秋の辺りの話
第18話 自分勝手な考察は嫌い
8月最後の日。何とか無事に宿題を片付けられたパレットとミッチーは地元のお城に来ていました。お城と言っても実際はお城風の展望台。戦国時代には本物のお城があったそうなのですが、今あるのはその跡地に建てられた観光施設です。
このお城は山の上にあって、行くのは割と大変。とは言え、近くまで車が通れる道が整備されているので、そこから登るとそんなに苦行ではないのですけどね。ただ、それでも運動不足のおじさんにはキツイらしく、一緒に登っているとしんどそうな人を割と見かけたりします。おっさん達、ちゃんお運動はしようね。
勿論パレット達はまだ若いので、このくらいの上り坂はへーきへーき。余裕のよっちゃんです。
2人がこのお城風の展望台に来た理由は、そこから見る景色が雄大だから。人は高いところから見下ろすのが本当に好きな生き物ですよね。山の上に着いた時点での景色も十分素晴らしいものがあるのですが、そこまで来たらやっぱりお城に登ならくちゃ嘘と言うものです。
このお城風展望台、2階建ての小さなものです。実際の城を復元した訳でもないので簡単に登れます。そこからの景色は町の景色と、海と島と島を繋ぐ橋と、遠くの山脈。田園風景も線路も電車も見えて、自然をイメージするものは大体見る事が出来ます。それもあって、パレットもミッチーもここからの景色を見るのは大好きなのでした。
2階の外側にある展望スペースの手すりを掴んで、パレットは深呼吸。
「うーん、やっぱここからの景色はいいなぁ」
「頑張って登ってきた甲斐があったね~」
「でも、下りは楽だからいいじゃん」
「それが今から楽しみ~」
山の上なので、地上に比べたら涼しくて風も気持ちいい。目の前には素晴らしい景色と言う事で、2人はしばらく黙って自然を感じ続けるのでした。
ずっと黙っていて間が持たなくなってきたのか、パレットは海を眺めながらつぶやきます。
「あのさ、私のお気に入りの動画があるんだけどね」
「うん?」
「急に人気が出てきて自分勝手な考察をする人が増えてきたのよ」
それはよくある愚痴でした。この予告なしに始まった雑談に、ミッチーも何となく付き合います。
「あぁ。あるある」
「そう言うの嫌なんだよね」
「分かるー。結局それって自分の思っている事を動画の考察って事でこじつけてるだけなんだよね」
「そうそう。動画製作者は絶対そう思ってないから」
「でもま、そう言うのも楽しみ方のひとつだからさ、スルーしようよ。気にしたら負け」
ヒートアップしそうになるパレットをミッチーは優しくなだめます。その時に気持ちのいい風が一緒に吹いてきたのもあって、パレットの軽い怒りはスーッと消えていくのでした。
「だよね。ありがと」
「きっとあたしらも知らない誰かを怒らせてるかも知れないしね。お互い様ってやつだよ」
「おー。ミッチーの癖にいい事言うじゃん」
「ちょ、一言余計!」
優しい景色に抱かれながら、2人は顔を見合わせて笑い合います。その後も景色を堪能した後、山を降りて地元をぐるぐる回りました。お城から見下ろしていた景色をもっと間近で眺めたり、敢えて知らない道を通ってみたり。
8月の最後の日を、2人はそんな感じで楽しんだのでした。
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