第4話 獣耳のあいつ

私はキョウヤ様につれられて国王様の前へやってきた。

それはもう立派なもので、真っ赤な絨毯が玉座まで伸び、高い天井にはシャンデリア、壁には大きな窓と彫刻、玉座の後ろにはこれまた大きなタペストリーと高価そうな物がちらほら。

絨毯の両側には貴族や神官らしき人達が詰めかけていて、全員が私から目を離さない。

なんともいたたまれない気分、中学校の卒業式を思い出す。


「よく来てくださった聖なる巫女よ」


私が国王様の前に辿り着き、キョウヤ様が膝をつくと国王様がそう言った。

もっと偉そうな感じを想像していたが、その表情から歓迎されていることがわかる。

私も跪いた方がいいのかな?とあわあわしていると、国王様の方からそのままでよいと言ってくれた。


「すみません、一つお尋ねしてもよろしいですか?」


「なんでしょう?」


「その、私が聖なる巫女で本当に合っているのですか?」


周りがざわざわしだす。


「それについてはー…」


国王様が隣に控えている側近の方を見る。

側近は国王様と目が合うと、一歩前に出てこう言った。


「それについては、こちらとしてもまだ確証が無いと言わざる負えません。残念ながら…。

ただ、あなたは紅の光が落ちた所にいて、魔物をなんらかの力で退け、魔術師ターバも触接触れて確信したと言っていました。

ですから、あなたが本当に聖なる巫女様なのかわかるまで、こちらで共に生活していただきたいと思っています」


魔術師ターバ?

あぁ、魔法アイテムを生成する時に出てくるおばあちゃんのことか。

私触れたってことは、もしかして病院にいたあのおばあちゃんかな?

あー、言われてみればボイスが一緒だった気がしなくもない。

イケメン以外興味なかったから自信無いけど。

いやいや、それよりも。


「ここで生活?私がですが?」


「はい、衣食住はもちろん、身の回りのお世話も淑女達にさせます。

その代わりと言ってはなんですが、色々と協力していただくことがあると思います」


うわー本当に、ゲームと同じようにお城での生活が始まるんだ。

聖なる巫女の生活ってゲームだとイベントでちょっとしか出てこないけど、なんか優雅なイメージがある。

お菓子や紅茶が出てきたり、お庭を散歩したり、大浴場に入ったり。

それがこれから毎日?なんかわくわくしてくる。


「わかりました。お世話になります」


私は深々とお辞儀をした。


「そうか、協力感謝します。

ではキョウヤ、巫女様を準備しておいたお部屋に案内してさしあげなさい」


「はっ」


キョウヤ様は立ち上がって私に向き直る。


「巫女様、こちらです」


私はもう一度国王様に頭を下げると、キョウヤ様につづいて玉座のある部屋を出た。

キョウヤ様にお城の奥へと案内される。

広くてきれいな庭にはたくさんの花が咲き、お茶を飲むようなテーブルがある。

廊下にはいくつも部屋があり、花や彫刻、壺や剣などたくさんの物が飾られている。

そして、すれ違う人がみな私たちに道を譲り、通り過ぎるまで頭を下げる。

頭を下げている相手はキョウヤ様なんだろうけど、立派な大人たちがかしこまっているとなぜか申し訳ない気持ちになってくる。

これでもし私が聖なる巫女でなかったらどうしよう?なんて不安にもなってしまう。


「おい」


後ろからダンディな声で呼び止められる。

振り返ってみると、そこにはガタイのいい男性がいた。


色は違うがキョウヤ様と同じコートを肩にかけ、逞しい二の腕と腹筋を見せびらかし、ゴツイ剣を背負っている。

イケメンではあるが、鋭い眼差しと黒いボサボサヘアーが少し台無しにしている。

しかし、それを帳消しにするもっとも注目すべきあの獣耳!


彼はイケメンナイツの一人、ロック=バード様。

獣耳がなければアウトオブ眼中だったが、獣耳につられて攻略を進めてみると意外とかわいい一面があるツンデレ。


何を警戒してるのか?獣耳がひくひくと動いている。

かわいい、触りたい。


「言葉遣いに気をつけろといつも言っているだろ。

この方は聖なる巫女様だぞ、失礼な態度をとるな」


キョウヤ様がロック様を諫める。

一見仲が悪そうだが、お互い実力を認め合っているライバル。

第三者としては、イケメン同士のちょっとした口喧嘩ならむしろ聞きたいくらいである。


「聖なる巫女だ?」


ロック様が私を軽く睨む。


「おい!」


その態度にキョウヤ様が怒り、私とロック様の間に入る。


「ただの女じゃないのはたしかなようだが」


「どういう意味だ?」


「どういう意味って、お前も気が付いているんだろ?」


「…!」


キョウヤ様が黙ってしまう。

私のいったい何に二人は気が付いているのだろうか?


「おいお前」


「ロック!巫女様に対してお前呼ばわりなど」


「じゃあ、なんて呼べばいい?」


「…なんて」


キョウヤ様が重大な事に気が付いて固まっている。

そうだ、私は一方的にキョウヤ様のことを知っていて、キョウヤ様は私を巫女様と始めから呼ぶ、故に自己紹介が実はまだだったりする。


「あ、あの、私は望…いえ、セツナ=モチヅキといいます」


私が申し訳なさそうに名乗ると、ロック様が大笑いを始めた。


「あはははは、あれだけ偉そうな事を言っておいて名前すら知らないとはな。

女の事になるとお前は昔からどこか抜けているよな」


あー、キョウヤ様の顔が赤くなっていく。

でも大丈夫です。そのちょっと疎いところが好きです!


「それでだセツナ、お前はなんで気配を消しているんだ?

それとも、聖なる巫女が特別なだけか?」


うっ!気配を消すのはクノイチの基本中の基本。むしろ気配を出す方が大変なくらい体にしみ込んでいる。

私が普通の女子じゃないことを、この二人は気が付いていたのか。

さすがイケメンナイツ。ゲームではあまり出てこないけど、実力者であるのはたしかである。


…たしかなんだけど。


「やめないか。巫女様…セツナ様が困っているではないか」


キョウヤ様は恥から立ち直るが、ロック様は未だに私から目を離さない。


「はいはい、悪かったよ」


ロック様が頭を掻く。

と見せかけて背中の大剣い手をかけようとした。


その瞬間、ロック様から私を目掛けて攻撃の意思が向けられる。


ちょっとでも時間があれば、イケメンナイツが聖なる巫女に攻撃するわけがないとわかった。

おそらく、あの大剣を寸止めして私の反応が見たかっただけだろう。

しかし、脊髄反射で目で牽制し、氣を練って戦闘態勢に入ってしまった。

ロック様には今、自分を殺そうとする者が見えているはずである。


「あっ、しまった!」

「ぐっ…」

「えっ?」


我に返った私は一歩引き、

予想外の反撃を受けたロック様はたじろぎ、

突然変わった私の気配にキョウヤ様は驚いた。


「「「………」」」


気まずい空気が流れる。

しょうがないじゃない、私に敵意を向けるなんて悪い奴しかいなかったんだもん。


「ちっ」


ロック様が舌打ちをして私たちに背を向ける。


「お前の正体、かならず暴いてやるからな」


そう言い残し、ロック様は去って行った。


「お、おい」


キョウヤ様はそれを止めようとしたが、さっきの私が気になって強く言えない様子だった。

戸惑いを秘めた目をし、何か言いたげだが何も言わないキョウヤ様。


「その、許してやってください。悪い奴ではないのですが、態度が悪いところがありまして…」


「いえ、大丈夫です。気にしてませんから、あはは」


あ、あれ?

これってもしかしてまずいんじゃないの?

二人は私が普通じゃないことに気が付いていて、その上さっきの出来事まで起こしてしまった。

ねぇ、ゲームと同じようにきゃっきゃうふふな恋愛がしたいんだけど大丈夫だよね?

なんか大変な世界だし、女の子でもちょっと逞しいくらいの方がいいよね?


嫌な予感が拭えない。


それはなぜか。

気配や牽制の件もあるんだけど。


あの二人、クノイチの世界で測ると高校生レベル。

何が言いたいかっていうと、私よりも遥かに弱いということ。

これがいったい何を意味するのか、今の私にはわかるはずもない。

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