第41話 からり庵

 放課後、いつものようにパレット達は部室に直行します。パレットが視聴覚室の扉を開けると、そこには珍しく大西先輩が1人。


「お、今日も来たねぇ。早よこっち来い」

「あれ? 今日部長は?」

「なんか用事があるんやって」


 こころなしか少し淋しそうな先輩は2人を急かしました。パレット達もその言葉に甘えてすぐに先輩の周りに集まります。2人が席に座ったところで、すぐに先輩の方から話しかけてきました。


「明日原稿提出やけど、ちゃんと書けたぁ?」

「あ、はい。何とか」

「バッチリです!」


 パレットは少し恥ずかしげに、ミッチーは自信満々に胸を張ります。そんな2人を見た先輩も嬉しそうでした。


「ほうでえ。ちょっと残念。ギリギリで書けん時のアドバイスとかしたかったんやけど」

「先輩もそう言う事があるんですか?」

「おっ、パレット食いつくねぇ。あるよあるよお。私も毎回原稿が出来るのギリやけん。締め切りまでに出来ん事もしょっちゅうやわ」

「私も今回はヤバかったです!」


 先輩の話にパレットは身を乗り出します。ギリギリまで原稿が出来ないと言う似たような体質だったのが嬉しくて、彼女は先輩に親近感を持ったのでした。

 そうして2人で話は盛り上がり、しばらくミッチーは聞き役に徹します。


「……やっぱ書いている時は小腹が空きますよね」

「ほうほう、みんなはどうしよるん?」

「そりゃ食べますよ。ねぇ」

「え? あ、うん」


 話の流れでいきなり振られたミッチーは少し挙動がぎこちなくなりました。ただ、やっと会話に混ざれたのが嬉しかったらしく、彼女の目にも輝きが戻ります。


「あたしはよくポテチを食べるんですけど、先輩は?」

「あたしはせんべいかな? 知ってる? からり庵」

「からり庵?」


 先輩の口から出た商品名に対して、後輩2人は揃って首を傾げました。そのリアクションを見た先輩は軽くため息を吐き出します。


「2人共知らないかぁ……美味しいんよ?」

「どう言うせんべいなんですか?」


 ここでパレットが会話に参加します。この質問を待っていたのか、先輩の目が輝きました。


「雪の宿の三幸製菓が出してるせんべいでね。とにかく味が美味しいんよ。ちょい前はディオにも売っとったけど、今はフジグランでしか見かけんねぇ」

「ああ、それで……」

「2人はせんべい好き?」


 この先輩からの質問にパレットは戸惑い、先にミッチーが答えます。


「あたしは普通かな。特に好きでも嫌いでもなくて、あったら食べるかなって感じ。でも美味しいのなら興味ありますね」

「私も普通ですけど……。あ、でも雪の宿は好きです!」

「あはは、ほうでほうで。2人共嫌いじゃなくて良かったわ」


 その後は先輩のからり庵のプレゼンが続き、その味の美味しさやら歯応えの軽快さやらを語彙力豊かに説明されます。後輩2人は特にツッコミを入れる事もなく、その話をずっと興味深そうに聞いたのでした。

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