第13話 街へ一緒にいこう
双子に怪力お姉さんと思われてから日付が変わり、朝を迎える。
小さい雲がちらほら浮いている程度で、あとは清々しい空。
窓から差し込む朝日がまぶしくて、思わず手で目を覆う。
ちゅんちゅんと小鳥たちの鳴き声が聞こえてきたり、まさに一日の始まり。
コンコン
「失礼します」
マリーが部屋に入ってきた。
「おはようご…ざいます」
両手をお腹のあたりに添え、目をつぶって丁寧にお辞儀するのがこれまでのマリーだったのだが、
今日はそれらを忘れ、ドアノブに手をかけたままだった。
少々とまどっている様子。
なぜなら、私がすでに目覚めていて着替えを済ませているから。
しかも、着ている服が普通の長袖とガウチョのようなズボン、靴は歩きやすいパンプス。
ドレス以外によくこんな服があったなと感心した。
「おはようマリー。たぶん今日も予定無しだよね?」
「はい、たしかにそうですが…」
なんでそんなものを着ているのか?
それは昨日のうちに今日の予定を考えていたからだ。
「今日は、キョウヤ様のお仕事に同行したい」
「ど、同行…ですか」
「うん、お城のことはわからないけれど、街の方だったら何か手伝えるかもしれない」
もちろんこれは方便。
手伝うということに嘘は無いが、一番の目的はキョウヤ様。
昨日はロック様との仲を進展させることができた。
双子とは微妙な結果に終わったが、気を取り直して今度はキョウヤ様ともお近づきになりたいのだ。
「よいお考えかと思いますが、キョウヤ様がお許しになるかどうか」
「うん、だからすぐにキョウヤ様のところへ行って聞いてみようよ。
まだ朝早いし、出発していないんじゃない?」
マリーはあからさまな困り顔で考える。
私の意思を尊重してあげたいが、どこまで自由にさせてよいのか測りかねていた。
もしかたら錬金工房での出来事も加味されているかもしれない。
「心配しないでよ。キョウヤ様にダメって言われたら諦めるし、良いって言ってくれてもキョウヤ様とマリーがいるんだから大丈夫でしょ」
「えっ?私も行くのですか?」
「えっ?来てくれないの?」
黙ったまま二人で見つめ合う。
うーん、異世界だからってわけじゃないけどまだまだ要領得ないなぁ。
なんやかんやあったけれど、とりあえずキョウヤ様がいるであろうお城の広間にやって来た。
軽めの装備をしている兵士が集まっていて、団長を待っているような感じだった。
この世界へ来る前に軍隊との共同作戦に参加したことがあったけれど、その時と比べるとなんというかちょっと緊張感が足りない。
全体的に若く、列も少し乱れている。
見回りだけということもあるのだろうが、ちょっと私が思っていたのと違った。
私たちは広間の隅っこでキョウヤ様を待つ。
兵士の何人かは私たちの存在に気が付いたが、特に何もなかった。
5分ほど待っていると、がやがやしていた広間がしんと静まり返り、兵士たちがようやく整列する。
兵士たちが向いている廊下の奥を見ていると、数人の兵士をつれて歩く白い騎士が歩いて来ていた。
コッコッと足音が静かに響き、否応なしに視線がそちらに向いてしまう。
表情は引き締まっていて、これから指示を出す上司の顔だった。
私の相手をしてくれていたときは違い、まさに威厳ある騎士。
この瞬間、私は完全にイケメン騎士に見惚れるモブキャラと化していた。
キョウヤ様が整列する兵士たちの前に立つ。
「おはよう、みんな。城下の被害は少なかったが、街の方はどうかまだわからない。
国民の生活を守るのが我々の使命だ、心してかかるぞ」
一斉に兵士たちが「はい」と返事をする。
穏やかに話したキョウヤ様に対して、兵士たちの反応はまさに軍団のそれ。
さきほどの緩んだ雰囲気はどこへやら、これがキョウヤ様のカリスマ性なのだきっと。
キョウヤ様は部隊ごとに細かい指示を出し、それを受けて次々とお城から出発していく。
残り数部隊となったところで、キョウヤ様が私たちに気が付いてくれた。
すべての部下に指示を出し終わると、直属の部下を待機させたままこちらへやってきてくれる。
「おはようございますセツナ様、マリー」
「お、おはようございます」
思わず顔が赤くなる。
聖なる巫女である私だけでなく、淑女の名前まで覚えて挨拶するキョウヤ様のやさしさに心を打たれてしまった。
綺麗な瞳や軽く微笑んでいる唇に目が吸い込まれる。これが美形の引力なのか?
着ている服もきれいで、掴みたくなってくる。
「ここで何をなさっているのですか?」
「はい、実はキョウヤ様のお手伝いがしたくて、ここへ来ました」
「私の…手伝いですか?」
ちょっと意外そうな反応があり、でも私の服装を見て本気であることを察してくれる。
「お気持ちはうれしいのですが、聖なる巫女であるセツナ様にそのようなことをさせるわけには…」
「そんなことを言わないでください。私もここの一員になりたいんです。
聖なる巫女という役目があったとしても、普通の人としても役に立ちたいんです」
我ながら良い事を言った。
キョウヤ様はうーむと悩んでいる。
もう一押しな気配、私はダメ押しとして目で訴えかけた。
「…わかりました。国王様には私から伝えますので、ここで待っていていただけますか?」
「ありがとうございます!」
やったー!
ちょっと図々しかったかもしれないけど、これくらいやらないとなんにも起きないよね。
国王様への報告を済ませたキョウヤ様が戻ってくると、私たちはキョウヤ様たちと一緒に街へ向かうことになった。
私はキョウヤ様と同じ馬に乗ることになる。毛並みが良くかわいい顔をしている。
キョウヤ様が先に乗り、私は引き上げてもらいキョウヤ様の前に座る。
背中いっぱいにキョウヤ様の体を感じる。おまけに両サイドから手綱を握るキョウヤ様の腕があって、これはほぼ抱きしめられているようなものだった。
初めて会った時もこうして一緒に乗ったが、自分の意思でここに来ているので感じ方が変わってくる。
なんというか、甘えに行ったみたいでちょっと恥ずかしい。
マリーは副隊長らしき人と一緒に乗っている。
手を振ると、マリーも小さく返してくれた。
城下へ出ると、職場へ向かう人々や、開店準備をしているお店で活気が出始めていた。
キョウヤ様の言う通り、城下の被害は大したことないようだった。
となると、魔物は私だけを狙って来ていて、ちゃんと統制がとれていることになる。
たしかにゲームでも好き勝手動くやつはいなかったけど、そこは違ってもよかったな。
中途半端なものなら逆に楽だけど、軍隊レベルで動かれるとかなり厄介になりそう…。
いつかやってくる戦闘に頭を悩まされていると、街並みが少し穏やかになってくる。
お城の周りは比較的裕福なお店や家があり、さらに外へ行くと一般市民の街といった感じだろう。
開けた場所で馬から降りると一人見張りを置き、全員並んで歩き始める。
私はさりげなくキョウヤ様の横をとり、マリーはいつも通り私の斜め後ろにいる。
「キョウヤ様、手伝うと言っておいてなんですが、今日は何をするんですか?」
「基本的には被害がないか見回りをしつつ、市民に話を伺っていきます。
それで何か困り事があれば手を貸していきます」
おぉ、なんて良くできた国なんだ。
こういうのって、平民は助けてもらえないってパターンが多くない?
優先順位はさすがに富裕層だったんだろうけど、ちゃんとすべての民が大事にされている。
「あっ、キョウヤ様。おはようございます」
街を歩いていると、こっちから行くまでもなく人々が集まってくる。
なんか女の人が多い気がするのは気のせいかな?
「魔物の大群が来たそうじゃないですか?お城は大丈夫だったんですか?」
「はい、負傷者も少なく追い返すことができました。
みなさんも何か被害にあわれていませんか?」
「魔物は空を飛んでいたので、ここへ来ませんでした」
「それはよかった。ここは外から近いですから、ずっと心配していました」
「あぁ…、なんてお優しいのでしょう」
色めき立つ女性たち、少しでもお近づきになろうと距離がどんどん狭くなっていく。
す、すごい。凄まじい人気だ。
こんなに親しく話してくれる騎士様がいたら、たしかに一言でも話してみたくなる。
あと、誰も私の存在に触れてくれなくて、居心地が悪い。
しかも気が付くと、部下たちがいなくなっている。
おそらく毎度のことなのだろう、囲まれる前に自分たちの業務へ向かったようだ。
みんなが落ち着くまでは、さすがに身を引いていようかな。
私はするっと人だかりを抜け出した。
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