第17話 映画は劇場派
8月最後の日曜日、パレットはミッチーの家に遊びに来ていました。出迎えたミッチーは頭にタオルを巻いています。そのちょっと特殊なファッションにパレットは目を奪われました。
「どしたの? そのタオル?」
「あ、これー? 気持ちいいんだよ。パレチーもやってみ?」
どうやら頭に巻いたタオルは暑さ対策のようです。ミッチーはすぐにタオルを取りに行き、パレットは少しだけ待たされました。その間、彼女は勝手に動くのも失礼だと思い、玄関内を見回します。他所様の家の玄関と言うのはやはり珍しいもので、ミッチーが戻ってくるまで彼女は全く退屈しないのでした。
「ほら、これ頭に巻いてみ」
「あ、冷た。濡らしてんだ」
「まぁ巻いてみなって」
「う、うん……。おお、これはひんやり」
ミッチーに勧められるままに濡れタオルを頭に巻いたパレットは、その新鮮な刺激に感動します。頭を湿らすだけでこんなに体感温度が変わるのかと、すっかり濡れタオルの虜となったのでした。
「こないだホームセンターに行った時に、額に当てる冷感グッズがあったでしょ? アレで思いついたんだ。それタオルでもいけんじゃね? って」
「いいね。これサイコーだよ」
「で、今日は何する? 夏休み最後の日曜だけど」
「うーん、お任せで」
2人の中学女子は頭に濡れタオルを巻いたまま、取り敢えずはミッチーの部屋に向かいます。今日は割と風が吹いていたので、更に体感温度は下がったのでした。
部屋に入ったミッチーはまずは室内を物色します。その中から今日過ごす何かを見つけようとしたのです。ぐるりと見回した彼女は、光学ディスクのケースに目を留めました。
「じゃあ、映画見ない?」
「いいよ」
「丁度いい夏向けの映画があったんだわ」
「おっ、楽しみ」
折角の映画と言う事で、2人は部屋を出てリビングへと向かいます。そこの大画面テレビで映画を見ようと言うのです。ミッチーは慣れた手付きでプレイヤーにディスクをセットしました。
そうして、すぐに映画は始まります。タイトルは再生されるまで隠されていましたけど、映画が始まった途端にすぐにパレットでも内容は分かりました。
「ミッチー……。夏っぽい映画って、これサメ映画じゃん」
「夏らしくていいでしょ? バカっぽいし」
「まぁ、あんまり映画館ではやってないもんね」
「これを見てるとポテチが進むんだわ」
50インチの大型の液晶画面に映るパニック映画。それは中々の迫力がありました。海が舞台なので、確かに夏っぽくもあります。ちびちびと麦茶を飲みながら、2人はそのある意味馬鹿らしい映画をたまにツッコミを入れながら楽しく鑑賞するのでした。
「ふー、面白かったね~」
「良かったけど、私はやっぱ映画は劇場派だな~」
「私はどっちも好き。どっちにも良いとこ、悪いとこあるもんね」
「は?」
ミッチーの八方美人的な言葉にパレットは引っかかりました。そこで、彼女はつい饒舌に劇場映画の良さについて語り始めます。
「いい? 劇場は迫力が違う。これは一番大事。大きなスクリーンに大音量の迫力の音響。一度観始めたらスクリーンに注目せざるを得ないからこその集中力と緊張感。つまり没入感が家映画の比じゃないの! この特殊な状況は劇場でしか味わえないんだから。それから……」
たまに麦茶で口を潤しながらの熱弁に、ミッチーは言葉が出てきません。たまに相槌を打つので精一杯でした。
「わ、分かったよ。映画は映画館が一番だね」
「ただ、マイナー映画はこうやって家で楽しむしか出来ないもんね。そこが家映画の一番の良さかな」
「だ、だよね……」
パレットの機嫌を直すために、ミッチーはまた別の映画を再生させます。その映画もまたサメ映画で、しかもツッコミどころ満載のネットでも話題の作品でした。2人はシーンが変わるごとにツッコミを入れあって楽しみ、さっきの映画談義をすっかり記憶の彼方に追いやる事に成功したのでした。
「ふ~。楽しかった。ミッチー、いい映画をありがとうね」
「受けたようで良かった~」
「映画2本見ると流石にかなり時間取られるね。じゃあ私帰るわ」
「うん、またね~」
今日は午後から遊びに来ていたので、結局映画を見ただけでパレットはミッチーの家を後にします。頭に濡れタオルのスタイルが気に入ったので、帰ったら自分の家でもそれをやろうと彼女は家路を急いだのでした。
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