第11話 ツインズ

ロック様と少し打ち解けることができて私の気分はるんるんだった。

足取りも軽く、ハイヒールなんて履いていなかったらスキップしたいくらいだ。

が、その歩みはすぐに止まる。

すっかり満足して自分の部屋に戻ろうとしていたがまだ午前中である。

三日後のメニューを考えるでもいいが、そんなことは出歩けない夜やればいい。

キョウヤ様はお城にいないし、ジル様は魔術塔にこもっている。

そうなると、お城散策を兼ねてアッシュを探してみるのも悪くない。


「ねぇマリー。お城ってかなり広いから、まだ私が行ったことがない所たくさんあるよね?」


振り返ると、昨日と同じように斜め後ろにマリーがいる。


「これからそちらを見てみたいということでしょうか?」


「そういうこと」


「そうですねー」


マリーは案内するにめぼしい場所を考える。

真剣な顔をしている。同じ歳くらいだというのにもう一人前に働いている。

私はもっと小さい時から働いているが、この世界というかこの街には高校とか大学といった施設はないのだろうか?


「あのさ、マリー」


「なんでしょう?」


「マリーっていつからお城で働いているの?」


「二年くらい前からになります」


中卒で就職といった感じか。

そう考えると、勝手に厳しい家庭事情を想像してしまう。


「そうなんだ。じゃあ、なんでお城で働くことにしたの?」


「ここで働いている理由ですか?」


マリーがきょとんとした顔をする。

言いたくない事情があるといった反応ではないが、なんか変な聞き方したかな?


「そうですね、私の親戚がすでにここで働いていて、色々とお話を伺っていました。

それで、王族のお世話をさせていただけから光栄だと思ったからです」


軽く微笑みながらマリーは言った。

淑女であることに誇りを持っていて、楽しく働けているのだろう。

ゲームでは個性が無いキャラだと思っていたが、実はかわいい上にいい子である。

マリーには幸せになってほしいなー、なんて。


でも聞きたかったことはちょっと違うんだよなー。

王族とか光栄とかじゃなくて、夢とか目標みたいなものが知りたかったんだけど、今はやめておこうかな。本当に変な事を聞いてしまって嫌われたくないし。


「そっか、教えてくれてありがとう。それでどこに行くか決まった?」


「もう、セツナ様が話を逸らしたんじゃないですか」


いい返しがかえってくるようになってきた。

しばらくはマリーのお世話になるんだし、少しずつ話してもらえればいいか。


「資料室、ダンスホール、厨房…」


マリーが思いついた先から施設名を挙げていく。


「錬金工房…」


「錬金!?」


「へっ?」


「今、錬金って言った?それって錬金術のこと?」


「は、はい。そうですが…」


そういえば、ゲームでアイテムをパワーアップさせる方法が錬金術だった気がする。

アイテムと宝石を合わせてると、ぱぁーって輝いて、ゴージャスになって手元に戻って来るやつ。

うおー、さすが剣と魔法の世界。魔術だけでなく錬金術もある。

なんか、きらきらした部屋が想像できる。行ってみたい。

しかも錬金術といえば、あのキャラに会えるチャンスかもしれない。


「そこへ行きましょう!」


私は鼻息を荒くして提案する。


「錬金工房にですか?」


マリーは私がどうしてそんな所に行きたいのかわからないといった様子だったが、くすっと笑って了承してくれた。


「セツナ様は、好奇心旺盛ですね」


「そうかな?誰でも一度は見たいと思うんだけどなー」


んー、やっぱりこの世界の常識とか認識がわかっていないな私。

少しずつでもすり合わせていかないと。


錬金工房は、お城を挟んで魔術塔の反対側にあった。

けっこう歩かされたので、頭の中のお城マップがまた少し更新される。

魔術塔と同じようにお城から離れていて、倉庫のような建物がいくつも並んでいる。

至る所に岩や石が積み上げられていて、近づくにつれてちょっと暑くなってくる。

まさに工房といった感じで、社会科見学に来ている気分だった。


マリーが近くにいたおじさん達に話しかけ、見学する許可を取る。

遠くから見る分には構わないし、近づきたい場合はちゃんと許可を取るという約束でOKをもらった。


もっと魔術寄りな設備を想像していたが、釜戸やハンマーなどの音ばかりが聞こえてきて、工房要素がかなり大きい。

おまけに力自慢のおじさん達ばかりで、思っていたのとはかけ離れている。

ちなみに私が想像していたのは、女の人達がたくさんの宝石を並べているような感じ。


「暑いね」


「そうですね」


そっか、だからマリーは不思議そうにしていたのか。

これはこれで面白かったけれど、遠くから見ることしかできないならもういいかな。

これだけ広いと、あのキャラに会える可能性も低そうだし。

私がマリーに引き返すことを提案しようとすると、前方に二人の子供が姿を現した。

二人は私たちに気が付くと、少しごにょごにょ話し合った後、こちらへ元気よく駆け寄って来る。


「「お姉さん、もしかして聖なる巫女?」」


子供のかわいい声がきれいにハモる。


二人はそっくりというか瓜二つの双子だった。実は直接双子を見るのはこれが初めてだったりする。

歳は見たところ10歳いかないくらい。

オーバーオールの作業着を着ていて、おでこにはゴーグルが付けられている。

紺の髪色が清々しく、煤(すす)を付けたあどけない顔が母性に訴えかけてくる。

一番印象的なのが茶色と青のオッドアイ。不思議なことに、まったく同じ姿の双子だが目の色だけは逆になっていた。

これは区別するのに大変助かる。


「そうだよ」


膝に手をついて屈み、着ぐるみを着て子供を相手している気分になる。

だって、まだ自分が聖なる巫女である自覚が足りないんだもん。


「すごい、本物だ!」

「きれい!」


はぁ愛おしい。

このまま二人を抱きしめてしまいたい。いや、もう汚れなんて気にせずやってしまうか?


そう、私が会いたかったキャラこそこの双子。なんとイケメンナイツの攻略対象なのである。

たしか、人間とドワーフのハーフで、村を魔物に襲われてしまい、偶然生き残ったところを助けてもらい、ここで働いている設定だったと思う。

むろん彼らは戦えないが、攻略を進めると戦闘が有利になるアイテムをくれる。


「二人はここで働いているの?」


一応初対面のなので、知らないふりをしておく。


「そうだよ、ここで魔物を倒す武器を作っているんだ」

「昨日は大きい奴を倒すために返しの付いた矢を作ったんだよ」


ちょっと物騒なことを言っているが、まさに男の子といった活発な感じが実によい。


「そうだ、今日は剣をつくっているんだよ」

「見て行ってよ、すごいんだよ」


双子が私の両手を取って少し引っ張る。

小さい手が私の手のひらを掴んでいる。かわいくてつい握り返してしまった。


「セツナ様、どうされますか?」


マリーを見てみると、額に汗が浮かんできている。

私よりも着込んでいそうなマリーは、もしかしたらもうここを離れたいのかもしれない。

彼女のことを思うなら今日はやめておくべきだ。

しかし、この子達の誘いを断るのはちょっと…。


「あっ、もしかしてお姉さん達暑いの?」

「そうだよ、あれ付けてないじゃん」


双子がそう言って、首元から青い石が付いたネックレスを取り出す。


「これ貸してあげるよ」

「涼しくなるよ」


双子の片割れに一つもらうと、それに頭を通す。

すると、真上から冷気が下りて来たように涼しくなってきた。


「なにこれ!すごい」


熱さを和らげる忍術はいくつかあるが、こんなピンポイントで効果がある術はない。

マリーにも手渡して付けてもらうと、マリーもびっくりしていた。


「でも、これが無いと君たちが…」


「大丈夫、僕たちは無しでも慣れているから」

「だから一緒にいこう」


私はマリーの様子を伺った。


「これでしたら、セツナ様が体調を崩される心配もなくなったので、よいかと思います」


自分よりも私を心配してくれていたのか。

頭が下がります。


「じゃあ、アル…じゃなくて、その前に二人の名前を聞いてもいいかな?」


二人は元気よく自己紹介をしてくれる。


「僕はアルフレッド」

「僕はマルグリット」


私たちは双子に連れられ、工房の奥へと案内された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る