第42話 SALTY
金曜日は部活の日。と言う事で、視聴覚室に会員全員が揃います。とは言え、男子会員が1人追加されるだけなのですけどね。今日は月末なので会誌用の原稿の締切日。全員が出来上がった原稿を持ってきています。小説原稿が3人とマンガ原稿が1人は確定として、どちらも出来る渡部の動向ですが――。
「今回は小説を書いてきたぞ」
「あ~っ、未来ってテーマだから背景描くのがしんどくて小説に逃げたんじゃないの~?」
「な! 失礼だなみちる君!」
「動揺してる! 図星だぁ~」
ミッチーは渡部をからかってケタケタと笑います。パレットはこの会話に参加する事なく、ただ2人のやり取りを微笑ましく見守るのでした。
「あたしはちゃんとマンガ描いたもんね!」
「ふん、背景がほぼないじゃないか……手抜きだな」
「話がちゃんと面白ければいーんだもんね!」
「話……ねぇ……」
自慢気に見せびらかしてきたミッチーの原稿を渡部はパラパラと眺めます。4ページなので話は一瞬で終わるのですが、独特のセンスで描かれたその物語はお世辞にも分かりやすいと言うものではありませんでした。そのため、渡部の表情も微妙なものとなります。
「これで……いいのか?」
「む! いいんだよ!」
奥歯に物の挟まったような感想に、ミッチーは気を悪くします。けれど、実はパレットも渡部と同じ感想を抱いていました。説明が足りないのか、ミッチーのマンガはとてもシュールなのです。ただ、こう言う作風を好きな人もいるだろうなと言う感じの微妙なラインの完成度ではありました。
「あ、あの……それじゃあ、出来ている人は……原稿を持ってきて……くださ~い」
部長の一言で、会員達は次々に原稿を持っていきます。こうして、4つの小説と1つのマンガが集まりました。これで今日の部活は終わりとなります。後は自由時間と言う事で、渡部はとっとと帰ってしまいました。
「じゃあ、今日は用事があるのでここまでだ」
彼が出ていった後、早速ミッチーは口をとがらせます。
「何あれ、付き合い悪いよねー」
「まぁでも渡部はいつもそうじゃん」
「そうだけどさ~。仲間意識とかないんかなぁ」
「やっぱ男子1人だから恥ずかしいんじゃないの?」
ミッチーの愚痴に対してフォローする感じになってしまったパレットですけど、本心は友人とあまり変わらないものでした。ただ、何となくフォローする感じになってしまっただけなのです。
ミッチーはそれが少し不服そうでした。
「恥ずかしいって……たまにあいつこっちに話振ってくるじゃん。ただの自己中だよ」
「まぁ、そうかもね」
「次部活で会ったらガツンと言ってやるわ!」
「あはは……」
1人で盛り上がるミッチーにパレットは思わず苦笑い。その後は大西先輩達と他愛もない雑談に花が咲きます。そうして下校時間になり、パレット達も解散となりました。
自転車置き場に着いたパレットは、かばんを荷台にセッティングしながら提案します。
「ねぇ、今日はディオに寄って帰ろ」
「お、いいね」
こうして2人はディオに寄り道をする事に。ディスカウントスーパーなので店内はお客さんでいっぱいです。店内放送の歌がエンドレスでかかっていて、もう目から耳からディオって感じでした。
パレット達は、入店と同時にお菓子売り場に直行します。
「何か新作のお菓子はあるかな~」
「お、あったあった」
「ミッチーいつもそれ買ってるよね」
「だってSALTY美味しいんだもん」
ミッチーが手に取ったのは、異国情緒あふれるパッケージのクッキーでした。今まではスルーしていたパレットでしたが、今日は何となく気になったのでそれを手に取って眺めます。美味しそうなクッキーの写真にも『さっくりほろほろ』と言うキャッチコピーにも惹かれますが、一番気になったのはフランスブルターニュ産ゲランドの塩を使用と言う一文でした。
「これ、しょっぱいの?」
「塩バター味だから塩の感じはするけど、それを上回る美味しさなんだよ!」
「美味しいんだ……」
「そうだよ、オススメだよ!」
ミッチーの猛プッシュもあって、パレットはこのクッキーを買う事にしました。後、ア・ラ・ポテトと薄皮つぶあんぱんもかごに入れます。ミッチーはSALTYとアーモンドチョコとしるこサンドを買っていました。
こうして2人は好きなものを買ってそれぞれの家に帰宅します。自室に戻ったパレットはすぐに今日買ったSALTYの袋を開けました。中には個包装されたクッキーがきれいに並んでいます。そのひとつを取って早速中を確認すると、パッケージと同じ丸くて美味しそうなクッキーが現れました。
「どれどれ~……美味い!」
SALTYは、ミッチーの言葉の通りとても美味しいクッキーでした。キャッチコピーに偽りはなく、さっくりホロホロと口の中で崩れていき、優しい甘さとしょっぱさが広がっていきます。甘すぎないその味はとても新鮮で、パレットは一瞬でこのクッキーが好きになったのでした。
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