第10話 オールパイン

 パレットはミッチーの家に遊びに来ています。窓からは涼しい風が吹いていて、のんびりした時間が何も言わずに過ぎていくのでした。

 部屋の中央に置かれたテーブルの上にはミッチーママが持ってきてくれたお菓子と、散々話に出ていた薄いカルピス。部屋に通されたパレットは、窓の外を見ながら背伸びをします。


「自然の風はいいね~」

「まだ朝だからいいけど、これからどんどん暑くなるよー」

「今日は何しよっか」

「あんまり何もしたくないね~」


 2人共グダグダと無駄に時間を消費する中、パレットはカルピスを口に含みます。7倍に薄められたそれは、意外と彼女の好みに合っていたのでした。


「ん。7倍、いいじゃん。飲みやすいよこれ」

「はぁ? それはたまに飲むからでしょ。毎回だと物足りなくなるよ」

「そんなもんかな~」


 ミッチーに呆られながら、パレットはお菓子を食べようと手を伸ばします。そこにあったのは個包装のお菓子達。雪の宿やルマンド、バームロールなどが並んでいました。どのお菓子も庶民的で手軽なものばかりです。

 その中のひとつを選んでつまんだところで、突然ミッチーが叫びました。


「ちょ、そのカントリーマアムあたしの!」

「あ、そう? ごめんごめん」

「開けかけで戻さないでよ!」


 怒られたので戻そうとしたら更に怒られたので、パレットは結局カントリーマアムを口に放り込みます。本来なら美味しいはずの柔らかクッキーですが、事前のやり取りのせいであまり味を感じられませんでした。

 ミッチーは、自分が食べたかったお菓子を食べる友達の様子をじーっと眺めます。


「美味しかった?」

「いや怒鳴られて美味しく感じる訳ないじゃん」

「それは悪かったよ。ねぇ、パレチーはお菓子何が好き?」

「あっ、そうだ」


 お菓子の質問をされたところで、パレットは何かを思い出して持参してきたバッグの中をあさります。この突然の行動に、ミッチーは視線を彼女のバッグに移しました。


「何持ってきたの? お土産?」

「そう、お土産。これ、美味しいんだ。食べよっ」

「オール……パイン? パインなんてあったんだ」

「にへへ。あったんだなこれが。オールレーズンはたまに芯みたいなのがあるからちょっと苦手なんだけど、これならそんな事ないんだよ」


 パレットが持ってきたのはオールレーズンのパイナップル版、オールパインでした。そのいかにも夏らしい季節感あふれるお菓子の登場に、ミッチーの目は輝きます。


「ねぇ、くれるんでしょ、ちょーだい!」

「焦らない焦らない。はい、どうぞ」

「ひゃっほー! ンまぁ~いッ!」

「はや!」


 2枚入った個包装のオールパインを手渡されたミッチーは、速攻で袋を破って2枚のオールパインをパクパクとあっと言う間に食べてしまいました。その手際の良さにパレットは言葉を失うほどです。

 とは言え、美味しかったからこそのその行動に、持ってきて良かったなと彼女は嬉しくなったのでした。


「気に入ってくれて良かったよ」

「サクサクしっとりとしたところはオールレーズンと一緒だけど、中のパインの風味がしっかり味わえて甘さも控えめで、これだけでも十分満足出来るね」

「でしょ? ミッチーなら気に入ってくれると思ったよ」


 その後もお菓子談義は続き、楽しい時間はあっと言う間に過ぎていきます。話が一旦落ち着いて、次にミッチーのおすすめ動画を見たりとかしていると、ちょうどお昼の時間になったのでした。

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