5-1

上に立つ者ってさ……下の人達の責任を持つんじゃなくって、体よく分け与えるんだと思うんだ、お前はそう思わないか?


4日目 ???

「んぅ……ん?」

目が覚めると視界には見覚えがない天井が見え、体には首から下にかけて柔らかい物に包まれてる感触がした

「なーんだろこの……この……」

どう言えばいいんだろうか、まるでデフォルトでここにいるような感覚……ああ、この言葉が似合うか

「じ……」

「実家のような安心感……であろう?」

言おうとした所から言われた

声をした方へ向いてみるとそこには草原で会った魔王の姿があった

「へっ……魔王かよ、わざわざ様子を見に来たのか?」

「いや、貴様が傷を負ったと聞いてこの者が煩く喚くものでな」

魔王は右手を胸に当てて言う

「この者?まるで二重人格みたいに語るな?」

「そのとーり!そして私がこの者であるリリィ・メイドレスであーるっ!」

そう言いながら突然俺に抱きつく

背中から痛みが走る、あの損傷から考えて痛みはもっと酷いはずなのに、気にならないくらいに緩和されている

なるほど、気に入ったって可愛いって意味で言ったのか

……メイドレス?今こいつメイドレスって名乗った?

「メイドレス……ああ、彼女の親族か何か?」

「私の妹に会ってきたのね、どうだった?可愛いかったでしょ?」

リリィは俺の頭を撫でながら言う

妹って事はこっちは姉なのか、魔王の姉に勇者の妹……手を組んだら間違いなく目的達成じゃすまなくなるな

「……ってか馴れ馴れしいんだよ!さっさと離れろ!」

リリィの頭を掴んで距離を離す

リリィは「むぅー!」とまだし足りなさそうな顔で俺を見る

「お前の妹は真面目だな、無愛想と言うより……」

「と言うより?」

今考えるとマリーって人は俺を相手に素手であっても挑もうとしていた、彼女は存在こそ正しくあると感じるが、見解を変えると背負いすぎているような感じもした

「彼女かお前の過去を聞きたい、多分だが過去に何かなけりゃあこんな警戒はしない」

「過去に関する事ね……飲み物はいります?」

「ああ頼む」

リリィに頼むと手を2回叩き、どこから出てきたのか執事の服を着た人が現れる

「お呼びでしょうか」

「彼に紅茶を」

執事は「了解しました」と言ってどこかに消えていった

「何なんだ、あの人は」

「……やっぱり、何も覚えてないのね」

リリィは微笑むように言った

「バレた?」

俺はそう言うとリリィは笑って返す

「初めて会った時からね、執事を見た時で確信になった」

そうか最初からかぁー……すげぇな魔王

俺はため息をつき答える

「そうだ、俺は記憶がない。右も左もさっぱりなのに初めての気がしない状態でな」

そう答えたらリリィは納得した表情で近くの本棚に指差す

「あそこにこれまでの出来事を記録してあるから、読んで何か思い出せる事あったら教えて」

記録してあるのか、まぁ記録は大事だしな

「左から読み初めてね、魔王が記録していたので一番最初から読めると思うけど」

俺はリリィに「ありがとう」と礼をするとリリィは困惑して

「いやぁ、妹の彼氏さんにそこまでお礼されると私困っちゃうなぁ~」

ああ彼女と俺って付き合ってたのか、そりゃ意外だったな

「それにしてもこの背中、意識失う前に背中と腹ん中が無くなったような感覚だったけど、何で無事に生きてるんだ?」

「それは我が治したからだ、ヒロよ」

突然リリィから魔王に変わって魔王が答えた

「ちょっと魔王!勝手に体を持ってかないでよ!」

「何者かが治せ治せと煩く言った結果我が治す事になったのは誰のせいだ?」

リリィは「うぐっ」と気まずそうな顔をしてから、諦めたかのように魔王に変わった

「ヒロ、貴様の傷は深く抉れていた。並の魔力では治す前に貴様が死んでいた、だから我がやった」

わざわざ魔王がやるほど深い傷か……

「魔王……ありがとうございます」

「わざわざ畏まらなくてもよい」

魔王は何1つ表情を変えずに答えた

魔王に借りができちまったよ

「それにしても人格が二つなんて、なんでそんな状態なんだ?」

魔王はそれを聞き少し間を空けてから答える

「我は元々カタチ無き者だ、常に誰かのカタチを借りねばならぬ」

へぇーそうだったのか

俺が内心感心している内にリリィが代わり答えた

「だから10年前で一度死にかけてた彼を、私が体を差し出して助けたの」

「ああ、だから体の主導権とかがフリーかと思ったら、そうゆう事だったんだ」

「しかしリリィよ、その刻の貴様はまるで我に恋をしてるような雰囲気で乗っ取れなどと抜かした者だ」

そう魔王が言うとリリィは恥ずかしがる

「だって……私だって恋くらいはしたいもんっ!」

「ふっ……我よりも我が儘な女だ」

俺はこの空気に苦笑いするしかなかった

「ははは……何か楽しそうで何よりだ」

「でもよかった、またあなたが死ぬのかと思っちゃった……」

背中の傷の痛みは完全に引いてる、傷跡はこの深さだし残るなぁこれh……

……えっ?またって言った?この人

「なあ魔王」

俺は思わず魔王に気になる事を聞くことになった

「何だ?」

また死ぬってことは……1回じゃないってこと……?

「今……何周目だ?」

そう問いかけると魔王は俺が何かに気づいた事を感づく

「我が知り得る限りには、79周だ」

「……嘘でしょ!?」

もう結構過ぎてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!

えーーっと1周で2週間換算だから

……マジ?約3年も経ってんの?嘘だろ!?


少し間が空き

「そろそろ時間だリリィよ、妹に会うのならここらで話をやめにしよう」

魔王がそう言うと立ち上がった

「では、私はこの辺りで」

「そうか、君に話を聞けてよかった」

そう言って笑顔で返し、去っていった


………………


数分経ち、俺はベッドから立ち本棚の前に立つ

(左から読み初めてね、魔王が記録していたから一番最初から読めると思うけど)

最初から読めるのか、どの辺りが最初なのか確認しないとわからなかったから丁度いい

俺は左端の本を手に取り、本を開ける


これは事の最初

彼が彼として生きる前の、悪夢の始まり


back to the firstroot……

続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る