第25話 雲ひとつない青空は怖い

 パレット達は今日も放課後は視聴覚室に向かいます。金曜以外は行く必要はないのですが。2人共普段と違う非日常感が気に入ったのかも知れません。

 パレットが視聴覚室の扉を開けると、すぐに大西先輩が振り返りました。


「お、来たねぇ。おいでおいで」

「は、はい……」


 呼ばれるままに、2人は先輩の近くの席に座ります。こう言う普段は触れ合えない上級生と気軽に交流が出来るのも、パレット達がこの教室に来る理由でもありました。大西先輩も慕ってくれる後輩2人を可愛がってくれます。そんな先輩は、今日も何か書き物をしているのでした。

 そのスマホ画面をミッチーが覗き込みます。


「調子、どうですか?」

「あ、執筆? うん。書いては消し書いては消しやねぇ……」

「難航してるんですか?」

「いや、色々試して遊んどるんよ」


 大西先輩曰く、その時にどう言う表現が適切か候補がいくつか思い浮かぶと、それを全部試してみたくなるのだとか。それは産みの苦しみでなく、産みの楽しみなのだと。その考え方にパレットは感心します。


「なるほど、勉強になります!」

「いやいや、そんな大層なもんやないよ~」

「私も執筆楽しみます!」

「うん、何でも楽しむのが一番やね」


 最初に話しかけたのに話の主導権を友達に取られて、ミッチーは少し機嫌を悪くします。そして何気なく視線を窓の外に移しました。


「今日もいい天気ですよね。雲ひとつない……」

「ああ、まだまだ暑いねぇ……。9月に入った途端に秋っぽくはなんないか」

「私、雲ひとつない空って嫌いなんです」

「「!!」」


 パレットの爆弾発言に友達と先輩は一瞬固まります。当人はその周囲の変化に戸惑い、頭の上にはてなマークを踊らせました。


「な、何?」

「パレチー、何で青空が嫌いなん?」

「青空は好きだよ? 雲ひとつないのが嫌いってだけ」

「だから、それは何で?」


 ミッチーの迫真の追求に、自分の感性はおかしいのかなと感じたパレットは思わず先輩の顔を見ます。すると、先輩もまた好奇心に満ちた瞳で見ていたのでした。


「私も知りたい。教えてよ」

「うっ……」


 2人の圧をダイレクトに感じたパレットは、一旦ここで呼吸を整えます。そうして頭の中で考えを整理して、自分の中の嫌いの気持ちと向き合いました。


「だって怖くないですか? ブルーバックみたいで。全てが作り物のように見えてしまうんですよ」

「マトリックスみたいな?」

「ああ、そうかもです」

「現実が仮想現実なのかもって妄想は誰もが通る道よねぇ……」


 大西先輩はそう言って1人で勝手に納得します。パレットは少しそれとは違う気もして言い返したい気持ちもありましたが、その言葉をぐっと飲み込みました。

 それで援護射撃を期待して友達の様子をうかがうと、ミッチーも何だか納得した感じで少し優しげな感じで見つめています。


「な、何かそう言うのとは違うからー!」


 その後も誤解を解こうと言葉を重なるのですが、何を喋っても柔らかく通り過ぎて行ってしまい、パレットのその努力は水の泡と化してしまったのでした。

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