第9話 バブクール
パレットとミッチーは今日も2人で遊んでいます。ただし、暑いのでパレットの部屋で。エアコンの冷風でいい感じに心地よい空間になっている室内で、2人は対戦ゲームをしていました。
「おっしゃー! 勝ったー!」
「くっ、油断したー」
2人が遊んでいたのはスマブラです。ひとしきり遊んだ戦績はパレットの6勝4敗。実力は拮抗していましたが、パレットの方が少し上手なようですね。負け越したのが悔しかったミッチーは、ゲームの変更を提案します。
「違うのやろう! 違うの!」
「いいけど。ちょっと休憩しよ」
「まぁいいけど……」
いつもカルピス薄味を嘆くミッチー用に、パレットはカルピス原液と冷水を別々に部屋に持ってきていました。自宅では少しでも濃くすると口うるさいらしく、そう言う監視の目がないこの状況において、ミッチーは少し贅沢な飲み方を所望します。
「好きな濃さで飲んでいい?」
「どうぞどうぞ」
「にへへへ~」
自分の望みが叶う喜びに彼女の顔は歪みまくり、パレットは若干引きました。ミッチーはそんな友達の反応を全く気にせず、豪快に原液を注ぎ、その後で水を注ぎます。この時、最初にコップに入れた氷がカランと鳴りました。
「この音! いいねぇ~!」
「夏の音って感じがするよね」
「にへへ。3倍で飲んでやるぜぇ~」
いつも7倍で飲んでいた彼女が、欲望に任せて普段の倍以上の濃度のカルピスに挑戦です。ぐいっと勢いよく飲んだその結果――むせました。まぁ当然の話ですよね。力いっぱいむせるミッチーの背中をパレットはさすります。
「ゲホッゲホッ」
「だ、大丈夫?」
「ありがと。濃くてすっごい美味しい!」
味の報告をする彼女の目は光り輝いていて、満面の笑みを受かべながらこの機会を作ってくれた友達に向かってぐっと力強くサムズアップをします。その表情を見られただけで、パレットは嬉しくなったのでした。
「でもやっぱ3倍はやりすぎたかな。水を足そう」
「結局5倍が一番だよね」
「カルピスの黄金律だよね」
「何それ~」
話によく分からないオチがついたところで、2人は顔を見わせて笑い合います。その後、何となくすぐにゲームを再開する雰囲気じゃなくなってしまい、流れで雑談モードに移行しました。
「これだけ暑いと部屋から出られなくならない?」
「まぁでも夜は窓を開ければ涼しいからね。風鈴も鳴るしさ」
「そっか」
「それにお風呂もクールなバブを使えばかなりひんやりするよ~」
パレットが夏の入浴事情を口にしたその途端、ミッチーの目が丸くなります。その反応が予想外だったので、パレットは首をかしげました。
「何?」
「パレチー、お風呂入るんだ?」
「入るよ、当然じゃん。ミッチーは違うの?」
「夏はやっぱりシャワーでしょ。よく湯船に浸かれるね」
そう、ミッチーはシャワー派だったのです。確かにシャワーで汗を流してすぐに着替えれば、心地良い感覚を覚える事が出来ます。それ自体は個人の好みなので問題のない発言だったのですが、後半の湯船派を否定する一言をパレットは聞き逃しませんでした。
「ミッチー……夏用に特化したバブの心地良さを知らないだなんて勿体ないよ……」
「え? そんなに?」
「バブの疲労回復効果にプラスして、湯上がりの爽快感が半端ないんだよ。シャワーじゃあこの快感は味わないなぁ」
「マジか。ちょっと興味出てきた!」
通販番組レベルのプレゼン力を発揮したパレットの言葉に、ミッチーの目は輝きます。さっきまで夏シャワー派だったのに即宗旨変えしてしまうほどの変わりようでした。幸い、ミッチー家でも親は湯船派なので、浸かろうと思えばすぐに浸かれる環境です。となれば、そこから先の行動は言うまでもありません。
彼女はすぐにバブクールの入手方法を聞き出して、帰りにスーパーに寄ったのでした。
「バブクールバブクール……あれ?」
ミッチーが商品棚を見つけた時、バブクールは売り切れていました。その後、他のスーパーやドラッグストアに寄ってみるものの、お目当ての商品は発見出来ず……。
地元ではバブクールは夏の早い時期に品切れになると言う事を知ったのは、その後の話だったのでした。
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