらで十分な広さのある所は?」

そう我に問いかけた

突然の質問に我は困惑し

「じ、城門辺りの中庭なら……」

啓は「サンキュ!」と言って紙を持って走り去っていった

「…………ハッ!いかん、このまま奴の言いなりになってたまるかっ!」

我は啓が行った所を遅れたが、急ぎ中庭に走った


昼過ぎ 中庭

たどり着いた時には啓は、魔方陣を書いた紙を敷き、その上に立っていた

「おい!何をするつもりだ!」

「そこで見ててくれ、自分の体で魔術の作用を試す」

正気か?ただでさえ魔術を作る事が十分難しいのに、その実験を自分の体で行うと言うのか!?

「やめろ!体がどうなっても知らんぞ!」

「やって見なくちゃ……」

そう言いつつ両腕を広げてから掌を合わせて……

「わからん!」

魔方陣に両手を当てた

魔方陣は魔力が入って陣が光出す

光ると、魔方陣の文字が這うように啓の体へ登ってきた

啓の全身まで及んだ途端、文字がだんだん啓の体に馴染むように入っていく

我からすれば初めての魔術生成の実験だが、こんなデタラメな式で何故だ……

「……成功してるだと!?」

啓から魔力を感じ出した、この様子だと身体を強化する術式だろうが……これが魔術の生成なのか

啓から少しの煙が上がっているが、自身の身体を確かめている辺り無事のようだ

「おい貴様、何の魔術を……」

啓はゆっくりと立ち上がり、我の方へ向く

「さっき俺は、『魔力はどうゆう物なのか』言ってたろ?それの答え合わせだよ」

啓は白紙になっている紙を持ち上げ、人差し指を乗せる

「重力に影響しない『実体』なら、パイプを細くすれば出力が上がる、これが答えだ」

人差し指を下げると紙を切るように破けていった

「このようにな」

こいつは魔力を知った上でこんな事をしたって言うのか

確かにこのような強化を行えたら、この先の戦いにも対応できる、そもそも紙を切れるのはそれ相応の切れ味がなければできない芸当だ

「じゃあ、さっきの絵は一体」

「魔力は実体だ、だが人次第で動かせれる事が常識なら、後はイメージだけなのでな、わかりやすい様に絵にした」

啓は「後は……」と言って直ぐに姿を消し、いつの間にか足を蹴って浮かされていた

「何っ!」

我はそれに対応できずに転ぶと啓は左腕で首を絞め、いつの間にか持ってきていた柳葉刀を心臓近くに突きつけた

「使い手の腕だな、今のような状態に出来るくらいの」

何だ……一体どうやって……?

この状況に処理しきれずに焦っている我を見て啓は面白そうに見ていた

そして少し経った後、啓は答える

「強化にギアを入れた、言うなれば強化フォームのような代物だ、一時的だけど」

啓は武器を投げ捨て、拘束を解く

息が苦しいままでいた為、咳き込んでから立ち上がり問いかける

「さっきのは……どうやって……」

「お前の足を蹴って転ばせた後、玉座の間へ全力疾走して刀を取ってから戻って拘束した……って感じ」

それにしては速すぎる……これが啓の魔術なのか

そう考えていると啓の鼻から血が垂れている事に気づく

啓もそれに気づくと鼻に触れて確めた

「あれ……鼻血なんて珍し……」

そう言いきる前に突然崩れるように倒れた

「啓っ!」

我は直ぐに啓を担いで客室へ急いだ


続く

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