第8話 クーリッシュ

 パレットとミッチーはホームセンター帰りにコンビニに寄りました。まだまだ暑かったので体を冷やそうと思ったのです。

 店内に入った途端、ミッチーが嬉しそうにはしゃぎ出しました。


「うーん、天国ぅ~」

「どうする? 飲み物にする?」

「いーや、ここはアイスっしょ」


 ミッチーはすぐにアイス売り場に直行します。ちょっと雑誌を立ち読みしたかったパレットは友人の単純さにため息を吐き出しますが、すぐに後に続きました。

 アイス売り場に付くと、そこに並んでいる各種アイスを眺めながらミッチーがうなっています。


「うーん、どれがいいかな~。悩むね~」

「量が多いのがいいならスーパーカップでいいじゃん」

「いや、やっぱ味も重要だし」

「じゃあ……」


 パレットは売り場の中で味重視のアイスを指差しました。高級なアイスの代名詞、ハーゲンダッツです。当然ながらこの選択にもミッチーはいい顔をしませんでした。


「いや、これは自分の小遣いで買うものじゃないでしょ。300円とかさー」

「だよねー。ハードル高いよねー。じゃあガリガリ君は?」

「いや今はそんな気分じゃないし」

「いや色々注文が多いな君ィ」


 何を勧めてもすぐに却下する友人にパレットは呆れます。このまま人に勧めるものばかり探していてもつまらないと感じた彼女は、自分の買うアイスの品定めを始めました。

 売り場に並ぶアイス達からいくつかの候補を絞ったところで、ミッチーが話しかけてきます。


「パレチーはもう買うアイス決まった?」

「うーん、クーリッシュにしようかなぁ……」

「えーっ! 雪見だいふくとかにしないの? シェアしようよー」


 自分の都合を押し付けようとする友人にパレットは少し気を悪くしました。なので、少し抑えたトーンで切り返します。


「なんで?」

「えー。だってその方が……」

「なんで?」


 同じ言葉を繰り返した事でニュアンスが伝わったのか、ミッチーの勢いも大人しくなりました。そうして、焦ったように彼女も自分の買うアイスを決めます。


「わ、私はジャイアントコーンにしようかなっ。これ美味しいよね!」

「いいね。私も好きだよそれ」

「でもパレットはクーリッシュだもんね」

「う、うん……」


 パレットは出来ればミッチーと同じものを食べたかったものの、さっきのやり取りでクーリッシュ大好きっ子と認定されてしまったのでした。これは軽い反撃だなと思いつつ、パレットはクーリッシュを手に取ります。


 お互いに会計を済ませて2人はコンビニを出ました。外は相変わらず暑いものの、アイスを手にした2人は美味しく体を冷やす事で季節の暴力に対抗します。


「ジャイアントコーンうめぇ!」

「良かったねえ」

「え? パレチーすぐに食べないの?」

「こうやって体を冷やせるのもクーリッシュのいいところなのだ」


 すぐに食べ始めたミッチーとは違い、パレットはクーリッシュを体のあちこちに当て始めました。おしぼりで体を拭きまくるおっさんみたいな行為ではありましたけど、冷たくて気持ちがいいのでそれを優先してしまいます。

 クーリッシュのそう言う楽しみ方を目にしたミッチーは、口をとがらせました。


「なんかずるいなそれー」

「なら、ミッチーもクーリッシュにしたら良かったんだよ」

「ああ、その手があったーッ!」


 パレットに指摘されたミッチーは本気で悔しがります。どうやら同じものを買うと言う発想が彼女にはなかったようなのでした。そんな友人の間抜けなところを横目にしながら、彼女はクーリッシュのキャップを開けます。


「うーん、美味しっ!」

「美味しそうだね~」

「まあね。シェイクみたいなもんだし」

「一口ちょーだい!」


 ミッチーは目を輝かせながら懇願しました。間接キスになるため、パレットはそれを頑なに拒否します。すぐにその意味に気付いた彼女と違い、友達の食べているものを味わってみたいと言う事しか頭にないミッチーは、しばらくの間このわがままを言い続けたのでした。

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