第12話 双子の発明

私たちがやって来たのは工房の奥で、そこには一回り小さい機材が並んだ区画があった。


「おー坊主たち、どうした?きれいなねーちゃんを連れてきて、ナンパでもしたのか?」


通りかかったおじさんが、私たちを見て双子をからかった。


「ち、違うよ!」

「僕らが作った物を見てもらうだけだよ」


うふふ、あれくらいで顔を赤くするなんて、初心(うぶ)だなー。

恋愛はまだちょっと早いだろうけど、小さい男の子に異性と見られている事がそそる。

私もあんな風にからかってみたい。


「ここはあの二人専用の場所でしょうか?」


マリーが他の所と見比べながらおじさんに聞いた。


「そうとも、ドワーフの血を受け継いでいるだけあって技術は俺らと変わりない。

だが、まだガキだからなー。大きくて重たい物は持てないし作れねぇ」


「あー!またそうやって馬鹿にする」

「僕らだってすぐ力持ちになってやるからな」


事実を言ったまでなのだが、鼻で笑うような言い方をしたおじさんに双子が掴みかかる。

しかし、小さくて軽い二人は簡単に片手でいなされてしまった。

男子のすぐ手が出るところは理解できなかったが、この程度なら微笑ましく見れる。


それに、この国の人達は本当にやさしく、他人を敬うことができるんだなと感心した。

ロック様同様、実力があれば小さな子供でも認め、専用の工房まで作っている。

そんな人たちが今、魔物と食糧難に苦しめられている。

光の魔法の重要性が私の中で少しだけ上がった気がした。


「わかったわかった。俺が悪かったよ、がはは」


おじさんが笑いながら謝ると、双子もそれを聞いて大人しくなる。

やっぱり、お決まりのただのじゃれ合いだったのだ。


「ねーちゃん達にはつまらない場所だろうけど、こいつらが今作っている物は面白いぞ。

おだててもっとやる気にさせてやってくれ」


「子供扱いするな!」

「するなー!」


双子の抗議を無視して、おじさんは工房を去って行ってしまった。


「まったく、いつもあぁなんだ」

「気にしなくていいからね」


ぷりぷりしながらおじさんを見送っている。

あーむず痒い。あのおじさんのこと好きなんだね。って言ってしまいたい!

そんでもって私もあんな風に怒られたい。じゃれたい。

そのためにも今は我慢だ。まずは何より好感度。


「それで、もしかして私たちに見せてくれる物って、あのおじさんが言っていた物?」


私はそれらしき物がないか見渡しながら言った。


「うん、そうだよ」

「そうなんだけどなー」


自分たちのタイミングに水を差され、さっきまでの勢いが削がれている。


「まっ、いいか」

「とりあえず見てみてよ」


双子の一人、えっとたしかマルグリットが物置を開けて箱を取り出す。

それをテーブルに置くと私たちを手招きした。

蓋を手に持っているが、私たちが来るのを待っている。

そして、アルフレッドも蓋に手をかけると二人で開けてみせてくれた。


中に入っていたのは、太く短い十字架のような物。

鉄でできているような質感で、真ん中に穴が開いていて、先端がカッターのように尖っている。

風車のような形をしたそれを見て、私はひどく驚いた。


「こ、これって!」


思わず顔をぐっと近づけてしまう。


「セツナ様?」


私を呼ぶマリーの声が聞こえたが、私はそれから目が離せない。


「お、お姉さん?」

「どうしたの?」


私が急変したことに双子は少し怯えていた。

はっとした私は顔を箱から離す。


「あっ、ごめんね。驚かしちゃって」


双子同士で目を合わせる。


「もしかしてお姉さん」

「これを知っているの?」


その表情が少々不安げだった。


はうっ!

しまった。これは完全に失態だ。

この子たちはきっと、おじさん達に褒められた自分たちの発明を自慢したかったんだ。

それを私はうっかり、彼らよりも先にリアクションしてしまった。


あぁ、なんて寂しそうな顔をしているんだ。

どど、どうしよう?


「うん、ごめんね。実は知っているんだ」


もう誤魔化すことは叶わない。私は素直に答えた。

双子はさらに残念そうな顔をする。

そりゃそうだ。私を驚かせることができなかった上に、自分たちの発明でもなかったわけなのだから。


しかし、私が驚いたのは発明品が手裏剣だったからでは断じて無い。

それをなんとかして伝えよう。


「手で持ってみてもいい?」


私は双子の許可を取って、箱から一つを手にする。

慣れた手つきで持ち、親指で表面を軽くなでてみる。

うん、やっぱりすごい。


「これはね。私がいた所では手裏剣って言うんだ」


「「しゅりけん?」」


「そう、こんな風に構えて、投げて使う武器だよ」


私は腕だけ構えて投げるふりをする。


「使い方も知っているんだね。投げ方がちょっと違うけど」

「じゃあやっぱり僕らの発明じゃないのか」


双子は手作りの手裏剣を手に持つと、それぞれ眺めながら言った。


「でもね、こんなすごい手裏剣は初めて見たよ」


私の声に双子が顔を上げる。


私は手裏剣を窓から差し込む太陽光に当てるようにかざした。

機能美というものだろうか。人に危害を加える道具だけどきれいに輝いている。

この二人が作った手裏剣は、元いた世界の最新モデルにも劣らない。


よく見る昔の手裏剣だったら私もあんなには驚かない。

でもこの双子は、たった二人で人類の叡智に追い付いている。

これが双子の技術と錬金術が成せるワザなのだろう。

これを驚かずに何に驚く?


「手になじむね。この軽さでこのフィット感はすごいよ。

なによりこの薄さ。これなら飛距離だけでなく軌道も自由自在ね」


私は数枚手に持つと、さっとトランプのように並べて見せ、そっ指で隠すと一瞬で手品のように消してみせた。


「おー!」

「すごい!」


双子の顔がぱぁと明るくなる。

よかった。うまく持ち直せたようだ。


「お姉さん投げられるんでしょ」

「みせてみせて」


アルフレッドが私の手を掴み、マルグリットは箱を持って外へ向かった。

よし、リアクションに失敗した償いをしてあげよう。

私たちは連れられるまま外に出て、近くにあった木の所まで行く。


「「あれに向かって投げてみて」」


きらきらした期待の目。

そっか、作ったはいいけど自分たちよりうまく投げられる人がいないから、手裏剣の最高パフォーマンスを見たことがないのか。

それを察した私に気合が入る。

任せて、君たちの作った物がどれだけすごいか教えてあげる。


「じゃあいくよ」


双子は少し私から離れると、木の方へ目を向ける。

私は手に氣を込めると、全力で手裏剣を投げた。


シュッ!

パン!

ガッキーーーーン!!


まったく予期していなかった大きな音が、木よりもさらに奥で鳴り響く。


「えっ?」

「なに?」


双子も予想外の出来事にポカンとしていた。


「見に行ってみよう」


アルフレッドがそう言って走り始めると、マルグリットがそれについていく。

まずは木まで辿り着くと、手裏剣が刺さっていそうな場所を確認した。


「あっ、ここに穴が開いている」

「しかも貫通してない?」


少し興奮状態なのか、私たちのところまで届く大声で話している。

それから、穴が開いている方向へ双子はさらに走っていく。

私は投げ終わった姿勢のまま固まっていた。

なんだか嫌な予感がしてくる。


「こんな所まで飛んでた!」


どちらかが報告してくれる。

二人が止まったのは、50メートル以上先の城壁だった。

しばらく城壁の所で二人が何かしていたが、諦めたような感じでとぼとぼ戻って来る。


「めり込んじゃっていて取れなかった」

「こんな威力じゃないはずなんだけど…」


「ご、ごめんね。私…少し強く投げすぎちゃったみたい」


あははと笑って誤魔化そうとしたが、異常すぎる結果に双子は若干引いている。


「お、お姉さん。すごいんだね…」

「…うん」


違うの!私だってこんなことになるとは思っていなかった。

それだけ君たちの技術がすごかったんだよ!

でもそんな、責任を擦り付けるようなこと言えない。


その後、めり込んだ手裏剣は錬金工房のおじさん達に手伝ってもらって回収し、

私は"すごいパワーのお姉さん"の称号をもらって錬金工房を去った。


今日はもう部屋で大人しくしていよう。

へろへろになりながらお城の廊下を歩く。

自分の行動ゲージがみるみる減っていく様子が頭に浮かんだ。

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