第44話 創作系ネタ その1
9月最後の日曜日、パレットは相変わらず自分の趣味の新作ネタの設定をつめていました。遅い目覚めの後はずっと寝転びながら、ノートに向かって思いついたものを書き残していきます。
昼食後も彼女はその物語の事で頭がいっぱいでした。すぐにベッドに直行してああでもないこうでもないとベストな展開を妄想します。
「んーと、ここは……」
最初は異世界が舞台のファンタジーで進めていたものの、展開させていく内に舞台は現代の地球へと――。そんな感じでノリノリで書いていたものの、ある程度書き進めたところで、この流れでいいのか迷いが出てきました。
「やっぱり異世界からこっちの世界に舞台が移るのはどうなのかな……ずっと異世界で行くべきかな……」
話が現代の地球に移るのは異世界の勇者がその世界の破壊神を異次元に封印してからなので、彼女はそこで話を切り分ける事にします。
「ここからの展開は2部って言うか、パート2的なものにするかな……」
一度そう決めたら、また大まかな流れを整理します。最初は異世界編と現代地球編はかなり密接な関係にあったのですが、共通要素を減らして異世界編だけを見てもきれいに終わって、現代地球編だけを見ても意味が通じるようにしていきました。
「よーし、まぁこんなもんか」
「な~にがこんなもんか、よ」
「ヒィッ!」
ずっと1人で集中していたので、突然耳に飛び込んできた声に驚いたパレットは軽くその場で軽くジャンプします。ただ、その声が聴き慣れたものでもあったので、彼女はすぐに振り返りました。
「何だミッチーか」
「いやそうだけど……すっごいびっくりするじゃん?」
「今日会う予定だったっけ?」
「予定ないと遊びにきちゃいけない?」
アポなし訪問で現れたミッチーは軽く首を傾げます。折角来た友人を追い返す事も出来ないので、パレットは作業を止めて座り直しました。
「じゃあ何する?」
「その夢中になっていたのは何?」
「ああ、創作ノートだよ」
「おおっ、読ませて読ませて」
好奇心に駆られたミッチーは、パレットから強引にノートを奪い取ると一気に読み始めます。その手際は見事なもので、焦ったパレットが手を伸ばしたところをタッチの差で取られてしまったのでした。
個人の創作ノートは日記みたいなもので、妄想ダダ漏れな内容は読まれたくないのが普通です。パレットもまた、それを読まれるのをすごく恥ずかしがりました。
「あーん、読んじゃダメー」
「もう読んじゃった」
割と速読な彼女は、妄想ノートに書かれてある物語の要点を一瞬の内に頭の中に収めてしまいます。そうして、恥ずかしがるノートの持ち主に向かってポツリ。
「第一部はテンプレだし、第二部はパクリだね」
「パク……は?」
「だってこの展開、破壊神マグちゃんじゃん」
「え? あーっ!」
そう、第二部は勇者に異次元に飛ばされた破壊神が弱体化したまま日本の離島に飛ばされて、そこで出会った少女と楽しく過ごす日常モノ。その話の流れはジャンプに連載中の漫画とほぼ一緒なのでした。
ミッチーの指摘でその事に気付いたパレットは、思わず頭を抱えます。
「すっごくいい感じで思いついたと思ったのに……」
「まぁでもいいんじゃない? 展開はそっくりだけどキャラは違うんだし」
「いや、もうちょっと設定を考え直すよ。ありがとう、教えてくれて」
「う、うん……」
問題点を指摘してくれた友人に敬意を評して、パレットはミッチーに改めて向き合います。そうして、そこからは昨日と同じようにゲームをしたりミッチー好みの動画を一緒に見たりと、おもてなしに専念しました。
たっぷり遊んで友人と別れた後にパレットはまたノートに向き合うものの、すぐに別のアイディアが思い浮かぶはずもなく、ただ悶々とするだけでその日は終わってしまったのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます