第37話 ア・ラ・ポテト
連休二日目。天気は曇りがちでお世辞にもあんまりいいとは言えません。今日もゆっくりと起き上がったパレットは、リビングで録画していた番組を消化していました。まだ中学2年生ですからね、深夜アニメをリアルタイムで見る事はちょっときついお年頃なのです。
「アニメ、溜め過ぎたにゃあ……」
「あれもこれも見ようとするからでしょ。ちょっとは厳選なさい」
「厳選してるよー」
母親とのバトルもほぼテンプレのやり取りです。連休だからと一気に見ていると、流石に少し飽きてきました。
「うう、ちょいしんどい……」
「あ、丁度いい時間じゃない。昼ごはんにしましょ」
こうして12時前でしたが、ランチの時間となります。今日のメニューはカレーでした。パレットのリクエストで熟カレーです。じゃがいもに人参にその他の具が沢山の家庭用カレー。付け合せは花らっきょう。父親は用事で出かけていたので、母娘2人のランチタイムでした。
「学校はどうよ」
「んー。楽しくやってるよー」
「そっか。ならヨシ!」
昼食後は録画番組の消化の続きをする気力も起きず、パレットは自室に引きこもります。そうして、そろそろ会誌の原稿を書かねばと構想を練り始めました。普通に机に向かってもいいアイディアは浮かばないので、ゴロンとベッドに横たわります。リラックスした方がアイディアが出やすいと、彼女はそう信じていました。
しかしこの時、パレットは忘れていたのです。横になる事の危険性を――。
気がつくと彼女はまぶたを閉じていました。その後はお決まりの夢の中へのご招待コースです。こうなってしまっては、もう自力では抗う事など不可能なのでした。
彼女が眠ってからどれくらい経ったでしょうか。不意に足元に刺激が走ります。どうやら誰かが部屋に入ってきていたみたいでした。そのくすぐりはやがて本格的になり、耐えきれなくなったパレットは飛び起きます。
「ヤメレ!」
「お、起きた」
悪戯をしていたミッチーでした。この予想通りの展開に、パレットは大きくため息を吐き出します。
「はぁ~。いつからいたの?」
「パレットのお母さんに部屋に案内されて……5分くらいかなぁ。もうちょっと遊べると思ったんだけどね!」
「人の足の裏で遊ばないでね!」
「あははっ」
ミッチーが遊びに来たと言う事で、パレットは起き上がって時間を確認します。すると、時計の針は1時30分を少し過ぎた辺りでした。
「……うーん、1時間くらい寝てたのかな?」
「パレチー、昼寝しすぎー!」
「そう?」
「30分くらいで起きないとー」
ミッチーはドヤ顔で昼寝のレクチャーを始めます。その後もよく分からない独演会は続きますが、パレットはその話を右から左に聞き流していきました。
ずっと興味のない話が続いても退屈だと、パレットはポンと手を叩きます。
「そうだ、この間買ったお菓子があるよ。食べよ!」
「え? 何を買ったの?」
「にひひひ……それはね……」
パレットは勿体つけながら、ガサゴソとエコバックに入れっぱなしのお菓子を探します。そうしてお目当てのものを見つけると、ニタリと顔を歪ませながらそれを手に取って掲げました。
「じゃーん! ア・ラ・ポテトー!」
「おおーっ! あたしそれ好きだよ」
「でしょ。私も好き。やっぱ秋はア・ラ・ポテトだよねー」
パレットは手にしたア・ラ・ポテトをテーブルの上に広げ、袋を開くように破いていきます。パーティーモードア・ラ・ポテトの完成で、それを見たミッチーは拍手をしました。
「さあ、食べよーっ!」
「やりっ! あざーっす」
「良きに計らえ!」
それからは部屋にパリポリと小気味のいい音が響きます。遠慮のないミッチーはア・ラ・ポテトを口に入れるスピードを全く緩めませんでした。流石我にその遠慮のなさにパレットは少し呆れます。
「飢えてるねぇ……」
「は? ポテチは別腹だし? ああ、他人の買ったお菓子を食べるのは美味しいなあ」
「ちょ、ヒド……」
ミッチーのその言いぐさを聞いたパレットは思わず笑ってしまいます。友達に全部食べられてはたまらないと、パレットも意地になって食べたのでア・ラ・ポテトはすぐになくなってしまいました。
この現状を目の当たりにして、ミッチーは不服そうな表情を浮かべます。
「あれれー? なくなっちゃったよー? もう一個! もう一個!」
「ないよ! 全く図々しいなぁ」
「てへ」
本当は予備に後一袋買ってはいたのですが、このペースで減るのは勿体ないと、パレットは軽い嘘を付きました。ミッチーはそんな彼女の性格を知ってはいましたけど、ここで追求するような野暮はしません。
その後、2人はまたいつものように遊んで過ごします。ネタに詰まっているのもあって、何ならここで創作の話を持ちかけても良かったのですが、パレットは小説でミッチーはマンガなので敢えてその事は何も話さず、楽しい時間はあっと言う間に過ぎ去っていったのでした。
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