第65話 きのこのカレー

 10月18日の日曜日。今日はちゃんと晴れたのでいい行楽日和です。とは言え、事前に何の計画も立てていなかったのでパレットはずっと家にいました。文化祭用の原稿って言う大きすぎる宿題もありましたし。


「うーん、短編って言っても話が思いつかなきゃ何も書けないよー」


 文化祭で文芸愛好会に割り当てられた部屋は視聴覚室ではありません。生徒減少で出来てしまったいくつかの空き教室のひとつでの展示です。視聴覚室は映画を上映する他の部活が使うようでした。

 映像ソフトの上映と言うある意味手抜きな発表は他の部活でも割と見られていて、アイディアが思い浮かばなかった部活の最後の手段とも言われていたりして。


 とは言え、空き教室を使うと言う事で入室のハードルは割と下がったかも知れません。文芸愛好会の知名度は低いですからね。それで、一般生徒に日頃の創作の腕を披露する訳ですから、手を抜いてなんていられない訳です。


「ミッチーは今頃4コマを描いてるのかな。漫画は一瞬で読めるし、いいなぁ」


 壁に貼る短編はその形式から言ってもそこまで長文には出来ません。出来れば3000文字内に収めた方がいいでしょう。そのボリュームで面白いと思わせる、起承転結がきちんと揃った短編。更には学校にちなんだ内容の方が興味を持ってくれるはず……。考えに考えていたパレットは頭がフットーしそうでした。


 いつも休みになるとどちらかがどちらかの家に遊びに行っていたパレットとミッチーですけど、昨日も今日もお互いに会う事はありませんでした。パレットはミッチーも今頃頑張っているんだなと思いながら、ネタノートに向かい合います。


「うわあああ……。名前が思い浮かばないよー!」


 短編自体の簡単なあらすじはいくつか思いついたものの、またしてもキャラの名前がハードルになってきます。頭を抱えた彼女がまたツイッターとかに逃げていると、母親からの昼食のお誘いがありました。


「お昼ごはんよ~」

「はぁ~い」


 今日の昼ごはんのメニューはカレーです。ルーはパレットの好きな熟カレー。ご飯をついでたっぷりルーをかけてカレーライスの完成です。一説にはご飯にカレーをかけたものはライスカレーと呼ぶべきみたいな意見もありますが、細かい事は気にしなくてもいいですよね。大体、カレーと言えばカレーライスですもの。


「うまいうまい」


 大好きなルーで作られたカレーだけあって、パレットは夢中でスプーンを動かしていきます。その様子を見た母親も、ニッコニコで娘の食べっぷりを愛でるのでした。


「美味しい?」

「うん。色んなきのこが入ってるのもいいね」

「パレットが気に入ると思ってね。喜んでくれて良かった」

「やっぱり母さんの作るカレーは最高だよ」


 そのカレーにはぶなしめじや舞茸などのきのこがたっぷり入っています。秋と言えばきのこのイメージですが、今ではスーパーなどで年中手に入りますよね。それでもやはりきのこカレーは秋のイメージではないでしょうか。

 自身も作ったカレーを食べながら、母親はどこかで仕入れた知識を披露します。


「舞茸って昔は松茸よりも高級だったんですって。工場で生産出来るようになって手頃になったんだよ」

「へぇ~」

「舞茸の名前の由来だけど、舞茸を食べたお殿様があまりの美味しさに思わず舞いを披露したからって説もあるんだって」

「へぇ~」


 パレットは母親からの豆知識を興味深くうなずきながら聞いていました。とは言え、今は食べる方がメインだったので返事はとても適当です。そんな態度を取られても、母親はあまり気にせずにその後もきのこ知識を喋り続けたのでした。

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