第60話 フルーツのど飴

 10月13日の火曜日。今日も秋晴れのいいお天気です。パレットも今日は余裕を持って登校し、校門前でミッチーと合流しました。


「お、パレチーおはよ」

「おはよ。ここで会うのも久しぶり」

「パレチーが遅いんだよ~」

「えへへ」


 意気投合した後は、2人仲良く話をしながら教室へ。室内も活気にあふれていて、アチコチで雑談が響き合っていました。その内容は、ゲームの話やらドラマの話やらアニメの話やら……。パレットが席に座って準備をしていると、それらの作業を手早く済ましたミッチーがやってきます。


「カクヨム読んだよー」

「ちょ、ここでその話は……」

「大丈夫だって。みんなそれぞれのグループの話に夢中だから」

「でも大声では話さないでね」


 パレットは趣味の話が周りに漏れるのを警戒して小声になります。そこはミッチーも同じ創作趣味のため、しっかりわきまえていました。これ系の話題って、どうしてオープンに出来ないのでしょうね。まぁ中にはオープンにしている人もいるのでしょうけど。そう言う人は周りの雰囲気がいいのだろうなぁ……。


「パレチーの作品、面白かったよ」

「あ、ありがと。応援も嬉しかったよ」


 パレットは、昨日自作に応援が入ったのを確認していました。けれど、コメントがなかったので少し嫌な予感を感じてはいたのです。そうして、その理由を本人の口から聞く事になってしまいました。


「でもさ、やっぱり先輩達の作品と比べると話が分かり辛かったり、テンポが悪かったり、引きが弱かったり、キャラに魅力が薄かったりだったね」


 友人の口から淀みなく発せられるダメ出しの数々に、パレットの精神ゲージはゼロになります。そもそも、指摘された問題点はパレット自身も自覚していました。だからこそ何も反応が出来ないのでした。

 その燃え尽きた様子を見て、ミッチーも自分のやらかした残酷な仕打ちに気付きます。


「あ……ごめん」

「いや、いいよ。分かってるし……先輩達がすごいんだよ。年齢、一歳しか違わないのになぁ……」

「やっぱそこは才能じゃない?」

「だよねぇぇぇ……」


 ミッチーも同じ創作者なので、ジャンルは違えど格が違う人への憧れや、そこに届かない現実には共感出来るものがありました。なので、2人は揃ってため息をつきます。場の雰囲気が暗くなったのもあって、そこからは別の話題、例えば昨日見たアニメの話題とかに話を切り替えました。

 その後は何事もなく時間は過ぎて放課後へ。パレット達はいつものように視聴覚室に向かいます。


「ちわーっす」

「こんちには」


 そこには1人でスマホを眺める大西先輩が。どうやら今日は部長はいないようでした。パレットは何となくその事に触れないように先輩の後ろの席に座ります。


「おお、2人共。よう来たねぇ」

「先輩、おばちゃんみたい」

「あはは。アメちゃんいる?」

「やったー」


 パレットが冗談かと思って先輩のノリに付き合うと、彼女は本当にポケットからフルーツのど飴を取り出して後輩2人の前に差し出します。


「もろたもろた言われんよ」

「あ、有難うございます」

「先輩、この飴……」


 飴を受け取りながら、ミッチーが意味深な事を口走りました。何を言い出すのかと、パレットは思わず友達の顔を見つめます。


「これ、ディオに売ってるやつですよね? 私も好きなんです!」

「おお、ほうよほうよ。みちるも好きなんでぇ。良かったわあ」


 2人が意気投合した飴の正式名称は『どっさり実ったフルーツのど飴』。美味しいフルーツ味ののど飴で、名前の通りにたくさん入っているのが特徴です。ディオでは1袋150円くらいで売ってるので、お値段的にもかなりお得なのでした。

 パレットは2人の会話に混ざろうと、素朴な疑問を口にします。


「先輩、授業中飴なめてるんですか?」

「まぁ、たまによ。退屈な4時間目とかね。見つかってものど飴やけん言い訳も出来るし、てか、今までバレた事ないし」

「「おお……」」


 先輩の話に後輩2人は声を揃えて感心します。とは言え、パレットは授業中に飴を舐めるリスクを考え、真似しようとは思わないのでした。

 その後は、同じ飴が大好きなミッチーが先輩と盛り上がります。そのノリに何となくついていけなかったパレットは、この話の続く間、ずっと聞き役に徹する羽目になってしまったのでした。

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