第26話 今は広く浅くだけではなく、狭く深くもある時代

 放課後の視聴覚室。パレット達と大西先輩は教室の設備を使ってアニメを見ていました。ソフトを持ってきたのは先輩です。パレット達の趣味の範囲外の作品と言う事もあって、初めて見るその作品をパレットは興奮しながら見続けたのでした。


「はい、これでおしまーい」


 アニメの再生が終わったので、先輩はディスクをケースに仕舞います。パレット同様に興奮したミッチーが、目をキラキラと輝かせました。


「続きを! 続きを願いします!」

「全部流したら下校時間超えるけんダメー。また今度ね」

「あ、そっか……」

「で、どうやった?」


 悔しがるミッチーの反応を見た上で、先輩はパレット達に感想を求めました。そのアニメを初めて見た2人は、頭の中でさっき見たばかりの物語を反芻します。先に先輩のリクエストに応えたのはミッチーでした。


「サイコーに面白かった~。でもどうして私は知らなかったんだろう?」

「この作品、一般的じゃないけんね」

「それはそんな気はしますけど、確かにマニアックでしたけど……」

「今の時代のヒットってそう言うもんなんよね。2人はヒットってどう言うもんだと思う?」


 ミッチーの感想から、先輩がまた話題を変えてきました。この変化球に、後輩2人は戸惑います。ここでもすぐに反応を返したのはミッチーでした。


「やっぱり、ヒットと言えば国民的作品になれるかどうかかな。多くの人が見て長く楽しめる作品。子供から大人までファンが居るって言うか……」

「ほうやね。それが昔からのヒットの王道。けど、今はそれだけやないんよ」

「え?」

「今はマニアックでも刺さる人には刺さる作品もヒットになるんよ。昔パターンの国民的ヒットが広く浅くなら、マニアック作は狭く深くやね」


 この先輩の持論を聞いたパレットは、頭の中にパッとイメージが浮かびます。


「つまり、オタクに刺さるかどうか?」

「そう、濃いファン相手の商売って事。趣味にガンガンつぎ込む層を取り込めば、円盤もグッズも売れてお互いにウィンウィンって訳。こう言う方向性もありよね」

「なんか……アイドル相手の商売みたい」

「って言うか、原型は宗教だよね。だからファンを信者って言うんやないかな」


 得意げに話す先輩に2人はウンウンとうなずきます。そうして、自分達の知らない世界がまだまだあるのだなと、世界の深さに興味を抱くのでした。

 ここでパレットが素直に感動していると、ミッチーはニヤリと笑みを浮かべます。


「じゃあ先輩も信者なんですねー。今どき円盤なんて普通の人は買わないもん」

「は? じゃあみちるにはもうこの続き見せてやんない」

「えー! そんなあ……」

「続きが知りたかったら自分で何とかして見たらええよ。あ、この作品マニアックやからレンタルにもまず置いてないやろなぁ……」


 先輩の機嫌を損ねたミッチーはその後謝りに謝り倒して、何とか次回の上映会の中止は阻止出来ました。ただ、それも先輩がからかっているだけだと言うのは傍から見たらバレバレです。

 なので、パレットはコントを見るような気安さで、このやり取りを楽しく眺めていたのでした。

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