第16話 ネットって活字だから何でも正しく見えちゃう

 8月の最後の週末の朝、パレットが暑さで自室から出られないでいると、ミッチーが遊びに来ました。部屋から出るのがきつかったので自室まで来るように伝えたたところ、彼女はすぐに家に上がってドアをノックします。


「開けていい?」

「いいよー」

「うわー涼しいっ!」


 部屋にエアコンのないミッチーの目的はやはりこの冷気のようでした。そうだろうなと予想していたパレットは、見ていたスマホからちらりと友達の顔を見ます。


「まぁ適当に座ってよ」

「お邪魔しまーす……って今更だけど」

「宿題終わった?」

「ほぼほぼね~」


 何度も訪れているのでミッチーもパレットの部屋にあるものはだいたい把握していました。そうして、適当に本棚の中からマンガを抜き出します。


「このマンガの続き出てなかったっけ~?」

「ん~? まだ出てないよ~」


 そんな感じで、涼みに来た目的だけのミッチーとスマホに夢中のパレットは、何となく同じ部屋にいるだけと言う時間を過ごしていきます。


「いや~今日は暑いわ~。何で8月も終わるこの時期が一番暑いんだろうね~」

「ああ、今日も暑いんだ」

「この……貴族のような暮らしをしおって」

「おほほほ。ご飯がなければおやつを食べるかね?」


 パレットはこの間ディオで買ったお菓子をテーブルに広げました。クッキーとポテチが並べられ、ミッチーも持参してきたお菓子をそこに並べます。


「あ、ミッチーも持ってきてたんだ」

「まぁね~」

「じゃあ、飲み物持ってくる」

「ありがと~」


 パレットは冷蔵庫から麦茶を取り出してコップと一緒に部屋に運びました。食物と飲物が揃ったと言う事で、プチパーティーが始まります。


「贅沢だねぇ~」

「そっかなぁ~?」

「だって部屋にエアコンがあるじゃん」

「逆にまだエアコンのないミッチーの家の方がレアだと思うけど」


 ポテチをつまみながら、パレットは冷静に事実を口にします。この指摘にミッチーはちょっと拗ねるように顔を背けました。急に微妙な空気が漂い始め、沈黙が室内を支配していきます。

 この雰囲気に耐えきれなくなったパレットは、話のネタを探そうとスマホの操作を始めました。


「えっと、ほらここ、あのアイドルなんかヤバそーだよ」

「んー? ああこれデマだよ」

「え? そうなの?」

「私も昨日その情報を見てちょっと調べたんだけど、その話はその人しか出てなくて……それって色々と変じゃん? そしたらその話がデマだって話も見つかってね」


 饒舌に話し始めたミッチーにパレットは目を丸くします。彼女がこのアイドルのファンなのを知って話を振ったのですが、どうやらこの情報は先にミッチーが知って調べまくっていたようです。

 パレットはこの友達の名推理ぶりに感心するばかりなのでした。


「すごいね。ミッチー探偵になれそう……」

「ネットはほら、全ての情報が活字じゃん? だから油断しているとつい信じちゃうんだよね。情報ソースは確認しないとダメだよ」

「あー、それはあるかも。怖いね」

「大事なのはその情報の裏付け。人に話す時も気をつけないと。まぁしっかり確認してからにすれば大体は大丈夫だよ。ネットは嘘も多いからね~」


 ネット上級者の友達の言葉にパレットは深くうなずくばかりです。ミッチーも昔ネットの情報を鵜呑みにして痛い目にあったので、それからは安易に素人のコメント情報は信じなくなったと言う経緯があったのでした。


 それからは雰囲気も元に戻り、2人は仲良く一日を過ごします。夕方になって帰るミッチーに手を振って見送った後、パレットは赤く染まる空をぼうっと眺めるのでした。

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