2-2
俺は神を信じない、何故かと言うと死んだ者は絶対に帰ってこないと
……ただ、それだけなんだ
1日目早朝 裏路地
こいつぁ参った……今日はツイてない
「な…何をしているんですか!」
勇者の嬢ちゃんが構える
あーあ……こりゃ警戒心マックスだ、何言っても信じてもらえそうになさそう
でも何も言わないよりかはまだましだし、ここは一つ……
「えっと……魔物の掃除です」
こんくらい言えばもしかしたら信じ……
「ふざけないで!こんなところに魔物なんてでないのに……」
まじ?ここ魔物でないのか、じゃあ自分から勝手に地雷踏んだって事か
ならば……我流交渉術その1『武器を捨てる』
武器を捨てて向こうから害がないと思わせる
そうしてからでも会話は十分できるはず
嬢ちゃんもなんか誤解しちゃってるみたいしね
「待ってくれ、何か誤解してるみたいでこっちも対処に困っちゃうから、ほら、魔王とかとは無関係だし」
こう言っても信じなさそうだし懐のナイフに閃光なり何なりと着けて、逃げの一手を打つか……
「そんな事……誰が信じるんですか!!」
ほぅら予想通り、なら演技でも自己紹介でもして隙を伺っておきますか
「わかった!わかった!名前と目的を言えばいいんだな!!俺は御崎 啓、神名乗る人にこの世界救うと頼まれてここに飛ばされた一般人!」
自分でもこの必死さは少し引くけど……
「あ……えっと、マリー・メイドレス……です」
効果はあったみたいで何よりだ
この隙に懐のナイフを出しておこう、確か背中の腰辺りだった筈だが……あった
《心象武器生成》……起動
「
小声でナイフの刀身を変える、何か目眩ましになるものは……
「帰すって保証もない状態で自分は無関係、何て言われても……」
『
勘が良さげな嬢ちゃんが気づきそうだしそろそろ……
ナイフを軽めな感じに捨てる
「何をす……」
ナイフを捨てるのに気づいたが……もう遅ぇ
「
ちょっと手を離しても直ぐとまでは魔力の制御がきくらしい、これはいいこと聞いた
……っと関心してないで、剣取って退散退散ーっ!
1日目朝 宿屋
「あっぶねー、危うく彼女に戦闘態勢を取られる所だった……」
「勇者に敵対されるのはさすがに危ないからねー」
フーリがしっかり独り言に答えてくれてる
「それで、勇者ちゃんはどうだった?」
フーリがノリノリで聞いてくる、まるで私が育てたみたいな事言いそうな顔でしちゃって
「ひっでぇもんだよ、加護を使った実戦をしてたら事後処理する前に彼女に見つかっちゃってよ……」
「それは災難でしたね」
「そんな他人事みたいに言うなよ……」
「どうする?ハグした方がいい?」
「いらないって」
フーリが両腕を広げて待ってるが頬に掌で押して拒否する
「だが聞きたいことはある、彼女のスキルの《勇者の素質》ってのは何だ?」
「ほいこれっ」
そう言って指を鳴らすと、一冊の本が出てきた
表紙に(るーるぶっく)と書いてある
「(と、取説……)」
それを手に取り開けてみる
1ページ目から目次が見える、前半はこの世界の常識や環境といった知識の確認用、いわば説明書で後半はスキルや武器の性能が見れて図鑑……いや辞書に近い状態
「スキルは125ページからね、勇者関連のならもっと後半だから……270ページ辺りかな?」
どんだけページあるんだよこの
「勇者の素質……素質、あった!」
《勇者の素質》 種別:特殊
勇者に選ばれた者のみが持つスキル
自身の全ステータスに+100の補正と《聖剣使い*》の効果を持ち『聖剣』装備時に効果が+500上がる
*聖剣使い 武器カテゴリ『聖剣』を持てるようになる
おっそろしいなこのスキル、聖剣持った途端全ステータスに+600の補正って恐ろしい事この上ない、勇者として覚醒とかする前に敵対視をどうにかしないとこちらが瞬で溶ける羽目になる
「フーリさん、なぜこんなことを教えないんですか……」
「いやだって……勇者の証位の認識しかなくて、初めてその内容を見たもので」
「取説はせめて読んで……、少なくとも基礎辺りは覚えて……」
まったく……こんなのがこの世界の神を名乗れるのかねぇ……
「でも勇者用のスキルって他にもあるんだな……見てみろよフーリ」
読んでみると勇者の素質よりも興味深いスキルがあった
「?」
「スキルに《
「嘘っ!?本当にあったんだ!」
もう、何が起こっても驚かないと思ったけど、これは想定外すぎる
《神格化》 種別:特殊
このスキルを手に入れた時点で所持者の魂は肉体から離れ、さらに高次元の領域にたどり着く
魔術を行使する時に、極めて濃く圧縮した魔力を放てば持てると言われている
言われているって、まるで伝承とかで書かれてそうな典型文……多分、『見た人自体が存在しないから』って所か
「こんなもん知ったら……否が応でも世界を巻き込む馬鹿をしたくなるな……」
「ちょっとちょっと、流石に均衡を揺るがす事は……」
フーリが止めようとする、そもそも神の方からこんな事起こして、そもそも……
「
わかってるから『こんな事が言える』とも言いきれるが
「現状ループ確定って所がまだいいんだよ、なら世界そのものがぶっ壊れてもまたゼロから始まる……
あまりにも高まりすぎて笑ってしまう、僕はまだやれると意気込むほどに……
「ヒロ……」
不安が募っているのかフーリが心配そうに見てる
そう心配そうに見るなよ……戦いは始めたばっかりだしよ
「フーリ」
声をかけ、フーリが顔を上ようとする所で抱きつき頭を撫でる
「心配するな……君も僕も死にやしないよ……僕が守ってやるからさ……」
そう聞くなり震えだし
「うん…………うんっ!」
頷きながら泣いていた
彼女もまーだ甘いなぁ……また泣いちゃって
彼女からの恩を売った以上、神様に借りも恩も持たせたくないし
「それで……今からどうするつもりなの?」
「そりゃもちろん……」
やることはただ一つ……
「
1日目昼 草原
草原の真ん中に立ち、目をつぶってステータスを確認する
『ミサキ・ヒロ』 レベル34
攻撃:170(+20)
魔法:42(+50)
速さ:33
賢さ:57
技量:50
スキル スキルポイント:18
《環境適応》《連続攻撃》《強化付与+》《敵情確認》《加護:心象武器生成》
うん、やっぱりレベルは上がってるな
スライム一匹とゾンビとゴブリンの大群……ゾンビとゴブリン一匹につき経験がいくつもらえるものか……
とりま、初期から入ってたスキルを見ますか
「フーリ、取説を」
そう言うと前方から出てくる
《環境適応》 種別:通常
悪天候や極限環境の悪影響を防ぐ
《連続攻撃》 種別:通常
攻撃すればするほど武器の切れ味が増す
《強化付与+》 種別:通常(任意)
エンチャント・プラス
指定した武器に時限式の強化、武器に+15の補正(時間制限3分)
なるほど、1~2週の僕はスキルを見事にバランス構成でやったのね、ステータスの方はゴリ押し推奨だけど
「まぁ、これはこれで悪かないかな」
そろそろ狩りを始めるとしよう、《敵反応感知》をフーリに任せて僕は敵を挑発して経験稼ぎの贄になってもらうか
「えぇーっと、敵挑発用の魔法とかはあるっけ?」
(一応ありますけど、《具現化》を使った方が早いですね)
《具現化》?またなんか新しいのが……
《具現化》 種別:通常(中位)
術者がイメージしたものを実際に発生させるスキル(発生物は魔術扱い)
お手軽便利で今にも笑いたくなってきた、この子本当に世界守りたいのだろうか怪しくなるなぁ……
《具現化》を覚え、早速ながら笑いを堪えつつ指で銃の形を作り
「(笑うな……まだ笑うなっ……)」
真上に煙つきの赤い光の球を放った
「(《
そう考えていると地震のような音がして、その音はどんどん大きくなっていく
(敵反応!か、囲まれました!?)
ルールブックで全体地図を流し読みしてたが砂漠や凍土、密林方面と四方八方に反応
中には上位の魔物もいるのか、僕を見るなり下がったりした個体もいる、でも基本は様子見に近い下がり方だ
上等……目的がレベルの底上げだったし《発煙弾》の効果テキメンってとこか
僕は鞘にいれてた二本の剣を抜き……早速実験を始めた
「
「
刀身を自在変形させる刃は可能っと……
「ほいっ」
変化した剣を振り自身を中心に身を守りつつ近寄る魔物を切り刻む領域を作る、これは剣技 《刃の結界》って名付けておこう
そう思っていると興奮した魔物が近寄り、バッサリ切り刻まれた
せっかちだなぁ……まだ確認しかしてないんだから……
もう1本の剣に目をやり
「
牽制のために作った刃の結界をくぐるように鳥のような魔物が近づく
しかし、攻撃をしようとしたらピタリと止まり、羽だけが切り取られてた
「
右手の剣から刃がなく、そのかわりに十字の刃がヒロの周りをを守るように回っている
持ち手から離れても平気……と、知っておいて損はないようなのはこのくらいかな、そろそろ……
「刈り入れ時かな」
「
左手の剣を鞘に納めつつ、右手側の剣の握り手を伸ばす
「
剣の刀身に横から同じ刃が二本生える
刀身変化ができ次第に敵に向けて構えた
「へへっ、近づいてみな……皆まとめて滅多切りしてやるから!」
……この戦場に笑い声が響いた
「あははははっ!おらぁ!」
自分から近づき魔物を切り刻んでいく
(ヒロ!6時方向…危ない!)
左手でナイフを取り出し槍と化した剣の柄に着け
「
ナイフが変わり槍の柄にくっついた正方形でできた筒のような物に刀身から変わった1本の杭を包むように出てきて、
「
出てきた杭を地面に突き刺すようにしまい、辺りを見渡す
魔物達は怯え近寄ることさえ出来ないでいるが、後ろから道を譲るように作っていくのが見えた
お、敵将か?と思っていると……
(ヒ……ヒロさん……ま、まままま……)
フーリが怯えていた
ん?フーリがこんな反応してて、魔物とかじゃないってことは…………あっ(察し)
「何者だ……?この私の軍勢を止める者は」
えっと……マジ?魔王本人来るの?総大将きちゃっていいの!?
マジついてない……こりゃやばいっ!
後、魔王本人が女性で目のやり場に困る衣装は何とかならなかったのか!?
「いやぁ……魔王直々に来てもらえるとは何と光栄な事か……」
落ち着け……読心術がなければ、後は会話をして退散させるだけだ……とりま《敵情確認》
『魔王・デス』 レベル78
攻撃:8700
魔法:7800
速さ:5000
賢さ:10000
技量:4000
スキル
《見切り》《オートパリィ》《連続魔》《上位魔術複合》《領域展開》《魔術反射》《物理無効》《反撃無視》《性能偽証》
うん、無理……パワー差4桁は笑えない
これは勇者もきついぞ……1~2週じゃ流石に勝てる相手でもない
「貴様か、貴様は何故我が軍勢を止める?」
「『経験を積んでレベル上げ』って言ったらどうする?」
「力が欲しければそう言えばいいだろう、我が軍に入れてやるぞ」
即答、しかも魔王から
「そうも言ってられないのよ……ほらっ『大人の事情』って奴、わかんない?」
そう言うと魔王は首を傾げる……やっぱわかんないか
「まぁ、有り体で言うなら『加入する理由がない』……かな?」
まだ何も所属はしないよ、例えどんなイベントが来て悲しい目にあったりしても
会話をしてる最中に即退散とでもするか
「じゃあそう言うことで僕はこれで……」
「待て」
……体の自由が利かない、見えない糸みたいなのが全身を縛っているのか?
ってかこの状況まさか……
「あのー、このままじゃ帰れないんですが……」
「気に入った、城に持ってく」
「ちょっ、ちょちょちょちょーー!」
まずい、演技が裏目に出ちった……やばい、引きずられて連れてかれてるっ……!
今、
「魔王……待って!3日!3日程時間をください!まだやり残した事あるから!お願い!」
必死に魔王に期限付きで自由を乞うしかない、つい先ほど僕を気に入ったとか言ってたし、条件には飲んでくれそうだが……
「むぅ……強情な奴だ、しっかり3日で来てくれると誓えるか?」
「そんな約束事みたいに言わないでよ~、破ったら即、なんて事起こすつもりでしょ!?」
「その通りだ、さぁ誓え……3日でいいのだろう?」
ああこりゃぁ……偉い目にあった……
1日目夕 宿屋
「はぁーーぁぁぁぁ……」
「ヒロが悩むのもわかるよ……まさか魔王がくるなんて思わ」
「2日程伸ばせばよかったぁぁぁぁ……」
「(そっちなんだ……)」
魔王と遭遇してしまってからおよそ1時間、正直頭を悩ませたイベントだったが、魔王にしっかり『3日後に草原で待て』と言われて退散してもらってよかったと我ながら思う
帰り際に衛兵よりも高い階級の兵士達がさっきまでいた草原へ走っていったが、魔王はさっき
「でも、期間が貰えただけでもよかったじゃん」
「だけどなぁ……3日では無理なんだよ……」
「何故?」
「あの勇者との仲をどうにかできる訳ないだろ……?」
「あぁー、そう言えば今の目的は……」
「勇者に勝つ事」
「……だよね」
そう言って武器をしまい、部屋のベッドに寝転がって
「今日は寝る……なんか疲れた」
「まぁ、お疲れ様です」
そう言うのを聞いてから、僕は眠りについた
2日目早朝
「……んっ」
またこんな時間に起きちゃったよ……まぁいいけど
「はぁ……そろそろやるか、《心象武器生成》……」
そう言いながらベッドから立ち上がり、宿屋を出ていき、草原に行くことにした
草原
両腕を正面に伸ばし、両手を広げる
「スゥーー……」
息を整える……今出来る事を知りつつ
何の武器をも持たないでの《心象武器生成》
多分だがこの状態で行うとなると予想は一つ……
「《
魔力を継ぎ足し、こねるように形を安定させる
そう繰り返していく内に魔力から意思を持つように武器としての姿が露になる
1本の……無骨なデザインの灰色の刀ができた。それを持ち、構えてみると武器の方から使い方を教えてくれるかのように軽く、振ってみると空を斬る音がする
「さて……これはどうなるかな?」
丁度近くに岩があるから、切れ味があるか確かめてみた
頭から割るような縦一閃、ガコン!と鈍い音とともに岩の一部が砕ける音がした
どうやらこの武器は切れ味がなく、『斬る』と言うより『叩き斬る』の類いの物だった
「成る程……」
岩程度では刃こぼれを起こさない程の刀身、その刀身に《心象武器生成》は効くかどうか刀身を上にして確認をしてみる
「《
そう言うと刀の刀身は伸び縮みをし、元に戻る
しっかり機能してるみたいでよかった
よし!この武器の名は《
「どうですか?ヒロ、新しく作った武器は」
「うわっびっくりした!」
いつの間にか後ろからフーリがいた、夢中になってて気づかんかった
「あ、ごめんね!起きてみたらいなかったから……」
「その辺りは僕一人で確認したかったからね、それに一人の方が武器生成で異常は起きないし」
「それなら私にも言ってください……街中探しましたんですから」
「内緒事は言わない性分でね、申し訳ないけど」
フーリと会話しつつ、街に戻っていった……
続く
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