0-ルートA 誰のための青空 下

3日目夜 南方城下町

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」

火の手が回っている街まであともう少し、父さんと衛兵達が魔物の進攻を食い止めてるから援護しないと!

この時の私は街の現状よりも親たちの心配で頭がいっぱいだった

「(父さん……無事でいてくれよ!)」

そう内心祈って街にたどり着いた


私が街にたどり着いた時にはまだ火が出てたが鎮火するまでは時間の問題となるまでに弱まっていた

街は…………まるでゴミ捨て場のように死体が乱雑に散らばっていた

街をいくら見渡しても争った形跡しかない

ただ1つだけ争ったとは思えない所があるとするなら


ーーーヒロが街の真ん中で膝を着いていた


よく見るとヒロが見てる所を見てみると誰かが仰向けに倒れている

「……ヒロ?」

近づきながら恐る恐る話しかけると悲しそうな表情で私に向いた

「……クーか、見てみろ」

何度も苦しみ続けていたのか悲しいのか無関心なのかよくわからない表情で死体を見る

死体は水色の長髪で王国の関係者なのか服の肩に王国の紋章が刻まれてる、短めのスカートを着けていてそれ以外はただの一般人だ

たった1つだけ共通点があるとするなら……

「この靴……学院のか?」

人差し指から火を出して灯りを作り問いかける

「ああ、しかもこの学院の靴は踵の部分が足の重みで潰れる仕様になっている」

そう言いながら自らの靴の片方を脱ぎ、裏面の踵部分を手でノックする

「しかも材質上踵を潰す方法が足の重さで潰す以外ない、一度学院に長くいた人と会った時、靴の中からでもわかるくらい地面に着く程潰れてたのを見たことある」

靴を履き直し、こちらに向いて語る

「なぁクー、こいつを見てどう思う?」

どうにもこうにも、こんな新品同様のは1つだけしか……

「入学してから間もない?」

「そうだ、しかも王族ときた」

王族……国王側の人間で同じ学院か……

そう考えてから今更ヒロに一つ問いかける

「なぁ、なんでこんな所……」

「うーん……」

そう言い切ろうとしてたらヒロがスカートの下を見ようと顔を覗かせていた

「……って何やってんだよ!」

ヒロの頬を踏んづけた、ヒロはまるで懲りてないような声でこう言った

「あっ、ご都合主義みたいに真っ暗で一切見えねぇ!」

「そう言う問題じゃ……ねぇだろ!」

そう言って脇腹を強めに殴るとヒロは脇腹を抱えながら痛みに悶えた

悶えた後立ち上がって、そして服全体を見てからこう言った

「……でも、素性を知ることは可能みたい」

「?」

そう言ってヒロはポケットから手帳よりも一回り大きい手帳を取り出し、こちらに投げ渡す

「これ、何だと思う?」

そう言われて手帳の全体を見てみる

「いや、何だ言われても……」

こんな手帳……

「何も……」

何も変哲もないんじゃ……

「わからない……」

…………校章っ!

「あっ……学生手帳!」

「正解」

学生手帳……そういえば家に置いてしまったけど、学院の生徒なら必ず貰っていたな

何か探してるような素振りをしていたと思ったら、学生手帳を探していたのか

「それで、その手帳はどこに?」

「それを君に探して貰うんだよ」

「……はぁ?」

「だからねクー、彼女の胸元辺りを探して貰っていいかな?」

ヒロは頬を掻きながら目をそらす

「…………」

呆れた、ついさっきまでスカート覗こうとしてた人が胸元探るのを躊躇するのか……まぁやるけど、胸元触るのだけ避けてたみたいだし

「わかったよ、後で何か買ってくれよな」

「ありがたい」

ヒロは私が彼女の胸元を探り始めると明後日の方向に向く、何故彼が胸を触る事だけを避けてたのかと言うと後に聞いてみたら「触るなら生きてる人で、良ければ事故ったタイミングで」らしい、彼なりの矜持なんだろうけど笑顔で腹を殴ったよ

「さて……と」

胸元ねぇ、そこの何処にあるんだろ……

そう考えてブラ部分を触ったら、ちょうど谷間の中心位置に四角い物が

「……」

まさかと思い勇気を出して右手を胸の谷間に突っ込み、取り出す

「……あった」

予想通り谷間に挟んであったのは学生手帳だった

「本当か?」

ヒロは向こうを見ながら確認をする

「変なとこに隠してたよ」

「ならこっちが見つけられない訳か、どうする?」

こちらも状況が飲み込めない状態で聞かれてもな……

「開けて見るくらいならいいか」

そう言われるがまま、手帳を開けてみる

開けてみるとこの手帳の持ち主の写真と名前が入ってある、ごく普通の学生手帳だ


フロム・高等魔術学院学生証

『「特待生」ノープ・アキサメ』


名前の前に書かれている文字に気づくまでは少なくとも普通だった

「特待生」……学院に入るに至って、本人の体質や家庭の事情で学院生活に支障がでる可能性、または支障をきたしている人物が入学する証

まさか本当にいるとは……

「クー、こっちにも」

驚いていたとはいえヒロ言われてはっと気がつき、ヒロにも学生手帳を差し出す

「どれどれ……」

ヒロが手帳に目を通している間に辺りを見てこよう、父さんが心配だ

「・・・・・・」

いくら辺りを見渡しても真っ黒が続く、夜中に灯りを出しても燃えカスまみれで何が何だかわからないが、赤色が少し見えた気がした

「ここらで一体何が……っ!」

そう言って歩いていると目の前に横に倒れている目立つ体格の人がいた

見間違えるはずがない、父さんだ

「父さんっ!」

急いで走りだして近づくと魔術で灯した明かりが父さんの体を照らした

「……っ!?」

そして、照らされた父さんの背中には、斜めから切られた、背中を覆いつくしかねん程大きな傷があった

「あっ……あぁぁ…………」

父さんだった物にゆっくりと近づき、座り込む

「な……なぁ父さん……目を覚ませよ……」

そして腕を両手で掴んで揺らした、こんな光景は家族が見ても信じ切れないだろう

「おい……父さん……父さん!」

なにより自分が最も信じられなかった、目の前の家族が死体に成り果てていた光景を

「目ぇ覚ましてくれよ……なんで起きないんだよ!」

だんだんと強く揺らしていったが、死体となった父さんはピクリとも動かなかった

「クー……」

後ろからヒロの声がする、振り向いてみるとヒロはゆっくりと近づきながら周りを見渡してた

「ヒロ、教えてくれ……なんで父さんがこんな目に遭わなきゃいけなかったんだよ……」

「…………」

ヒロは少し苦い顔で答える

「いいか、命は一度限りだ……だが世の中は決まって命を減らし続けてしまう……」

彼の顔に涙のようなのが見える、少ないとはいえヒロはこの光景に悲しんでいる

ヒロはさらに言った

「運命はな……『決まった人物が死なないといけない』のではなく……『決まった人数が死なないといけない』んだ、それは『決定』ではなく『無差別』でな……それこそ世の中が歪んでいる証拠なんだよ」

ヒロは私の横で立ち、私の頭を撫でた

「歪んではいるんだよ……

「……えっ?」

一瞬……今ほんの一瞬だけ時間が止まるような言葉が出てきた

平和の為の争い……そんな言葉が

「ヒロ、何を言って……」

「ここで戦いが起こるのは少なくとも分かってたんだ、だから僕は人を守る為に最善を尽くしていたが……」

「……その結果って」

「守れなかったよ、な」

「じゃあお前が助けに行っても……父さん達を守ることは……」

ヒロは目を俯いて答えた

「……人は同じ人でしか救われない、だが人間は誰をも救うことはできない」

「っ!」

その言葉を聞いた時には、私は彼の顔を殴っていた

彼に怒りを感じた訳ではなく、自分自身に怒った訳でもなく、その言葉の意味を瞬時に理解してしまって、反応してしまった

「あっはは……こりゃ辛辣だ」

ヒロは殴られた箇所を擦る

こんな直ぐに理解できる言葉はそうそうないが、これは流石にそうなると理解していた

「当たり前だ!これじゃあまるで人間は誰しも救われないみたいに言ってるじゃないか!」

そう……こんな事を語っているに等しいからだ

「そうだよ?それがどうした?たかが人間だから言えるちょっとしたジョークを言っただけだぞ?」

一切嘘を言ってないのが尚更怒りがこみ上げてくる

「こう見えて俺は一応人間に希望を抱いているんだよ?だからこうして君とこんな所で会った訳なんだし」

そう言いつつヒロは両腕を広げて回りだす

本当に何なんだこいつ

「お前……目的は何なんだよ!」

私が訴えるように問いただすと彼はニヤついた顔の半分を見せて答える

「魔王撃破だよ?それ以前に勇者側がたどり着く前にお亡くなりしてしまうから、勇者の特訓とついでの魔王軍幹部殲滅だけど?」

「(ひでぇ……本来の目的と主要人物護衛とおまけが無茶苦茶になってる……)」

「お前なぁ……普通の人なのか狂った人なのか、はたまた別の何かなのかどれかにしろよ!」

そう言うとヒロは真顔で答える

異常者イレギュラーだけど、何か?」

そう聞いた私が馬鹿だった、初めて会った時から普通じゃない事くらいわかっていた筈なのに

「どっちにしろ、君には俺に協力する権利があるんだがどうだい?……するだろ?」

そう言いヒロは左手を差し出す

この言い方だと、従わない方がいいのだが……

「まぁ直ぐにとは言わないから、特訓に参加してくれるだけでも別にいいし」

ループする世界……夜中の奇襲……そして父親の死

この3つだけでも十分な材料が揃っていて、その一切を否定するのは自殺に近いな

……ってか自殺そのものか

「……いいよ」

「ん?何々……」

それなら上等だ、抗ってやるよ

「ああわかったよ!手伝ってやる、手伝えりゃいいんだろ!」

そう聞いてもヒロは私に向けて耳を澄ます

「うーん……もう一声!」

それでもまだ足りないのか、ああもう!

「何だってやってやる!一思いに使えっーーーー!」

私がそう叫ぶとヒロは「よし来たっ!」と言い、夜空に手を伸ばす

そうすると空から1本の剣が降ってきて地面に刺さる

「何それ?」

剣は真っ黒な色をして黒い刀身の中からはキラキラと光っている

星空の剣よぞらのつるぎだ、これから行く所に強敵がいるから使わざるを得なくてね」

ヒロは地面に刺さった剣を両腕で引っこ抜くと、剣の刀身がまるで星々を照らしているように輝く

「本来こいつはソロモンが失った時の『代理品スペアシステム』でな、剣と名付けているが元々は杖なんだ」

剣を天に掲げるとソロモンを開けた時のように四角い魔方陣が出てくる

「内部更新開始……」

ヒロが言うと彼の全身から文字が浮き出てくる

「耐性変更……対象に該当する得意属性に対する耐性へ変更後、対象の特攻指定を開始……」

何か意味わかんない事言い出して来たよ……

「特攻指定に該当あり、該当する魔術バランスの調整を終了次第、戦闘モードに移行」

彼が言えば言うほど体から出てくる文字が変わっていく

「調整完了……システム、戦闘モード起動します」

ヒロはそう言うと彼からくる気配を変えて目をつぶる

こいつは……異常すぎる、すら分からんな

「あーっと……ヒロ、何をしてんの?」

私が問いかけるとヒロは目を開き振り向く

「気合いの入れ直し」

そんなあっさり言われてもな……

「何してたんだよ……」

「ああ、これから倒す敵の情報を前週で手に入れた後だから、耐性と弱点を変えたのさ」

何かとんでもないこと私の前で言ったなぁ

「それで?その敵は何処に……」

「っ!?……危ない!」

私がそう言おうとしていたら、ヒロが唐突に私を押し飛ばす

さっきまで私のいた場所を見ると、そこには氷でできた塊が刺さっていた

「何っ……どこからだっ!」

「着弾位置逆算…………上だっ!」

二人して上を見上げると暗い空で見えずらいが、空を飛んでいる人影が見える

「やはり、生き残っていましたか……」

その人影は両腕の羽で羽ばたいて見下ろしていた

「ここの奇襲の実行犯かい?そうなら嬉しいけど」

ヒロが問うと人影は首を傾げながら答える

「さぁ?どうでしょうかね?」

「ま、どっちにしてもクーが狙いなんだろうし……」

ヒロがそう言いつつ懐に手を突っ込んで探る

懐から出したのは長い円状の筒だった、別の言葉で言い換えれば『鉄パイプ』である

「さぁ来たまえ……戦いの基本を教えてやる!」

ヒロは鉄パイプを人影に向けて構える

「へぇ、ただの人間でも私に挑むのか……いいでしょう受けてたt……」

「《照光サーチライト》っ!」

「ぎゃあああああああっ!」

ヒロの鉄パイプから光がバンッという音と共に放たれ、先程まで飛んでいた人影を照らす

照らされた人影はどうやら幹部級の魔物だったらしく名前が……確かコウモリの……、まぁいいやっ

その魔物が光を直視してしまったのか、目を隠して墜落していった

「とどめ刺しに行くぞっ♪」

ヒロはその光景を楽しんでいたのかいつもよりノリノリで、移動中も鼻唄を歌っていた

墜落地点についた頃には魔物は頭から石畳の地面に衝突して気絶していた、正直可哀想だとは思うが……

ヒロの言う通りだったらこの魔物が私を狙っていた事になるから、プラマイゼロってことで

「おらっ!そらっ!おぉい!てぇい!ほらぁ!クーも見てないで手伝う!」

こう考えてるうちにヒロが気絶している魔物に鉄パイプて滅多打ちをしていた

「(手伝うって言われてもな……ん?)」

足に何か当たったと見てみると、今は息絶えた兵士の1人が使ったであろう『戦棍メイス』が転がっていた

「後なぁ!1つ言い忘れてたのあるけどさぁ!」

鉄パイプで魔物に殴りつきながら話しかけてくる

「もしかして何かわかった!?」

「いやぁ?むしろ君の戦う理由になると思って伝えるけどさぁ……」


「こいつね、襲撃してる魔物を指揮してんの一度見た事があってだな……」


そして……私が完全に戦いに赴くことになった瞬間だった

ショックだった、目の前にいるこいつが父さんを死なせた直接な原因だと確信した

「…………」

戦棍メイス』手に取ってヒロの肩を掴む

ヒロは何かを察して道を譲るように距離を取る

こいつが……こいつがっ!

目の前にいる魔物は気が付いたが状況が読み込めず、しかも虫の息であった

その魔物に戦棍メイスを持ち上げ振り下ろしの姿勢に入る

「うおおおぉぉぉぉあぁぁぁぁ!」

一思いに戦棍メイスを振り下ろし魔物の胴体を砕く、その他の部位もこれでもかと言わんばかりに何度も振り下ろし続けた


………………


私が落ち着いた頃には魔物は跡形が残っておらず、ただそこには赤い水溜まりが出来ていた

「はぁ……はぁ……はぁ……ううっ」

ヒロが言うに私は気づいた時にはしゃがみの姿勢で子供のように泣いていたらしい

ただその時にヒロが言った言葉は今も思い出せる

しゃがみの姿勢で手を差し伸べて

戦いにしようや……今泣くのも、生き方を確かめるのも……その後でもいいだろう?」

日差しが差し込んでくる

もう夜が明けるのか、とても長くて……あっという間な夜、私はこの日だけは忘れたくはない

「ぅん……わかった……泣かない……これからは泣かないからぁ……」

「おう、今は精一杯泣け、泣いて泣いて前へ進もう」

私はヒロに抱きついて泣いていたらしい


………………


「もういいかい?」

私はその一言を聞いてヒロから離れる

「……うん、泣きそうな目に逢う事とか、誰かを泣かせる事をする奴らを倒してやる……徹底してなっ!」

「じゃあ!その為にも特訓だな!」

「え?今から?」

「そうだよ」

「もう1人は?」

「明日に延期」

「ってかもう1人って……確かさっきの襲撃で……」

「まぁ後でわかるさ!、とりま特訓場所へゴーッ!」

そう言ってヒロは何もない所から何かを出していた、何かで畳んで四角になっていた物だった

私はヒロに言われるがまま特訓場所まで付いて行った


4日目朝 草原

ヒロの特訓は単純にランニングだった、ただ速さを求めているわけでもなく、普通の

私はヒロに着いて行ってランニングを行っているが、何を意図してやっているのかはよくわからなかった

「ふーんふっふふっふふーふー……」

何か鼻歌を歌ってるし、何なら変に折り畳まれている何かを背負ってるし

ヒロが何か歌っている最中に畳んでいた物を前に出し森に視線を向ける、森から魔物が2体飛び出して来たがヒロはまるで知っていたかのように構えて待っていた

畳んでいた物の正体は大砲だった、明確には大砲より一回り小さい物だが

そうしていると森から魔物が2体飛び出すが

「ふふふっ!ふっふーふん……」

歌のノリに合わせて大砲の砲口、柄の順番で魔物を叩き、大砲を腰まで下げつつ片腕で構えて……

「オン!オン!オン!」

3発、鉄砲を3発森に向けて放った

放った先から少し悲鳴に近い声が聞こえたが、気にしないでおこう……関わりたくないし

「それでさヒロ」

「ん?何だ?」

私が話しかけると彼は振り返る

「なんで魔王を倒すなんて馬鹿な目標考えてるんだ?」

「あぁ……あれはね、だよ、これは」

……は?

「……は?」

「とりあえず町に戻るよ、授業もあるし」

この日以降、私は学院に戻っては授業を受け続けた

そしてある日、ヒロに呼ばれた


6日目放課後 草原

「なんだよー、唐突に真剣な顔をして「話がある」なんて言ってんだ?」

「2日でしっかり努力をしてる君にこれから教えるものがあってな……」

ヒロは右手から木剣を作り、こちらに投げ渡す

木剣の刀身は1メートルいくかどうかの長さだ

「これから君に教えてやる、虚像流を」

私は投げられた木剣を持ちヒロに剣先を向ける

「……?」

虚像流?聞いたことがない剣術だな

「何を言うかと思ったら、我流の剣術かよ」

「何なら覚えなくていいんだよ?ちょっと覚えればいいだけだし」

よしわかった後でコテンパンにしよう

「あーもうわかった!そんな安い挑発に乗ればいいんだろ!」

そう言いながら胴体に向けて突きを行うとヒロは想定外な行動を取った

ヒロは両腕と背中で木剣を挟んだ

「はぁ!?」

「《虚像流一の型……」

そう言っている内に木剣の刀身の真ん中からヒビが入り……

「《:木立たちき》っ!」

そしてヒビが入った所からへし折れた

私はこの光景を見ては唖然としていた

「な……何を……」

「剣の刀身に腕と背中を挟み梃子の原理を使ってへし折る《木立たちき》、本来の名前があるが……まぁ言う必要はないな」

「これがヒロの……」

「『源流オリジナル』がある『現流オリジナル』の武術、それがこの《虚像流》だ」

これはどの分野にも属していない……のか?

とりまそんな気がするが

「ほらほら!嬢ちゃんは強くなりたいだろ?」

考えてたらヒロが木剣をまた作っては、自分の右手にも木剣を作る

「次は全部受けきってみるんだなっ!」

そう言って私の前まで急に近づき、横凪ぎの斬撃を行う

私は直ぐ様に木剣を縦に構えて防ぐも、ヒロはその反動を利用して半回転して斬りにかかる

「えっ……ちょっ!?」

それも防ぐも半回転してからのVの字、縦斬り、切り上げながら後ろ回し蹴りといった連続攻撃を放った

「はあっ……はあっ……はあっ……もう終わりか?」

私はこれまで来た全ての攻撃を咄嗟の判断で受けきったが、手が痺れた……

ヒロは木剣を見ながら、不満そうな顔でいた

「う~ん……もう3~4回程増やせそうなんだよなぁ……」

えぇ、この6連撃まだ増えるのか……

「えぇー……」

「あらゆる攻撃の型を繋げ、1つの型同様に使う《虚像流一の型:連華れんげ》だ、君にはこの《連華れんげ》を覚えて貰うぞ」

うっわ最初から……いや、始める前からやるつもりかよ……

「……ちょっと無理っぽくね?」

「人間は努力をすればなんでもできちゃう生物だぞ、申し訳ないけど」

拒否権はないみたい

「さぁ始めるぞ!」

そう言って《連華れんげ》の習得が始まった

最初は3連から練習をしてたが、次第に私の剣撃の速度が上がっていってるのがわかったのかヒロは「今度は《連華れんげ》同士のぶつけ合いをしよう」と言い出した

勿論私はその発案に賛成して、反復練習をして折れかけてた木剣を取り替えてから、お互いが互いを見ながら構えた

「いいか?本来この技は斬撃時の型に囚われない事で汎用性を重視しているが……クー、最大連撃数は?」

「11連だが、まだいけそうな気がする」

「オーライ、では……」

ヒロからくる気配が変わる、そろそろだな……

「始め!」

合図と共にヒロは近づきつつ切り上げの姿勢を取る、私もその姿勢を見てから木剣の刀身を肩に乗せ振り下ろす

互いの剣がぶつかり合い、その後もヒロの剣の軌道を見切ってはそれに対応する型で応じるの連続が続いた


6日目夜 草原

「ぜぇ……ぜぇ……きょっ…今日の所は……ぜぇ……このくらいか……」

この連撃合戦が夜中になるくらいまで繰り返し練習をした、そのせいでお互いの木剣の刀身が細剣レイピアのようになっているのが、休みなしに相殺を繰り返していた証拠だろう

「はぁ……はぁ……つ、疲れたぁ……」

私はこの特訓はとても有意義に思う

「あぁ、そうそうクー」

「ん、何だ?」

そう言ってヒロは懐から1枚の紋章のついた手紙を取り出す

「君宛だ、見たことない紋章付きでな」

紋章には1体の竜に乗った騎士が刻まれてる

ん?竜の騎士……あっ

「もしかして……」

この国でこんな紋章を使う人は身内に1人しかいない

「……やっぱりな」

予想通り母からだった、手紙の内容はというと……


~クー宛の手紙~

クーへ、お父さんが亡くなった事は聞きました、この事に関しては私はどう答えればいいか……しかし私達サキジマ家の情報が途絶えた訳ではありません、情報網は私が代わりで動いていますのでクーは貴方の赴くままにやりたいようにやりなさい


母より


追伸

学生証部屋に置きっぱでしょ?

10秒で届きますから


…………10秒?

そう考えるとヒュッて音と共に首元スレスレの軌道で学生証が手元近くに刺さった

「うわっ!?母さん何で私の位置わかってんだよ!」

怖えぇ……入学して以降一切会ってないのが尚更怖えぇ

「いやはや、昨日の放課後でさぁ……君の母さんに会っちゃったんだよ」


5日目放課後 城下町

「さて……と、特訓の時間だな」

ある程度用事を済ませて特訓に向かおうとした時、誰かが近づいて来た

「あのー、娘の……お友達でしょうか?」

水色に寄った白髪のショートロングで目が細い、一見すると大人の風格があるが、それとは思えないくらいおっとりとした表情をしていた

「えっと……もしかしてクーの家族か何か?」

「はい、母の『サニー・サキジマ』と申します」

こちらが問うと向こうは自己紹介をしてお辞儀をする

「娘が世話になってますぅ」

「お、おう……」

何か調子狂うなぁ……おっとりしてる分ほんわかした感じがする

「ってか何でクーと一緒にいるのわかってんの?」

こちらから聞いてみるとサニーは首を傾げて答えた

「……?それはぁ当たり前ですよ、衛兵さんから城の外に出たって聞いたんですから」

ああそう言うことか、「身内」に頼っていい案件なのか聞いたのはこの為か、天晴れです

「それで、こちらになにかご用で?」

そう聞いてみると自らの胸の谷間に手を突っ込み1通の手紙を取り出す

……この世界では胸の辺りに大事なものを入れる習慣でもあるのか?

「こちらの手紙を娘に渡すよう、お願いしますぅ」

手紙を見ると変わった紋章をしていた

竜騎士……こんな世界でもいるもんなんだな

「了解、娘さんに渡しときますよ」

「ありがとうございますぅ」

手紙を懐にしまう

誰かに頼まれるのは慣れてるが、こういう人は慣れないな

でもクーのお母さんなんだ、護身用に……

「あぁそうだ、お近づきの印にこれを」

そう言ってソロモンを取り出し『武具図鑑』を使う


『武具図鑑』……起動確認

武器種指定……特殊武器

『武具生成』起動……構成製作から生成まで省略

『神剣「はじめ」』生成完了


「護身用のとしてお使い下さい」

本から杖にしか見えないレイピアを作りだし、サニーに渡す

「あ、ありがとうございます」

向こうも礼をしてはレイピアを腕に引っかける

「そういえばクーちゃんと外で何を?」

「特訓だよ、守る力を鍛えてる」

そう答えると向こうはおぉーと納得する

「まだまだ彼女は未熟者だ、他者を守ろうとしている覚悟は認めるが、自分を守らなきゃ意味がないし」

「そうねぇ……いつも先走って見てくる子ですし、護身の為の特訓はいいわねぇ」

「あっ……そろそろ行かねぇと、それでは!」

「行ってらっしゃーい!」

話している内に時間が押していたので礼をして特訓場所に走った


6日目

「……って訳」

「なるほ……っておい」

「何だよ、移動最中に泥棒相手にラリアットかました話でも気になった?」

「違うそうじゃない、お前母さんになに渡した!!」

そう聞いてみるとヒロは少しの間を開けて

「護身用の武器?」

あっこれは……(察し)

「嘘ついてんのわかってんからな」

ヒロは手を振ってわかったわかった……と言い、一呼吸置いて

「虚像流を作った時、源流オリジナルがあるって言ってたな?」

「ああ、言ってた」

私が答えるとヒロの右手から1本の剣が出てくる

明確には生えてきたような状態だが、全体を見ると1~2メートルくらいあり、剣は赤く染まった持ち手がある片っぽだけ刃、直剣ショートソードとは違って刀身全体が反れている

「それの情報を元にしてな、武器を作ったんだ」

そう言って左手で鞘を作り、ゆっくりと剣を収める

「その名も『特異武具』……俺が言えるのはこのくらいか」

「じゃあ、今鞘に入れたのって……」

「ああ……これ?」

ヒロはそう言って鮮やかな青の鞘にしまった剣をこっちに見せてくる

「『仁刀「銀」』だよ、『特異武具』の1つ」

「……母さんに渡したのは?」

「『神剣「一」』だ、只の細剣レイピアだよ、最初に作ったとはいえなかなかな出来だったが」

さらっと凄いこと言ったなぁ……

「それで、この剣?のどこに特異って要素があるんだ?」

聞いてみたら素っ気ない態度で答えた

「これっ、切れ味がない」

しかも即答、まさか欠点からとは

ヒロは服の袖からロープを取り出しては鞘と鍔を強く結ぶ

「これ……いやこの子は、ちょっと普通の刀とは違ってな、『守り』に特化してるんだ」

「守りって、切れ味なきゃ守る意味もないんじゃ……」

「そこがミソなんだよ、これは切れ味は全くもってないがそれ以外の全てに強大な強度を誇る……予定」

「ちょっ……予定かよっ!」

「仕方ないだろまだ型だけを作ったようなもんなんだから」

「(型だけ……ってことはまだ中身が出来てないのか)」

ヒロが持ちます?と問われ、頷くと差し出してきた。

差し出された刀を持とうとする時に「持ち手には触れるなよ」と釘を刺すように言われたので鞘から掴むことにした

質感とかはまだ型だけとはいえしっかり手に馴染む、まるで私の為に作られたような錯覚を覚える

「結構……触り心地がいいな、これ」

「この手の物は本来普通じゃないからね」

「本来普通じゃない」この言葉を聞いてすぐにさっき言われた警告の理由がわかってヒロに返した

「どうする?実際に完成したら使う? 」

「さっき普通じゃない宣言された後に言う台詞じゃないだろ、いざって時でいいよ」

そう答えるとヒロは了解と言って手の中に仕舞った

「それで、何を目的とした特訓なんだ?」

私も地面に刺さったままの学生証を取ってポケットに入れる

「そうだな……」

ヒロは答えを選んでいるように少しの間が開き、こう答えた

?」

「……は?」


続く

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