第43話 スピ系サイト

 9月最後の土曜日。パレットは部活とは違うプライベートな創作活動をしていました。具体的に言うと、新作のアイデアを思い浮かんだのでその構想を練っていたのです。それは主人公が不思議な出来事に遭遇して、不思議な力を使えるようになると言うファンタジー。

 午前中は、その話の設定を考えている内に過ぎていきました。


 昼食後も創作力は衰える事なく、彼女は思いついたものをノートに書いていきます。その上で矛盾がないかを考えたり、考えている内にまた新しい設定を思いついたりと、新作の構想にのめり込んでいきました。

 そうして、分からない事はネットで検索して調べ、そこで知った事を更に検索して調べと、無限検索沼にハマっていきます。


「おーい、遊びに来たぞー」


 その夢中っぷりは、いつの間ににか遊びに来ていたミッチーにも気付かないくらいでした。無視された事が気に障った彼女は、気配を消してパレットに近付きます。

 そうして、夢中になっているスマホの画面をひょいと覗き込みました。


「何見てんのー?」

「ひゃあああっ!」


 背後からの声でやっと気付いたパレットは、突然の出来事に大声を張り上げます。その聞いた事もないような音量に、ミッチーは反射的に飛び退きました。


「あれ? ミッチー?」

「そうだよ。何夢中になってんのさ」

「あ、ごめん、ちょっと新作の設定を考えててさ」


 パレットは改めて友人の前に向き直します。ミッチーは彼女の手にあるスマホの画面を改めて覗き込みました。


「へぇ、エロサイトでも覗いてんのかと思ったらもっとヤバいね~」

「な、ヤバくなんかないし!」

「だって、なんか宇宙人からのメッセージ的なやつでしょ、それ……」

「いや、これ色々検索してて、その流れで……」


 パレットは誤解を解こうと、こうなった経緯を言い訳のように早口でまくし立てます。ミッチーはフンフンとそれを興味深そうに聞いていました。


「……と言う流れなんだよ。だから特に普段からこう言うのを見てるとかじゃ」

「なーんだ。折角仲間を見つけたと思ったのになー」

「えっ?」

「あたしはこの手のサイトを見るの好きだよ? 想像力が掻き立てられるじゃん」


 ここでパレットはからかわれている事に気付きます。そうして、目の前のニヤケ顔にポカポカと殴るふりをしました。


「もーっ!」

「はは、悪い悪い」

「でもさ、こう言うサイトってパレチーはどう思う?」

「え?」


 いきなりの質問にパレットの体の動きは止まります。彼女は顎に指を当てると、真剣に考え込み始めました。すぐに答えが返って来なかったのでミッチーは焦ります。


「いや、そこまでマジになんなくていいよ。あたしもよく読んでるしさ」

「……信じるとかどうかは別にして、面白いとは思う」

「だよね。私もそうなんだけど、この手のサイトって手抜きだと思わん?」

「え?」


 意外な言葉が返って来て、パレットは思わず聞き返します。友人の言葉が頭の中で乱反射するものの、その意味をしっくりと理解する事は出来ませんでした。多分それは、パレットがこの手のサイトを今まであまり読んだ事がなかったからなのでしょう。

 キョトンとしている友人に向かって、ミッチーは説明を続けます。


「自分で思いついて書けている人以外は、みんなその手の本の転載をしてるだけなんだよ」

「え? そうなん?」

「だよ~。これを手抜きと言わずなんて言う~?」

「確かに手抜きだー」


 意味が分かったところで2人は笑い合います。そうして笑い終わったところでミッチーはパレットのスマホを奪うと、チョチョイと軽く操作をして返しました。


「さっきの設定の話だと、このサイトの情報が参考になるんじゃないかな?」

「え? ありがとう」


 この思わぬ援護射撃に、パレットは素直に頭を下げます。ミッチーは得意げな顔になると、左手を腰に当てて友人の顔を見つめました。


「感謝した? なら今からはその事を一旦忘れて遊ぼっか」

「そだね。やっぱり創作は一人の時間じゃないとだ」


 こうして、それから2人はゲームをしたり本を読んだりして楽しく過ごします。創作活動の続きは、ずっと後の風呂上りを過ぎてから。その夜のパレットはのめり込みすぎて、ちょっと夜ふかしをしてしまったのでした。

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