第3話 カルピス濃度

 昼休み、猫耳娘のパレットは机に突っ伏していました。猫の遺伝子の強い彼女は昼間は強い眠気と戦う宿命を宿しています。なので、緊張感の途切れる休み時間は寝ている事が多いのでした。昼休みは至福の時間。今日も昼休みの時間はずうっと睡眠欲を満たせるはずでした。


「パレチー! 起きろー!」

「ひゃあ」


 そこに現れたのはミッチーです。彼女もまたネズミの遺伝子に強く影響されているはずなのですが、昼にも夜にも強いのでした。友達なのでいつもはパレットを気遣ってちょっかいを出す事はしないのですが、何か話したい事がある時はこうして強引に起こす悪い癖があるのです。

 耳元で叫ばれて、パレットはムクリと起き上がると目をこすります。


「何? 眠らせてよぉ……」

「そんな事より聞いてよパレチー!」

「ふぁ……?」


 さっきまで寝ていたのもあって、パレットはすぐには反応出来ません。ただ、目に飛び込んできた友達の顔が割と真剣だったので、両頬を叩くと無理やりに意識を覚醒させました。


「何かあったの?」

「ウチのママがね、カルピスを作ってくれるんだけど、いっつも薄いの! その濃度がママにとっては最適だって言いはるんだけど、おかしくない?」

「は? 薄けりゃ足せばいいじゃん」

「そのために部屋から台所まで行くのめんどいじゃん!」


 起こされた理由がしょーもない事だったと判明して、パレットは頭を抱えます。しかし、無理やり起こされたのもあってまたすぐに眠る事も出来ません。仕方なく、彼女は友達の話に付き合う事にしました。


「つまり何が言いたい訳?」

「パレチーはカルピスの濃度どのくらいがベスト?」


 そう質問するミッチーの顔は真剣です。そのマジ視線を浴びたパレットはここは真面目に回答しようと、カルピスの濃度について思考を巡らせました。


「カルピスウォーターがその濃さだと思うんだけど、私、正規の5倍ってちょっと濃いんだよね」

「えーっ! パレチーも7倍派なの?」

「7倍かどうかは分かんないけど、ちょい薄めが好きかな」

「私は5倍派だよ! 何ならもっと濃くていもいいし!」

「そ、そうなんだ……」


 ミッチーの熱いカルピス熱にパレットは圧倒されっぱなしです。この異論は認めない雰囲気に彼女は話を合わせるので精一杯でした。


 その後もカルピス談義は続き、その内に話が違う方向に暴走し始めます。そんなミッチーの愚痴を聞き流している内に、気が付けばパレットにとって貴重な昼休みはすっかり終わってしまったのでした。

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