第19話 目薬

 9月に入って2学期が始まります。田舎の学校だけあって、休み明けだからと言って特に派手にデビューしている生徒はいません。とは言え、日焼けしているクラスメイトと、そうでないクラスメイトで何となく派閥が分かる感じになっていたりもしますけど。

 久しぶりに教室に集まったクラスメイト達が賑やかに雑談したりふざけあったりする光景は、学校ならではのものですよね。


 パレットとミッチーも同じクラスに在籍しています。なので、久しぶりの制服姿で雑談をしていました。夏休みの間も頻繁に会ってはいましたけど、私服でお互いの家とかで会うのと、制服で教室で会うのとはまた雰囲気が違いますよね。


「パレチー、やっほ」

「やっほ」

「みんな変わってないねえ」

「そりゃちょっと会わなかっただけだし」


 雑談が盛り上がりかけたところで教室に先生が入ってきて自由な時間は中断、その後に始業式を終えてホームルームになり、宿題の提出とかに移ります。宿題をギリで終わらせた2人は何とかこのミッションを平気な顔で終わらす事が出来たのでした。


 クラスメイトの中には宿題を終えられていない生徒も何人かいて、そう言う生徒と先生とのやり取りも始業式の日のお約束。大抵そう言うメンバーは固定されているものですよね。しっかりやり終えている他の生徒達は、このやり取りを多少の優越感を持って眺めるのでした。

 このホームルームも終わって、パレットの席にミッチーがやってきます。


「何とかなって良かったよ」

「やっぱ何人かは宿題終わらせてなかったねぇ」

「3バカはお約束通りだったし」

「ああ、日常が帰ってきたって感じがするなぁ……」


 話が一旦落ち着いたところでパレットは目薬を取り出します。そうして、友達の見ている前でさし始めました。何滴か目に垂らし、まぶたを閉じて目頭を押さえます。


「く~っ!」

「目、どうかしたの?」

「最近ちょっとね。でもこれ気分転換にもいいよ」

「そうなんだ」


 ミッチーも敢えて深く聞かずにこの話は軽く終わりかけます。目薬のキャップを締めてそれを仕舞いながら、パレットは友達の顔を見つめました。


「でさ、目薬って1日に5~6回点眼するように書いているけどやんないよね?」

「5~6回も? あたし1日に1回か2回だよ。そもそも毎日もやんないし」

「本来はそのくらいやってやっと効果が出るものなのかも」

「目の病気とかじゃなかったら別にいいんじゃない?」


 突然始まった目薬談義に、ミッチーは多少戸惑いながら自説を口にします。そもそも、若い内の目薬は視力の低下やドライアイとかを意識してするものではありません。大抵は目に違和感を感じた時に、それを取り除くためにする感じです。だからこそ、頻繁に点眼する事は基本的にないのでした。

 ミッチーの話を聞いて、パレットの表情がぱあっと明るくなります。


「だよね。うん、安心した」

「みんなそんなに頻繁に目薬さしてると思ったの?」

「うん」

「そう言うので悩むの、パレチーらしいよ」


 こうして2人は笑い合い、目薬談義はここでようやく終わったのでした。その後も別の話題で雑談に花が咲き、パレット達の2学期はこうして始まりを告げたのです。

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