第68話 お茶漬け

 10月21日水曜日。今日も秋晴れのいいお天気です。テスト期間に入ったので、クラスと言うか学校全体がお勉強モードになっているこの雰囲気がパレットは苦手でした。普段から勉強をするタイプじゃない彼女も一夜漬けモードで教科書やノートとにらめっこする日々なのですけど、本番は来週なのでまだイマイチ実感が湧いていません。


「この雰囲気、やだなぁ……」

「でもテストだもん。ここで頑張らないとでしょ」

「ミッチーはいい点取れそう?」

「悪い点を取らないように頑張るんだよ!」


 まだ多少やる気のあるミッチーは、頭の中を切り替えてテストモードに入っていました。実際、成績もパレットより上なのです。こう言う心構えがテストの点にも影響をするのかも知れません。

 そんな重い雰囲気の中で放課後になり、2人は帰路につきます。パレットはこのテスト期間を少しでも有意義に過ごそうと、ミッチーに質問しました。


「夜遅くまで勉強しているの?」

「いや、ただテレビを見る時間を復習に使ってるくらいかな」

「私勉強に取り掛かるまでが遅くてさー。全然勉強出来てないんだ」

「ああ、あるある~」


 勉強あるあるで少しずつ話が盛り上がってきます。パレットはそこで話を少しずつ広げていきました。


「勉強しなきゃなのにゲームしたり掃除しちゃったり……」

「あるよね~」

「な~んにも頭に入ってこなくて思わず寝ちゃったり」

「それダメなヤツ~」


 ミッチーも盛り上がってツッコミのバリエーションも増えていきます。やがて、彼女からのネタ振りも始まりました。


「あんまり夜遅くになったらお腹空かない?」

「あ、夜食ってやつ?」

「そうそう、お腹空くと頭に何も入らなくなるし」


 夜の空腹対策、それは夜ふかしでは当然出てくる普遍のテーマです。ミッチーからのこの問いかけに、パレットは空を見上げながら自分の考えをまとめます。


「私はパンとかお菓子かな~」

「それお小遣い減っちゃうじゃん。あたしはお茶漬けだよ~」

「お茶漬けなんだ? それって永谷園の定番のやつ~?」

「まぁ毎日だと飽きるけど、たまに食べると美味しいよ」


 パレットは自分の選択肢になかったこのお茶漬けと言うワードに興味を持ちました。そこでこの話題を掘り下げようと試みます。


「お茶漬けってミッチーが自分で買ってくんの?」

「いや、父さんが常に切らさないように常備してるから」

「同じやつを?」

「お茶漬けって結構種類があるんだよ。梅茶漬けに鮭茶漬け、ちょっと贅沢なお茶漬けとかもあって、勝手に食べてる。あ、でも毎晩じゃないよ。多分毎晩食べても怒られないとは思うけど」


 その後の帰り道はお茶漬け談義で盛り上がります。この会話中にパレットの食卓にもお茶漬けの元がある事を思い出したため、今夜こっそりそれを試してみようかなと彼女は企んだりもしたのでした。

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