第63話 文化祭の準備
10月16日の金曜日。今日は今話題の例の映画の公開初日です。パレット達のクラスでは不自然な理由で休む生徒はいませんでしたが、他のクラスでは発生したとかしなかったとか。とは言え、話題になっている事は変わりがありません。明日明後日に観に行くと言う話をしている生徒は教室内にたくさんいるみたいでした。
「パレチーは鬼滅の刃の映画観に行くの?」
「行くとは思うけど、そんなすぐには行かないかな。混み合ってそうだし」
「あたしは観に行こうとは思ってるよ。だってすごいじゃん。1スクリーンじゃなくて3つも4つものスクリーンで上映してるんだもん。こんな田舎の映画館でだよ? もうお祭りだよ」
「ま、確かにねぇ……」
ちなみに、メルヘンタオルシティにはシネコン方式の劇場が2館あります。そこがどちらも複数のスクリーンで鬼滅の刃を上映しているのです。地方の劇場でどのくらいその効果があるのかは分かりませんけど、劇場側はそれだけ期待しているのですよね。恐るべきは鬼滅人気と言ったところでしょうか。
時間は過ぎて放課後、パレット達は視聴覚室へ。今日は正式な部活の日なので、当然渡部も部室に来ていました。パレットが教室に足を踏み入れると、すぐに窓際に座る男子生徒が目に入ります。
「こんにち……おっ」
その挨拶に気付かなかったのか、気付いてない振りをしているのか、渡部は無言で本を読んでいます。遠目には何の本かは分からなかったものの、普段の言動から考えて、ラノベの可能性が高そうでした。
彼とは普段からあんまり交流をしていないのもあって、パレットは敢えて接触する事もせず、すぐにいつもの定位置である大西先輩の後ろの席に座ります。
「お、来たねえ」
「はい」
「こんにちは~」
クラスでは鬼滅の刃の話題ばかりでしたが、流石に部活ではそう言う話題は一切出てきません。今日の部活では、来たるべき文化祭について何をするかが話し合われました。
「えっと……今日は10月31日にある文化祭について……何をするか……決めたいと思います。何か……ありますか……?」
「はーい。今までに作った会誌とか、私達が作った同人誌の販売がしたいで~す」
部長の呼びかけにすぐに反応したのは大西先輩でした。部長はすぐにその意見を黒板に板書します。
「は……はい。えー……と、他には……」
「漫画とか小説の原稿の展示とか……?」
次に意見を出したのは渡部です。これもすぐに部長は板書しました。文芸愛好会の文化祭の出し物と言う事で、ここまでは普通に出てくる意見でしょう。後は、それ以外のアイディアが出てくるかどうかです。
まだ何も喋っていないパレット達は、謎のプレッシャーを感じていました。
「どうしようパレチー。何かアイディアある?」
「ごめん。私も何も思い浮かばない」
その後、大西先輩が似顔絵の実演だとか、グッズの販売とか、簡単な小説講座だとか、意見を出しまくります。次々に湧き出すその勢いを、パレット達は感心しながら聞くのでした。
「やっぱ先輩はすごいね」
「だね~」
「ちょっとそこの一年? あんたらも意見出さんと」
「「ええ~っ!」」
傍観者を決め込んでいたパレット達は、いきなり大西先輩に名指しされて声を揃えるくらいシンクロして困惑します。
「ほらほら。じゃあ、パレットから言ってみ」
「え、えっと……カクヨム投稿作をプリントアウトして?」
「で、どうするん?」
「か、壁に貼る……とか?」
意見を聞く大西先輩の目は真剣です。ただ勢いの思いつきで喋っただけのパレットは、緊張で思わす冷や汗を流しました。
「壁に貼るなら短編がええけど、パレットは出せそうな話あるん?」
「え、えーと……」
「じゃあ文化祭までに新作を書かんとね。私らもいくらか新作を書くよ。じゃあ次はみちる!」
どうやらパレットの意見は採用されたようです。そうして、矛先がミッチーに移りました。何の心の準備も出来ていなかった彼女は、ピシッと岩のように固まります。
「えっと……あの……」
「何かない? ないならないでもええけど……」
「ぶ、文化祭用に新作の学校の話題をネタにした4コマを描きます! 受けそうなのを! それを壁に貼ってください!」
「おお、ハードル上げたねえ……出来る?」
「や、やります!」
ミッチーは思いっきり胸を張って先輩の言葉に答えました。それは勢いに任せて言ったのかもですけど、先輩もその意気込みをしっかりと受け取ります。
こうして文化祭用のアイディアは出揃い、次はその中からどれをするかと言う段階に進みます。今日はそれらを決めたところで、ちょうど下校時間となったのでした。
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