第28話 笑いのツボ

 放課後の視聴覚室。パレット達と大西先輩がいつもの席で他愛のない雑談をしています。まずミッチーが共通の話題を探るために昨日のドラマやバラエティ番組の話をして、反応を探りました。

 そこから分かったのは、先輩が普段ほとんどテレビを見ないと言う事です。


「そりゃあ、いいネタが転がってるなら見てもええけど、私現代ドラマとか好きじゃないけんドラマも参考にならんけんね。だから録画したアニメを見るくらいやねえ」

「そ、そうなんですね……」

「大体さあ、日本のドラマって芸能人を見る感じやん? そりゃ中には実力派俳優で固めたのもあるけど、それもあんま興味ないし……。なら別に見んでもええやん? ドラマ見る時間があったら本を読みよるねえ」

「そ、そうなんですね……」


 先輩の完璧な返事にミッチーは撃沈。結局この手の話題で話が合う事はありませんでした。と言う訳で、次はパレットの番になります。先輩が本の虫と言う事なので、そこから突破口を探そうとしました。


「どんな本を読んでるんですか?」

「色々読みよるよ。ファンタジーが多いかなぁ」

「え、えっと……」

「無理に話を合わさんでええけん。それより私はあんたらの事が知りたいわ」


 本談義でうまく返事を返せないでいると、今度は逆に質問される側に回ってしまいます。パレットもミッチーもこの展開に緊張して何も喋れなくなりました。


「ほうやね、じゃあ文芸愛好会らしく文芸ネタで行こか。書き手側でも読み手側でもどっちの立場でもええけん、今何か困っとる事とかある?」

「えっ」

「何でもええよお」


 先輩はそう言うと、少し挑発的な笑みを浮かべました。その表情に合わせて狐耳がピクピクと動きます。その怪しい雰囲気に背中を押されて、パレットは今までずっと悩んでいたある事について打ち明けました。


「私、笑いの沸点が高いのか、他の人が面白いとか笑ったとか言う作品で笑えないんです。これでもいいのかなって……」

「ええやん、無理して笑わんでも。自分の気持ちにまっすぐ正直やないとあかんよ」

「そうだよパレチー。嘘よりは本音の方がいいよ」


 友達と先輩から温かい言葉を貰って、パレットは胸が一杯になります。ただ、先輩は悩める後輩に向かって更に言葉を続けたのでした。


「自分は笑えんかってもええけど、どう言うシーンが読者の心を掴むのかは客観的に知っといた方がええよ。何が受けるか分かっとったら、その描写で多くの読者を笑わせられるけん」

「そ、そうですね……」

「偉そうな事言うたけど、私もまだまだなんやけどね」


 先輩はそう言うとはははっと率先して笑います。この自虐的なリアクションにパレット達も釣られて笑ったのでした。それからは緊張感も解けてきて、ミッチーがアニメやマンガの話をし始めます。

 これが先輩にもヒットして、そっち方面で下校時間まで話は盛り上がったのでした。

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