第62話 セイタカアワダチソウ
10月15日の木曜日。今日も天気は気持ちの良い秋晴れです。何事もなく時間の過ぎた平和な一日。放課後になって、パレット達は当然のように視聴覚室へ向かいました。その途中で、彼女達はとある教室を通り過ぎます。
「あ、あれ見てパレチー」
「お、渡部がいる」
「1人じゃん……」
そう、そこは渡部のいる2年3組の教室でした。室内は部活に行く人や帰る人でざわついていて、教室には半分ほどの生徒しか残っていません。その中で大抵の生徒は誰かと話していたりグループになっているのに、渡部だけは教室の隅っこで誰とも接触していませんでした。
その様子を目にした2人は色々と察して、気配を消しながら通り過ぎます。
「想像はしてたけど、想像通りだったね」
「この事は秘密だよ、パレチー」
その後、2人は視聴覚室に到着。先輩達とアニメ談義やら創作談義などを繰り広げます。読み専になったミッチーは先輩達の作品を称賛したり、パレットの作品の問題点を指摘したり……。そう言う今となってはお馴染みのやり取りを楽しむのでした。
話がいい感じに落ち着いて、パレットは外の様子を見ようと窓に向かいます。すると、部活をする生徒達に混じって帰宅する生徒達の姿が確認出来ました。
「おー、みんな帰ってる」
「パレチー、何か面白いものでも見えた?」
「いや、別に普通だけど……あっ、あそこ」
「あれ、渡部じゃん……」
2人が発見したのは1人で孤独に校門に向かう渡部の姿。彼とは部活以外での接点が全くなかったのもあって、パレット達はまたしても色々と想像を膨らませてしまうのでした。
「やっぱ友達いないのかな?」
「いなさそーじゃん」
「お、何の話しよん?」
そこで、この会話に大西先輩が入ってきました。そこで2人は渡部の話を振ってみます。先輩は窓枠を触りながら、帰っていく孤独な男子生徒を捜しました。
「あ、おったおった。まぁきっと渡部も1人が好きなんやないん? ただ、今日そう言う姿を見たからって、友達が1人もおらんとは限らへんけんね?」
「そ、そうですよね……」
「流石に1人くらいは友達もいるかな……」
渡部談義はそこで終わり、またいつもの雑談へ。そうして今日も楽しい学校生活は終わります。帰り道、2人になったパレット達は周りの秋めいた景色を愛でながら、それぞれの家に向かって歩いていました。
目に映ったのは線路沿いに咲くコスモスや道端に並ぶススキ、そして――。
「あたしさあ、セイタカアワダチソウって好きなんだよね。パレチーは?」
「えっ? 別に普通……」
そう、この時期によく見かける草花のひとつ、セイタカアワダチソウ。世間一般では雑草と呼ばれるたぐいの、しかも迷惑植物にも分類されるアレです。何故かと言うと生命力が強く、他の草花を追いやってしまうから。群生している姿もよく見かけます。なので、嫌っている人の方が多いくらいなのかも知れません。
そんな嫌われものの花ですが、見事な黄色は鮮やかで花自体も可愛らしく、いくつかの花にはミツバチが集まっています。じっくり見れば、そこまで嫌われるほどのものでもないのですよね。
ミッチーは、そんなセイタカアワダチソウに特別な思い入れがあるようでした。
「花も小さくて可愛いし、生命力が強いでしょ。そこがいいんだ」
「あ、花ってじっくり見た事なかった」
「じゃあちょっとよく見てみ?」
ミッチーに強く誘われて、パレットもアワダチソウの花をしっかり観察します。確かに友人の言う通りで、花を見ている限りでは嫌われる要素は見当たりません。
「花だけ見ると悪くないね」
「でしょ。ちょっと生き方が図々しいだけで」
「確か、他の草花と共存出来ないんだよね。悲しい習性だなあ」
「そう言うのも含めて、あたしは好きなんだよ」
その後もミッチーのアワダチソウ談義は続きます。興味を持ったきっかけがアニメだったり、何故嫌われているのかを調べて逆に好きになったり……そんな話を、パレットは時々相槌を打ちながら楽しく聞いたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます