第67話 イチョウ
10月20日の火曜日。天気は快晴です。パレットがスッキリ爽やかな心持ちで教室に入ると、室内はどこか殺気立っていました。その理由は来週中間テストがあるからなのでしょう。いつもはすぐに話しかけてくるあのミッチーでさえ、教科書とノートを見比べていました。
「むう、えーと……」
パレットはそんな彼女を刺激しないように、そっと気配を消して自分の席に座ります。席に座った彼女は、鞄の中の物を机の中に入れて一時間目の授業に必要なものを机の上に並べます。普段はミッチーが話しかけてくるのでそれに付き合っていましたけど、今週はテストモードに入っているので静かなものでした。
手持ち無沙汰になったパレットも教科書を広げてみますが、イマイチ身が入りません。彼女の成績は中の下くらいなのですけど、勉強に対するモチベーションは低いようでした。
「ま、1学期の期末より落ちなきゃいーか……」
そんなテンションのまま時間は流れて放課後へ。視聴覚室が空いていないのはもう学習済みですから、パレット達はそのまま帰宅の流れになりました。
「パレチー、ちゃんと勉強してる?」
「ぼちぼちかなー。それにほら、文化祭用の原稿もやんなきゃだし」
「まだ終わってなかったの? テスト終わってから3日しか時間ないよ?」
この親友の言葉は、パレットの胸に深く突き刺さります。精神的な致命傷を負いながらも、彼女は必死に反撃を試みました。
「た、短編だから! その気になったら一日で書けるから!」
「そう? ならなんで今書けてないのかな~?」
「ぐぬぬ……」
苦し紛れに放った起死回生の一言も、長年の付き合いのミッチーには通用しません。返り討ちにあったパレットは、ついに何も言い返せなくなってしまいます。そんな彼女の横顔をちらりと目にしたミッチーは更にダメ押しをしました。
「それに、今大事なのはテストの方でしょ。ならまずは目の前の敵を倒さないと」
「だよね~」
そんな会話をしていると、2人の前に立派な木が見えてきました。それはイチョウです。この時期らしくそれは見事に葉っぱが黄色く染まっていました。あまりの立派さ具合に、パレットは思わず立ち止まります。
「見てミッチー、すっごい鮮やか!」
「本当だ。秋って感じだよね」
「もうちょっとしたら黄色い絨毯が出来るよ」
「テストが終わった頃くらいかなぁ……」
折角話題を変えようとしたのに、結局また振り出しに戻ってしまいました。その後もパレットは必死に話をテストから離そうとしますが、どんな会話もミッチーによってテスト関連の話題に戻されてしまいます。
で、別れ際になるまでパレットの好みの話題が続く事はなかったのでした。
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