4-2

誰かに「諦めるな」と言われた、誰かに「死ぬな」と言われた、背にいるが「生きるな」と言った……


3日目 朝 宿屋

サーティを捕まえて国に差し出してから一日が経ち、今日もいつも通り、朝早くの時間で目が覚めた

「んぅ……」

昨日から酔いつぶれてたフーリはベッドの上で幸せそうに眠っている

昨日はベッドを占領してたのでこっちは床で寝ることになってしまったが、案外よく眠れるものだな

窓に向くと光が視界に入る

「明日かぁ……どうするか」

そう言いつつ立ち上がり体を伸ばす

魔王との約束で、明日には草原で待たねばならない

その時間までに少し暇があるし……

「勇者に少しちょっかい出そうかな」

「……ふぁ」

そう言ってどうちょっかい出すか考えてると、フーリが目覚めた

「やっとお目覚めかい、幸せそうだったから起こすのに躊躇っちまった」

「私、いつから寝てました?」

「昨日の昼から」

そう言うとフーリは今の時間を確認する

時間を確認した後、昨日に酒を飲みまくったのを思い出したのか赤面になり手で顔を覆う

「恥ずかしい……なんで私お酒なんて飲んじゃったの……」

「それは俺も知らんよ、あっ飯食いに行くけど来る?」

まだ顔を隠してはいるが……

「……来る」

フーリは小さく頷いた


3日目朝 カフェ

朝食を摂りに近くに何か店があるかと見てみたら、カフェを見かけたので入ってみる事にした

店に入るとウェイトレスが迎えてきた、まさかのメイド服で

「(ファンタジー世界のカフェでメイドて……)」

良く見るとウェイターも執事のような服を着てるし……気にしない事にした

ウェイトレスに案内され、席に座ってメニューを見てみる

メニューはいたって普通のメニュー表だ、スイーツか紅茶かコーヒーの3つしかないが

メニューを見てるとウェイトレスが注文の確認をしに来た

「ご注文は……」

「パンケーキとコーヒー、コーヒーは牛乳と砂糖入りで……フーリは?」

俺は食いぎみに答え、フーリに問いかける

「今は寝起きですし……パフェでお願いします」

理由と行動が合致してないぞ、それがいつも通りなのだろうか、フーリ

「かしこまりました」

ウェイトレスはそれを聞いてはキッチンに歩いてった

「……なぁ、フーリ」

今は少し気になる事があり、フーリに声をかける

フーリはそれを聞いては眠たげに「なぁに?」と応える

どこから問えばいいだろうか……そうだ

「今さ……3週目って言ってたっけ?」

そう、状況証拠だけではまだ確信に繋がらないとは言え、たった1つだけ分かる所がある

ぁ……?」

「……っ」

今の自分のステータスを見ても分かるが攻撃を集中的に上げている、上げてるなら必ず『鍛練をする』という過程が必要となる、3週程度でここまでつよくなるには強すぎるのだ

「どこからわかったの?」

「ステータスを見てた後から、君が言った言葉がどうしても引っ掛かってたんだ」

途中からウェイトレスが来て注文の品がテーブルの上に置かれる

俺の前には4段重ねたごく一般的なパンケーキ

……ってフーリが頼んだパフェでっっか!2メートルくらいあるぞ

いやそんな事はいい、今はこの会話だ

「なるほど、ステータスを見てて今の週が3週目じゃないって推理したのね」

テーブルにスプーンとフォークが置かれ、お互い目の前に出された物を食べ始める

「まぁ、そんなとこだ」

「そう……」

俺はコーヒーを飲んで口直しをする

「じゃあさ……」

フーリは食を進めていた手を一旦止めて問いかける

「ヒロから見て今何週目かわかる?」

その質問を聞いて俺も手を止める

「……問題はそこだよ、フーリ」

今はフーリの言ってた3週目ではない、しかし

「ぱっと見5~7週以上廻ってないとこの街から違和感がある建物すら建たない、だがどの段階でやったのかはまだ……」

「今は分かる所だけって感じ?」

「そうだ」と答えると何か安心した表情をして、止めてた手を動かす

俺もフォークでパンケーキを4当分に切って一欠片づつ口に入れていく

「俺さ……気になる事があると何か調子が出ないんだよ」

「うん、知ってる」

お互い食事をしながら言葉を投げ合っていく

「戦うのは嫌だな、なるべく被害と面倒を最小にしたい」

「うん、それも知ってる」

2段目最後の一欠片ピースにハチミツをかけて問いかける

「俺とマリーって何か特別な関係とかあったんだなぁ……」

「うん、それも知って……あっ」

フーリはパフェの残りが半分以上を過ぎた所で止まる

予想通りとはいえやっぱり隠してたのか

コーヒーを飲んでフーリを見る

フーリは『マリー』と言うキーワードを聞いて何か焦った表情を見せる

「いつからマリーって名前を知ったの……?」

「知った?俺は知らないよ、ただ出会い頭にぶつかってステータスを見てたらそんな名前だっただけさ」

ただ、それ以上に有益な情報が浮き出てきた

「しっかし、不思議だなぁ……なぁんで会ったこともない子の名前で焦ってんだ?なぁフーリ……」

それを聞いたフーリは驚いてパフェの一部を喉に詰まったのか胸を叩く

少しして落ち着き少し深呼吸をする

「やっぱり、ヒロには敵わないね……」

「それでマリーって人はどういう人なんだ、んんっ?」

フーリはパフェを食いきり、手を合わせてから答えた

「これからの貴方に影響を及ぼす人……って所かな?」

「へぇ~そこまで影響あるのかぁ~」

俺はこのタイミングで右手の掌を上にしてフーリの前に差し出す

「んっ……」

「えっ何?何か渡すものってあったっけ?」

フーリは俺の突然の行動に困惑している

「少なくとも3週以上廻ってるならさ、あるだろ?これからの事を書いた奴とか」

「えっ、このタイミングで使うの?」

「そりゃあ、これからの目的を昨日言ったばっかりじゃん」

「……」

フーリは俺の言葉を聞いては苦い顔でなにかを出すのを躊躇ってた

「フーリ、今の俺達に必要なのは『これまでの事』じゃない、『これからの事』なんだよ。

それを知った上で動けば必ず先回りができるし、危険もそれと同時に察知できる、だから頼む……俺は今の自分も知りたいんだよ」

フーリは真剣な俺の態度に固まり、上着のポケットから1つの手帳を取り出し、テーブルの上に出す

「フーリ……ありがt……」

俺は手帳に手を伸ばすが

「待って!!」

フーリのその言葉と共に手帳を俺の手から距離を離す

「ねぇ……1つ約束をして、あなたは勇者を倒すんでしょ?」

「ああ、倒すよ……それがどうかした?」

下を向いてしまっているフーリは手帳の上に乗せた手を強く握っている

良く見ると全身が少し震えており、彼女の顔からほんの小さな涙が落ちるのが見えた

「お願い……あの子達は友達なの……だからっ……!」

友達……か、今じゃあんまり聞かなくなっちゃったなぁ……

俺はフーリの強く握っている手の上に手を優しく乗せる

「わかった……友達なら、仕方ないよな……」

流石にここで女を泣かせっぱなしにする訳にはいかない

「約束しよう、倒すだけに留める、絶対に……君の友達は死なせない」

フーリはそれを聞いてゆっくりと手帳を差し出す

俺は手帳を受け取り、中身を確認する

予想通りこれからの出来事が書かれていた、今日は夜に実戦訓練があるだけらしい

「今日の予定はこれだけなのか、好都合だな」

会計を済ませて外に出ていく

「好都合って、どこで?」

俺は外で体を伸ばしながらフーリに言う

「予定が1つだけって事はこの後何も起きないんだろ?なら夜に攻撃してもこっちが狙われる事もない」

フーリはそれを聞いて少し考えて

「夜襲しても、追撃が来ないってこと?」

正解グッジョブっ!そこに俺が攻撃できる隙がある」

腰を捻ってちょっとした準備運動をしながら語る

その時、変に背中に違和感を感じた

何か、体にまとわりつくように仕込んであるような変な違和感

「ねぇフーリ」

「何でしょう?」

そう言ってフーリに背中を見せる

「俺の背中、何かある?」

フーリは俺の背中を見ては何も変わってないような口ぶりで

「あなたがいざって時に良く使ってる物ですよ」

「俺、記憶喪失なんだけど……」

「まぁ使う時に見ればわかります」

うん……良く使う物なんて全く心当たりがないです

「まぁ……夜に作戦を始めるし、使う機会がある時くらいだしいっか!」

取り敢えず明日の予定でも確認でもするか

そう思い手帳を開いて明日の予定を見てみる

えーっと、どれどれ……


勇者が追いかけてくる、早急に国から出ねばなるまい


魔王の配下が迎えに来る、どうやら転送で魔王城にいくらしい


魔王城の玉座の間についた途端魔王に抱きつかれた、この魔王、長らく会ってなかったからか俺の事を愛しく思ってたようで向こうから『お姉ちゃん』と呼んでもいいぞと言われる……何だこいつ


「……」

これ……いわゆるギャップって奴か?

「フーリ?」

手帳を持つ手が震えつつフーリに問う

「魔王ってさ、どういう人なんだ?」

フーリは何も言わず苦笑いで応えた


尚、昼に背中の物を確認したら……

「……なんだこれ?」

ベルト状の紐に大量の四角い箱が並ぶようについていて、先端部はレバー付の取っ手があり、握るとカチッと音がして箱から抜けそうになる

……直ぐに戻して夜を待つことにした


3日目 夜

「ヒロ、時間だよ」

「むぅ……今日が今日だから寝れなかった」

俺は今回の計画を頭で考えていた

奇襲を行うんだ、どういう方法がいいかの模索だけで日が暮れてきてたので……


寮前

「(フーリ、こっから先は実体化を解除してくれ、ここからは一人で行く……会話するときはこれで)」

そう言ってポケットからスマートフォンを取り出してフーリに見せる

フーリはそれを見ては頷き、《実体化》を解除して1日目のような亡霊に近いものに戻った

奇襲の内容は、模索の果てに『1回攻撃して即撤退』ということになった

いわゆるヒット&アウェーである

寮の周辺には教師らしき人物が明かりを持って周辺を歩いている

周辺を確認し、うまく教師に気づかれないで寮に忍び寄る

手帳にはマリーという人物の位置が書いてあったおかげで、寮室を1つずつ爆破するという大事件を起こさずに済む


寮室前

とうとう彼女の部屋の前まで来たが……

「……」

(ヒロ、どうしたの?)

寮室の前まで来たのはいいが、今回の奇襲で彼女が死んでしまった時の場合を考えてなかったのを今更思い至った

「(やっべ……どうしよ)」

現在部屋の前、後は昼に確認した箱の1つを取ってドアに付けるだけだ

……だがそれと同時に、爆破で彼女を亡き者にしてしまったら事故以前の問題になる

フーリと約束したばっかりなのにものの数時間で破る所だった……

「(仕方ない、ここから先はアドリブになるが……)」

誰かが来ない内にドアをノックする

……忍び足とはいえ僅かに足音が聞こえる

多分ドアの先を聞くために聞き耳をしているな……ならば

「お前を潰しに来た」

そう言って直ぐ様にベルトから取った箱を1つをドアに付ける

箱は箱を中心にドアの中央を焼くように光り始める

俺はこの箱が光る段階でこのベルトが何なのかやっと理解し、全速力でドアから離れる


……この夜中に盛大な爆発音が響いた


………………


爆風がある程度治まってきた時には、自分でもこのベルトの正体がわかってしまい少し苦笑していた

ああ、まさか《チェーンマイン》だとは……

彼女の言う通り困ったら対象を拘束、爆破による攻撃、そして爆破後の逃走の3つが揃ってるある意味完璧な武器だ

……使い捨てであることを除けば

「(記憶を失う前の俺何て物使ってんだよ!)」

そう考えつつ部屋に入ってみる

部屋を見てみると爆風で全体が少し荒れただけで誰もいなかった

……あれ?足音したのに誰もいないって、おっかしいなぁー

「ちっ……部屋にいなかったか、このタイミングなら確実に勝てたと思ったんだがな……」

探せばまだ居るかもしれないし、ちょっとは……

(ちょっと、ヒロ!)

部屋を捜索しようとする前にフーリに止められた

ポッケからスマホを取り出し、耳に当てる

「ああフーリ?奇襲掛けようとしたら部屋に誰もいなかった……え?もう騎士達が囲ってる?そんなの俺が知るかよ」

(知るかよで済む問題じゃないでしょ!早く撤退しないと手にお縄ですよ!お・な・わ!)

「ああもうわかったから!撤退、撤退ーっ!」

……ん?スマホカバーの中に何かある

素早く抜いてみると、1枚の紙が折り畳まれていた

早々に撤退しないといけないし、彼女の机にでも置いとくか

そうして部屋を見回してから窓から飛び降りた

そして……

「いたぞ!」

早っ!なぜここだとわかったし!

着地して早々に見つかり、兵士に追いかけられる羽目に……


街道

「フーリ!脱出の経路は!」

(今探してるからとにかく走って!)

「んな無茶なっ!」

全速力で走り続けて数分、兵士達は疲れを知らないのか速度を維持してまだこちらに走ってくる

「タフだなぁ、勝てる気が全然しないんだけど!」

(いいから!捕まったら全部台無しですよ!)

だからこうなってんだよ

「ああもう!こん時にのに!」

そう叫んだ瞬間、俺の足の感覚がなくなった

明確には足が地面を踏んでいない、浮いているに近い状態で本当に空を飛んでいた

「マジかよ!?」

兵士達も俺が浮いているのを見るなり足を止めて後退していく

「この隙に!」

俺は高く飛び、国の壁を飛び越える形で国外へ


夜空

「いやぁ、間一髪だった」

(だったって……捕まってたらこれからの全てが白紙になってたのに呑気な……)

俺は空を飛びながらまだ手帳の読んでない部分を読んでいた

「魔法があるんだし、空飛べるのは当然なの忘れてたわ」

(当然なのはあなただけですよ、本来は限られた人しか使えないからねっ!)

「えっ、そうなのか?」

マジかよ、俺って魔法の扱いも天才だったのか……

そう考えた上で答えたら……

(えっ、もしかして知らない……?)

可哀想な人を見る目で返された

「まぁ現状の確認をしないといけないし、まずは国から逃げなけれ……」

フーリに向けて言っている最中、背中がものすごく熱くなった

それと同時に腹の中に空洞ができたような感覚になる

何だろ……意……識が…………

(ヒロォ……!)

2つの意味で墜ちていく最中、俺が逃げていた所から何か翼のある何かが国の上で飛んでた……



「あっちゃー……牽制のつもりで火球ファイアボール撃ってみたら当たっちゃった、どうしよう」

空の上では一匹の竜と、それに乗る一人の女騎士が飛んでいた

女騎士は兜を外して腰のバッグから双眼鏡取り出し、落ちてく黒煙の先を見る

「この高さだし、あれどう見ても即死だよね」

双眼鏡をしまって手綱を取り、王城に向かう

「あの子、突然彼女達を襲いかかってきたからどうしたのぉーと思ったけど……なーんかおかしいんだよねぇ……まっ、王様に報告してからでいっか!」


「クー……学院楽しんでるかな?」

続く

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