第64話 柿
10月17日土曜日。今日は朝から雨で気温もぐんと下がりました。パレットは布団から出られません。雨音が耳から優しく世界を包み込んでいきます。その雰囲気を彼女は存分に楽しむのでした。
「今何℃くらいなのかな……」
室温が気になったパレットは部屋に置いてある目覚まし時計を眺めます。この時計に温度計機能も搭載されていたからです。そこに表示された数値は20℃でした。
少し前に30℃を超えていた事を思い出した彼女は、軽くため息を吐き出します。
「嘘……20℃って11月の気温じゃん」
思わずエアコンを動かそうととも思ったパレットですけど、10月に動かすのに気が引けたため、何とか持ちこたえて起き上がります。20℃ならちゃんと服を着れば耐えられない程でもないからです。
「文化祭用に色々とやらないとだし、それもそろそろ中間テストもあるからなぁ」
パレットは思いっきり背伸びをすると、手ぐしで髪をなでつけます。雨で外出の予定もなかったのでもう一度倒れ込むと、創作ノートを広げました。文化祭用の話のネタを考えるのです。
「うーん、一体どんな話がいいんかなぁ……」
ずーっと降り続く雨音がいいBGMになって、彼女の頭はいい感じで冴えていきました。短編のアイディアもいくつか思い浮かび、それを簡単なあらすじにしていきます。こうして話は思い浮かんだものの、登場人物についてピタリと手が止まってしまいました。
「やっぱ、架空の人物の方がいいよねぇ……名前、どうしよう」
そう、パレットはキャラの名前に悩むタイプです。一度悩み始めると、丸一日考えてもピッタリくるものが思い浮かばないほどでした。創作作業もそこでストップしてしまい、パレットは思わずネットを彷徨い始めてしまいます。
「あはは、この動画おもしろ~い」
そうやっている内に、時間はあっと言う間に過ぎていったのでした。
「パレット、柿切ったから食べてね」
ネットサーフィンしていた彼女に母親からの声が届きます。柿と言えば秋の味覚と言う事で、パレットは台所に向かいました。辿り着くと、テーブルの上にお皿に乗った柿がデーンと鎮座しています。美味しそうな甘柿。彼女はひとつつまむとひとかじり。すぐに口の中に甘い味が広がっていきました。
「あま~い。秋の味だあ」
「でしょ? やっぱ秋は柿よね~」
パレットが秋の味を堪能していると、そこに母親が現れます。この意見に対して、娘はすぐに異を唱えるのでした。
「10月は柿かもだけど、9月は梨だよ!」
「あはは、そうだね」
母曰く、この柿は近所の人からの貰い物なのだとか。その後も雑談は続き、母娘2人によってお皿の上の柿はすぐになくなってしまったのでした。
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