第61話 10万文字

 10月14日の水曜日。今日もいいお天気。パレットは調子よく寝坊してしまい、今日は遅刻ギリギリでした。席についた途端にチャイムが鳴ったので、彼女はほうとため息を吐き出します。

 次の休み時間、ミッチーがニコニコしながらやってきました。


「どったの、今日は」

「あはは、寝坊」

「夜ふかしでもした?」

「したかも。最後時計見てなかったから」


 実は、パレットは新規の小説の設定作りにのめり込んでいたのです。お風呂から出てからもずっと夢中になってそれをしていたので、寝るのが遅くなってしまったのでした。


「設定って考え始めると時間忘れちゃうよね」

「あー分かる。漫画とか、キャラを考え始めたらあーでもないこうでもないってね。小説でもそう言うのある?」

「漫画ほどキャラの容姿は考えないけど、最初に考えたのが後のストーリーの展開で設定が変わったりとか……漫画とそんなに変わらないね。あ、キャラの描写が文章だけだからキャラの人数はそんなに多くは出せないかも。その点漫画はいいよね」

「ああ、漫画だと最終的に総キャラ数が50人とかになる事も普通だもんね」

「小説じゃ10人出せるかどうかだよ~」


 パレットは小説の弱点を吐露してため息を吐き出しました。そんな友人の様子を見たミッチーは、彼女の肩にポンと手を置きます。


「まぁ、楽しみたまえよ」

「うぃっす!」


 そうして時間がポンと飛んで放課後、2人は視聴覚室へ。教室には大西先輩と部長が仲良く並んで座っています。


「どもー!」

「こんちにはー」

「おっ来たねえ。はよ座り」


 先輩に誘われて2人は定位置へ。早速ミッチーが声を弾ませます。


「今日は何してたんですか?」

「私らもさっき来たばっかりよ。じゃけん昨日のアニメの話とかかな」

「何が面白かったですか?」

「あのタイトルのよく分からんやつ……」


 先輩の話していたアニメはどうやら『まがつヴァールハイト』と言う作品のようです。原作はスマホのゲームと言う事で、先輩も前情報なしで見た様子。その作品を見ていないパレット達、当然すぐには話に入れません。


「この作品ね、モブだと思っていたキャラがエンディング見たらキャスティングの一番上やったんよ。その演出がちょっと斬新で、追いかける事に決めたわ」

「じゃあ、無能なナナの逆パターンですね」

「お~。ええ喩えやねえ」


 こうして、先輩と部長がまた2人だけで盛り上がり始めます。パレットはミッチーのこのコミュ力に感心しました。そうして、自分が入り込める話題になるまで聞き役に徹します。


「……やっぱり意外性は読者を掴む方法の定番やから」

「先輩も色々仕込みます?」

「まぁそれは考えるよ~」


 やがて話が創作の流れになったので、パレットの耳がピクリと動きます。後は上手くタイミングを見計らうだけでした。そうして、慎重に言葉の切れ目を見極めます。


「でも、ギミックだけで話を組み立てても、よっぽどやなかったら読者も気付くもんよ。みちるも読む側に回ったら気付くやろ?」

「ああ~。探偵モノでトリックだけが凝ってる作品はちょい萎えますね」

「そ。やっぱり芯になる物語が面白くないとあかんのよ」

「あ、あの……っ」


 満を持してここでパレットが参戦です。とは言え、ここまでの流れを変える一言になるので、彼女は多少緊張して言葉がつまります。

 友人と先輩の2人から注目されて、パレットはゴクリとつばを飲み込むのでした。


「長編の10万文字ってどう思います? 私、色々考えてると余裕でオーバーしそうで……」

「あ~、それね~。10万文字で収めるならエピソードを厳選せんとあかんよ」

「私それが苦手で……どうすれば……」

「パレットは映画、よく観る?」


 いきなり映画の話を振られてパレットは困惑します。ただ、それにも意味があるのだろうと思い、素直に答えました。


「まぁ……月に1回くらいは?」

「10万文字のボリュームって2時間映画一本分くらいのイメージよ。そう考えて組み立てればええんやない? って言うか、10万文字にこだわらんでも好きに書いたらええやん」

「映画かぁ……分かりました」


 パレットと先輩で創作談義の盛り上がる中、聞き役に回っていたミッチーがここである事に気付きます。


「あれ? パレチー今まで長編書いてないじゃん」

「だから、挑戦してみようと思って。それでエピソードを考えまくってたんだよね」

「夜ふかしの原因、それだったんだ」

「うん」


 その後、話は夜ふかしに移って雑談は続きました。みんなの夜ふかしエピソードで盛り上がった後は、更にそこから派生した話題で話は続いていきます。

 こうして、この日も楽しい放課後の時間は過ぎていったのでした。

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