第29話 文芸部

 金曜日は文芸会の愛好会の集まりの日。この日も会員は全員律儀に集まっています。テーマが決まった以上、作品提出の日まで無理に集まる必要もないのですけど、何だかんだ言って皆さんこの場所が好きなのでしょうね。


 平日は大西先輩の席の隣りに座ってるパレットですが、公式の日は何となく離れた席に座っていました。平日のあの集まりを秘密にしたいと言う心理がそうさせているのかも知れません。

 隣りに座ったミッチーがこそっと耳打ちします。


「今日何やるかな」

「楽しみだねー」


 そう言って2人は笑い合います。


 文芸愛好会、普段の集まりは創作談義だったり、アニメ鑑賞会だったり、ただの雑談だったり。会誌関係の事をする日以外は、基本的に事前に何をやるかは決まっていません。アニメ鑑賞の場合も、誰かが見せたい作品を自主的に持参してそれを見る形式です。いいですね、文化部って。

 責任者として部長がいる事はいるのですが、形だけの部長であって、特にリーダーっぽい事をすると言う事はなかったり。何かあった時にメインで怒られる担当と言う感じですね。


 その部長は大西先輩と友達なので、2人は仲良く隣り合って座っています。それで、先輩ばかりが一方的に喋っている感じなのですけど、2人の関係はそれでバランスが取れているみたいでした。


「パレチー、大西先輩と部長、何話してんだろうね?」

「共通の趣味とかあるんじゃない? 学年一緒だし」

「だよねー。やっぱそこは越えられない壁だ」


 今日の集まりは最初から最後まで雑談モードのようです。みんなそれぞれが猫の集会のように独立して好きに過ごしていました。

 パレットとミッチーは視聴覚室の一番後ろの窓側の席に並んで座っていたのですが、そこに謎の雰囲気をまとった男子が近付いてきます。


「全く、今日の集まりは無意味だな貴様ら」


 意味もなく髪をかきあげながらやってきたのは厨二病をキメている渡部です。彼と生理的に合わないミッチーは、露骨に嫌な顔をしました。


「何の用だよ」

「ふん、貴様らに我の崇高の思考など分かりはしまい」

「いや何しに来たって聞いてんだけど?」

「貴様らはおかしいと思わんか?」


 この突然の問いかけにパレット達に目は点になります。呆然とする2人を置いてけぼりにして、渡部は続けました。


「ここは文芸愛好会、文芸部みたいなもんだろ? じゃあ何故部室が視聴覚室なんだ? 定番はやっぱ図書室だろ? で、活動もおかしい。文芸部って創作関係で出る場合はほぼ読書部だ。そりゃあこの集まりで本を読むのは構わない。ただし、全員で同じ本を読んで感想を言い合うとかそう言うのはないじゃないか。何だこの部活」


 オタク特有の早口で持論を口にする彼。要するに、この文芸家はぬるいと言いたいらしいようです。自分の理想と違うと言う不満を一方的に喋り終えた渡部は、同意が得られると確信しているのかドヤ顔で2人を見つめました。

 この一方的な押し付けに気を悪くしたのはミッチーです。


「は? あたしはここ気に入ってるんだけど? 嫌なら図書室でもどこでも1人で好きなだけ本を読んでなよ。わざわざここに来る必要ねーだろ? 何で来てんだよ」

「いやだから……貴様らは文芸部の活動がこれでいいと思ってるのか?」

「いいじゃん。そう言う活動以外認められないってものでもないでしょ。大会とかがある訳でもないんだし」

「ぐ……」


 ミッチーの反撃に渡部は返す言葉がないようです。その顔はみるみる内にドヤ顔からぐぬぬ顔に変わっていきました。そうして、居心地が悪くなったのでしょう、特に反論もせずに2人から離れていきます。教室から出ていくのかなと2人が彼を目で追っていると、反対方向の席に座ってかばんから持参した本を取り出して読み始めました。

 その一連の行動を確認したところで、パレットは鼻息の荒い友達に向き合います。


「でもさ、こう言うのも珍しいのかもね」

「何? この活動がって事? だって愛好会だよ。同じ趣味の人が集まって楽しくやるだけの集まりだよ。何かに縛られるならあたしは参加してないな」

「ミッチーは書くメインって事なんだよね」

「どっちかって言うとそうなるなー。読書苦手だし」


 ミッチーはそう言うと手を伸ばして首の後ろに組むとそのまま背伸びをします。パレットはそんな友達の仕草を優しく見つめました。その視線に気付いたミッチーはいたずらっぽく笑います。


 ミッチーが読書を苦手な理由、それは彼女が漫画描きだから。文芸愛好会は創作が趣味なら何でもいい集まりなので、会誌も漫画があったり、詩があったり、イラストがあったりと、決して小説がメインではないでした。


 結局その日はみんなバラバラに雑談をしている内に終わり、仲の良いグループ同士が雑談しながら教室を出ます。1人読書をしていた渡部ですが、いつの間にか先に帰っていて、その事を教室にいた誰も気に留めてはいないのでした。

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