第49話 コスモス

 季節が10月に入ったからか、パレットは景色のアチコチに秋を感じ始めました。部活も終わっての放課後、ミッチーと一緒に帰り道を歩きます。


「ほら、あの雲、もう全然夏と違うよね」

「だってもう10月だよ? 当然じゃん」

「ふー。空が高いなぁ……昔の人は上手い事言ったよねぇ」

「天高く馬肥ゆる秋、ってやつね~」


 パレットは歩きながら背伸びをして、その勢いで空を見上げます。少し肌寒い空気が頬に心地良くて、浮かぶ雲の形もとても素晴らしくて、季節の空気を彼女は思いっきり吸い込みました。隣を歩くミッチーはと言うと、両手を首の後に組んで友人の話に適当に相槌を打っています。

 少しずつ日も短くなってきていて、2人共早く帰ろうと、この時期はもうあんまり寄り道をしなくなっていました。


 耳を澄ますと秋の虫が鳴き始め、夜の準備が段々と整ってきます。帰り道の道中の半ばに差し掛かり、雑談のネタも尽きかけていたところで今度はミッチーが話を振ってきました。


「ところでさ、創作活動は捗っておるかね?」

「それは個人的な? それとも部活?」

「どっちでもええよ?」

「色々とネタは思いつくんだけどねぇ……」


 パレットは、思いついてもそこから踏み出せない個人的事情を吐露しました。それを聞いたミッチーは、同情するようにうんうんとうなずきます。


「あるあるだよね。何て言うか、最初の一歩が結構重いんだよな~」

「落書きなら簡単に描けても、いざちゃんとしたものを描こうとしたら手が動かない、的な~?」

「そうそう、不思議だよね~」


 2人が意気投合していると、道端にキレイな花が並んで咲いているエリアに差し掛かります。その土地を管理しているのが花好きな人なので、季節に応じた花がたくさん植えられていています。パレット達はここでその時々に咲いている花を見て、季節を実感する事もよくある事なのでした。

 春はチューリップ、梅雨時にはあじさい、夏は当然ひまわり、そしてこの季節はと言えば――。


「ミッチー。いつの間にかコスモスが咲いてるよ」

「おお~。色とりどりと見事なものだねぇ」

「コスモスって花が咲くまではあんまり意識しないけど、咲いちゃうとつい見ちゃうよね」

「ああ、確かに。見ちゃうねぇ」


 コスモスはオレンジ色に黄色に白に赤にピンクにと、様々な色で咲き乱れています。花びらも柄になっているものや、シンプルに単色のものまで様々。花の形や大きさは一緒なのにその癖バラエティに富んでいて、見れば見るほどに賑やかでした。


「ねぇ、ミッチーは何色が好き?」

「そりゃ秋の桜って書くくらいだし、ピンクかな」

「ああ、ピンクもいいよね。私は白とピンクのこう言う不思議な柄のやつが好き!」

「あ~。なんかずっこい!」


 パレットが自分の答えを口にした途端、ミッチーが不満を訴えます。何故そう言う流れになったか分からなかったパレットは、すぐに異議を訴えました。


「え~、何がよ~!」

「だって柄とかさ~。ちょっと特別感あるし」

「言った者勝ち~」


 ミッチーのクレームを軽くスルーして、パレットは笑います。その笑顔を見たミッチーは、話題をくるっと変えてきました。


「でもコスモスって不思議だよね。場所によって花の色が違うのはあじさいも一緒だけど、ここまで同じ場所で色んな色が咲き乱れるってさ」

「なんか法則みたいなのはあるんだろうけどね~」

「それに色が豊かすぎ。探せば何色のコスモスだってありそう」

「あるんじゃない? 見た事ないけど青いコスモスとかだってさ」


 コスモスの色の話題だけでもかなり話は続きます。それほど不思議な魅力をこの花は持っていました。

 不思議なのは勿論花そのものばかりではありません。今度はパレットがそっちの流れの話題を振ります。


「コスモスってさ、一本一本すっごいヒョロヒョロしてるじゃん。だからなのか、一輪で咲いているのって見ないよね」

「1本だとここまで背が高くはならなさそう。すぐに風で折れちゃいそうだよね」

「やっぱコスモスはたくさん咲いてこそだよね~」


 こうしてコスモス談義で間をもたせながら、2人は残りの帰り道も楽しく過ごしたのでした。

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