第50話 エナドリ
10月3日、土曜日なので遅くに起きたパレットは録画予約しているアニメを消化していました。秋クールが始まったので、これから確実に追いかける作品を厳選しているのです。
「うーん、番組が多すぎるよお……」
最初はどれが面白いのか分からないので、ジャンルの違う作品も頑張って見てしまいます。だからこそ、クール始めはいつも時間がいくらあっても足りないくらいなのでした。
ただ、流石にアニメばかり見ていると感覚が鈍ってきます。それもあって、3番組、4番組目に突入する頃には惰性で見ているような感じになってきていました。
「あはは、何このテンプレ、受ける~」
昼食を食べ終わってもそんな感じで見ていたので、本当に面白く感じているのか、ハイになって面白い気がしているのか分からない状態に。そんな時、唐突に玄関のチャイムが鳴りました。
留守番状態だった彼女は、面倒臭そうに来訪者の確認に向かいます。
「今いいところだったのに……誰だよ……」
「やっほー! 開けろやー!」
「……ま、予想はついてたけどね」
そう、お客さんはミッチーでした。パレットは渋々玄関のドアを開けます。
「どうしたー? 魂抜けてんぞー!」
「いや、いつもアポなしやね君」
「あたしらの間にアポなんていらんでしょ」
そんな軽い挨拶を終えて、パレットは友人を迎え入れます。ミッチーにはカルピスを与えておけばいいので、冷蔵庫からそのセットを取り出しました。
「んで? お土産とかはないのかね?」
「あー、あるよあるよー」
「えっ?」
いつも手ぶらな彼女からの意外な返事に、パレットは逆に動揺してしまいます。カルピスセットを自室のテーブルに置いたところで、パレットは友人の顔をじっと見つめました。
ミッチーはそんな視線の意図をスルーして、ニコニコ顔で友人の顔を見つめます。
「ところで、今まで何してたの?」
「あ、録画アニメの消化。今クールも番組が多くて参っちゃうよ」
「何かいいの見つかった?」
「まぁ、やっぱ前評判がいいのは面白いよね」
その後もアニメ談義は続き、お土産の話はどこかに行ってしまいます。パレットとミッチーは好みが微妙に違うので、同意したり、時には言い合ったりと、雑談だけで時間があっと言う間に過ぎていきました。
「……ああ、それで私が来た時ちょっと機嫌が悪かったんだ」
「まぁね。チェック作品のラストを見始めたばっかりだから」
「じゃあ一緒に見ようよ。あたしもそれ見てみたい」
「と、その前にさ」
しびれを切らしたパレットはここで自分から話を切り出します。そう言う展開になってなお、ミッチーは全く気付く気配がありませんでした。
「お土産って何よ?」
「あー、忘れてたわ。ごめん」
ミッチーは全く悪気なく笑いながら上着のポケットから『それ』を取り出します。テーブルの上に置かれた250ミリリットルの缶を見て、パレットは反応に困りました。
「ゴールデンハンマー? どうしたの?」
「父さんから貰ったんだけど、あたしいらないからさ。飲むでしょ?」
「あはは、なーんだ。うん、貰うよ。ありがと」
ゴールデンハンマーとは、格安スーパー『ディオ』のオリジナルブランドのエナジードリンクの商品名。レッドブルのお仲間とも言えるものなのですが、その一番の特徴はお値段で、何と税抜49円で買えてしまうのです。その安さもあって、パレットはすごく疲れたり眠ってはいけない時に、ちょくちょくこのエナドリの世話になっていたのでした。
ミッチーも当然その事は知っていて、だからこそ持ってきたと言う事のようです。
「これが缶ジュースより安いってやばいよね! まぁあたしは飲まんけど。パレットも飲み過ぎたら死ぬよー! 気をつけなっ!」
「人をそんな目で見ないでよ! 週に1本飲むかどうかくらいだから!」
「そっか。じゃあ早くアニメ見よっ!」
こうしてお土産問題も解決して、2人は揃って視聴途中だったアニメを鑑賞します。最後に残した作品は2人の知らない原作モノ作品。これがまた2人の好みに全く合わないものだったので、何だか消化不良気味な気持ちになったのでした。
「……なんか付き合わせちゃってごめん」
「パレチー、これ見続ける?」
「流石にちょっとねぇ……」
その後は、口直しに今の所のオススメ作品を見る事に。こうしてテンションが戻ったところで、2人はまたアニメ談義を続けます。
そんな感じで、友人との楽しい時間はまたたく間に過ぎていったのでした。
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