第30話 口内炎
土曜日。学校はお休みです。なので、パレットは自室で惰眠を貪っていました。9月も中旬に入り、気温も落ち着いてきています。蝉の声が聞こえなくなってくると同時に、エアコンもスイッチも切り気味になっていました。
「ふにゃ~。お布団が至福~ぅ」
まだ薄い掛け布団を抱き枕状態にしたり、お腹だけカバーしてみたり。思う存分に自由な時間を楽しみます。今日は母親が家にいないのか、起こしに来る声も聞こえません。確か昨日の夕食時に何か言っていた気はしますが、その時は他の事を考えてスルーしていたので何も覚えていないのでした。
「今日はとことん眠ってやる~」
と言う訳で、土曜の午前中はずーっとゴロゴロしていたパレットなのでした。
何の用事もない休日はゆっくりと時間が過ぎていきます。あんまり暑くないなと思って窓の外を眺めると、空は一面の曇り空。今にも雨がザーッと降ってきそうな感じです。パレットは洗濯物の確認をしに庭を眺めますが、今日の天気を見越していたようで、外に洗濯物は干されていません。
そこで時計と腹時計を同期させ、彼女は少し早めのランチを楽しみます。
「ふ~。まんぷくぷー」
お腹が満たされれば、次はまぶたが重くなるのが道理です。パレットはまた自室に戻り、ゴロンとベッドに横になりました。そうして、朝の続きをしようとまぶたを閉じたところで、来客を知らせるメロディーが流れます。
「ん? 宅配かな?」
まぶたをこすり、あくびをしながら玄関のドアを開けると、そこに立っていたのは幼馴染みの友達でした。
「やっほ、パレチー」
「何だミッチーか」
「何だとはご挨拶だなぁ……」
「うん、入って。今日は家に私しかいないんだ」
ミッチーを自室に招いて、パレットは飲み物を用意します。
「ほら、カルピス。好きな濃度で楽しみ給えよ」
「おおっ! 分かってるーぅ」
友達のために買い置きのポテチを出して、即席のカルピスパーティーが始まります。いつも話しているのに、話のネタが尽きないのは流石昔ながらの気を許した間柄と言ったところでしょうか。
2人は趣味の話やら学校の話、テレビの話などを楽しんでいたのですが、そこでパレットはちょっとした違和感に気付きます。
「ミッチー、どうしたの? あんま食べてないじゃん」
「実はさ、口内炎なんだよね」
「あちゃー。そうだ、家に薬あるよ。飲んで治すやつ。持ってくるね」
「ちょい待ち!」
気を利かせたパレットが立ち上がろうとしたところで、何故かミッチーはそれを止めます。彼女のその行為の意味が分からず、パレットは首をひねりました。
「どしたん? 薬は苦手? じゃあハチミツ持ってこようか。患部に塗るといいらしいよ。それとショコラBBも口内炎に効くって言うよね。私はまだ試した事はないんだけどさ……」
「いやそうじゃなくて、このままでいいんだよ」
「え? だって痛いでしょ」
「あたしは口内炎は自然治癒派なんだ」
ミッチーによると、口内炎はいつの間にか自然に治るので、その過程を含めて楽しんでいるのだそうです。パレットはその考えに少し納得出来ませんでした。
「ミッチー、もしかしてM?」
「うーん、そうかも」
「私はすぐにでも治したいな。ご飯もおやつも食べにくいし」
「痛いからこそ、食べずに済んで節約出来るでしょ。しかも食べないからダイエットにもなる! 一石二鳥じゃん」
自説を披露したミッチーはドヤ顔です。パレットはそんな彼女の態度を見て、もう口内炎関係の話をするのをやめました。何を話しても無駄だと確信出来たからです。
その後はまた他愛もない話をしたりゲームしたり読書をしたり――いつもの休日ルーティンワークをこなしてその日は終わったのでした。
ミッチーを見送って空を見上げていると、ぽつりぽつりと雨が降ってきます。この雨は長く続くのかも知れないなと、謎の予感を彼女は感じたのでした。
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