第6話 扇風機

 その日、パレットはミッチーの家に遊びに来ていました。彼女の家は風がよく吹くのもあって、エアコンがありません。夏は家中の窓を開けっ放しにしているだけで心地良いのです。とは言え、扇風機くらいはあるのですけどね。


「ミッチー、来たよー」

「さあさあ、上がって上がって」

「お邪魔しまーす」


 友人に案内されて、パレットは彼女の部屋に案内されます。そこには年頃の女の子らしい可愛らしい内装と可愛らしい扇風機が。部屋には大きなサッシがあって、網戸仕様で全開になっていました。


「まぁ風に当たっててよ」

「ほーい」


 ミッチーが飲み物を用意している間、パレットは扇風機を独り占めしながら本棚に並んでいるマンガの単行本を吟味します。そこには流行りの少年マンガから少女マンガ、更にはネットで話題になったマンガなどが並んでいました。


「やっぱ、マンガを読むならミッチーんちが一番だわ……」


 パレットがミッチーの家に来る理由の半分くらいはこのマンガが目当て。彼女の本棚で作品を気に入って、自分でも買う事も多かったりします。ミッチー本人にオススメマンガを聞く事もあるのですけど、基本的には自分で読んでその時の判断で決める事の方が多い感じでした。


「おっ、ラノベ原作のマンガ発見。ミッチーにしては珍しいなあ……」


 パレットは興味を引くマンガを発見して本棚から引き抜きます。それはアニメにもなったラノベのコミカライズ作品でした。早速読もうとしたところで、ミッチーが飲み物を持って戻ってきました。


「まぁ麦茶だけどいいよね」

「いや麦茶がいいんだよ。ありがと」

「何読んでるの?」

「あ、このスライムのやつ」


 パレットがマンガのタイトルを口にしたその瞬間、ミッチーもその作品を気に入っていたのか、怒涛の推しトークが始まります。早口で繰り出される熱のこもったマシンガントークに、パレットは若干顔が引きつりました。

 今から読もうとしているのにネタバレ的に先の展開まで聞かされて辟易した彼女は、出された麦茶をごくりと喉に流し込みます。


「話はもういいよ。私これから読むんだから」

「あそっか。ごめんね」

「いや、いいけど……」


 この会話から気分を害した事を察したミッチーは、しばらく黙り込みました。そうして読書出来る雰囲気に戻ったところで、パレットは視線を紙面に戻します。

 彼女が漫画を読み始めたところで、その様子を眺めていたミッチーがある事に気付きました。


「ねぇ知ってる? 扇風機は背後から風を当てるのが気持ちいいんだよ」

「え?」


 話しすぎた事への罪滅ぼしなのか、ミッチーはパレットの背後に扇風機をセッティングしました。背中から風を受けた彼女は新鮮な刺激を受けます。


「おお、これはいいね」

「でしょ」


 その後は2人共読書タイムに入り、時間はあっと言う間に過ぎていきました。何冊か読んだところからのマンガ談義は穏やかな雰囲気で進み、そこから色んな方向に話は飛んでいき、夕方になるまで話は尽きなかったのでした。

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